Vol.48 Tony MacAlpine / May 2015

Tony MacAlpine


Photo by Alex Solca

Tony MacAlpine (トニー・マカパイン)が新作「Concrete Gardens」をリリースした。
80年代後半にはポール・ギルバートやヴィニー・ムーアなどと共に光速のテクニックを操る新世代ギタリストとして認知されていたトニーであるが、その後は自らの音楽キャリアを築いていく中でスティーヴ・ヴァイのバンドへの参加やバニー・ ブルネル、デニス・チャンバースとのプロジェクト CABでの活動など多岐に渡って活躍し、そのハイセンスな音楽性を披露してきた。
今回の作品においてもハードなサウンドとメロディックかつドラマチックな展開が融合した楽曲が見事に散りばめられており、トニーの高度なギターテクニック、そしてコンポーザーとしての高い能力が存分に発揮された作品に仕上がっている。 新作「Concrete Gardens」についてトニーに訊いた。


Photo by Alex Solca

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : 新作「Concrete Gardens」ではどういった作品を目指しましたか?アルバムのコンセプトについてお聞かせ下さい。
Tony MacAlpine (以下TM) : アルバムを作る時や楽曲を作る時に自分の中でコンセプトを設けるようなことは一切しないよ。作曲には多くの時間を費やし、そのプロセスでは目標を立ててそこを目指すということは一切せず、自然発生的に楽曲を書くようにしている。その音楽に物語が存在しなければ、楽曲は完成しない。また、アルバムに参加するメンバーの選択も作品に大きな影響を与える。メンバーによって実際のサウンドや音楽の方向性が決定すると言っても過言ではない。

MM : アルバムに収録されている各曲の曲作りやレコーディングはどのように進められたのでしょうか?
TM : 「Concrete Gardens」の曲作りとレコーディングにはおよそ1年かかった。自分とPRIMAL FEARのドラマー、Aquiles PriesterとベーシストのPete Griffin、Sean Delson、Lucky Islamがその作業に関わっている。まず、自分の自宅スタジオで基本のトラックをレコーディングし、その後のオーバーダブ作業は各メンバーがそれぞれ希望するスタジオでレコーディングを行った。複雑な譜面が沢山存在していて、各メンバーはその譜面に従ってそれぞれのトラックを録音してもらった。アルバムのミックスはブラジルのAdair Daufembachが担当し、マスタリングは伝説のマスタリング・エンジニアSevaに担当してもらった。

MM : “Man In A Metal Cage”、”Epic”、そして”Napoleon’s Puppet”などはヘヴィなパートと中間部におけるメロディックな展開の対比が美しいですが、曲を構成する上であなたが心掛けていることについてお聞かせ下さい。
TM : 自分の音楽は全て自然に出来上がるものだと思っている。曲を作る時に何かを心掛けるということはしない。曲を作るというプロセスはナチュラルでなければならないし、そうでなければ作る意味が無い。自分にとって音楽は川の流れと一緒だ。自然の流れの中で物語を伝えなければならない。リスナーはその出来上がった楽曲を聴いて、自分なりの感情を抱くことになる。自分自身も含めてね。
楽曲のより良い芸術的要素を得るために、自分で作った曲を何度も聴き直している。その曲が自分の感情に触れて、その時の自分の考え方に沿っていて、なおかつ真実だと思えるものであれば、アルバムに収録される。基準を満たさない楽曲を棚にしまい込むことも決して躊躇しない。また別の時間や場所でやり直す機会が出て来ることだってある訳だから。

MM : “Square Circles”ではJeff Loomisが参加していますが、この曲に彼が参加することになった経緯についてお聞かせ下さい。彼との共演は如何でしたか?
TM : Jeffは良き友人でもあり、かなり前から彼のプレイに惚れ込んでいたのさ。彼のライヴにおける演奏のエネルギーは凄まじいものがある。だからEMGTVで「Concrete Gardens」のライヴ映像収録を行い、Jeffにも参加してもらった時も一緒にプレイできてとても楽しかった。アルバムで”Square Circles”のソロを弾いてもらった時は全て彼のスタジオでレコーディングを行い、そのテイクを送ってもらっただけなので、実際にライヴ環境で一緒に色々と実験できたのはEMGTVの時だけだよ。

MM : “Exhibitionist Blvd.”や”Poison Cookies”ではフレーズの間の取り方やギターの歌わせ方の一部にスティーヴ・ヴァイのようなニュアンスも感じ取れたのですが・・。
TM : 1986年にリリースしたファースト・アルバムの頃から独自の間の取り方やメロディを使った音楽を作り続けている。音楽の作曲作業に関して、自分に最も影響を与えてくれたのは音楽を続けたいという強い気持ちと世に出回っている豊富なピアノ音楽の楽譜の数々だ。できる限り多くのピアノ譜面を読み続けることが自分に多くの影響を与えてくれた。人々が音楽を聴く中で感じることは、その人自身の音楽における望みや欲、そして好き嫌いによって支配されているというのはつじつまの合う話だと思う。

MM : アルバムは最後に収録されているピアノ曲”Maiden’s Wish”でクールダウンし幕を閉じます。ピアノ曲をアルバムの最後に収録することにしたのはなぜでしょうか?
TM : ショパンが作曲したにも関わらず、失われてしまった楽曲が存在している。今なお失われずに残っている楽曲の中にはショパンの作品とされているものもあるが、実際には疑わしかったりする場合もある。幸運なことに1847〜1860年の間にショパンの友人で素晴らしいピアニスト/作曲家のFranz LisztがOp.74の楽曲をアレンジして、「Six Chants polonais, S.480」と題されたピアノ楽譜のセットを残してくれている。これはその後にコンサートや録音物として非常にポピュラーなものとなった。その6つとは:

1. Mädchens Wünsch (No. 1: Życzenie – The Wish)
2. Frühling (No. 2: Wiosna – Spring)
3. Das Ringlein (No. 14: Pierścień – The Ring)
4. Bacchanal (No. 4: Hulanka – Merrymaking)
5. Meine Freuden (No. 12: Moja pieszczotka – My Darling)
6. Heimkehr (No. 15: Narzeczony – The Bridegroom)

このセットの中でも1と5は昔から大好きな楽曲だった。そういった背景もあって今回の「Concrete Gardens」にそのうちの1曲を収録した訳だ。


Photo by Alex Solca

MM : あなたのピアノプレイからは跳ねるようなギタリスト・フィーリングの心地よい躍動感が感じられました。エディ(ヴァンヘイレン)がピアノをプレイする際にも同じようなヴァイヴを感じるのですが、(良い意味で)ギタリストならではのタイム感が影響するのでしょうか?
TM : 君が感じているようなヴァイヴは私には分からないけど、エディ・ヴァンヘイレンのギタープレイは昔から大好きだったよ。もしかしたら、ピアノの楽譜を読んでいる中で彼から何らかの影響を受けている可能性もあるかもしれないね!

MM : 今作はあなたが持っているコンポーザーとしての曲の構築力、メロディ創作力をあらためて知らしめる素晴らしい作品ですが、音楽キャリアの中でこれら能力を培い、発展させるためにあなたはどういった取り組みを行ってきたのでしょうか?詳細についてお聞かせ下さい。
TM : 今の音楽業界は昔とは明らかに変わってしまった。この20年の間にアナログ盤から8トラックへ、カセットテープからCDへ、そして更にデジタル・ダウンロードへと音楽はその姿を変えていった。今の音楽業界は楽曲を売るだけではない、更に幅の広い要素を取り込んだ業界へと進化したと言えるだろう。私のスキルは音楽を作ることであって、ビジネス的なものではない。自分がやるべきことをこれからも認識し続けることができれば、これからも今までと同じように沢山のギターやピアノの作品を世に出していくことができると自分では思っているよ。

MM : 作品ではシュレッドなテクニカルな部分は勿論ですが、ベンド、ヴィヴラートといった部分でのニュアンス、ギターの歌わせ方が絶妙で聴き手を惹き込みます。このあたりの派手ではないけれども本当に重要なテクニックについてはどのように考えていますか?
TM : ギタリストの演奏レベルがここ数年の間に急激に進歩したのはギタープレイだけが理由ではない。アンプの他にピックアップやブリッジ、電子部品といった楽器を構成する様々なコンポーネントの質が向上していることも人々が思っている以上に大きな理由のひとつになっている。音楽の技術的な話に関して、私は5才の時にマサチューセッツ州のSpringfield Conservatory of Musicで音楽を始め、その頃からテクニックは単なるツールでしかないと教えられた。ミュージシャンとしての完全性を得るにはテクニックが最も重要な要素ではないということだ。自分はどちらかというとエモーショナルな側面から音楽を演奏していて、難易度の高いテクニカルなプレイに関してはそれほど重要ではないと思っている。むしろ、音楽という真実を忠実に表現することの方が重要だと思っている。だから素晴らしいテクニカルなプレイができるプレイヤーは多いものの、リスナーの心に響くプレイができないプレイヤーが多いのもそのためだ。音楽を作る中で、感情が最も重要な要素だ。私が思うに、それがなければ・・・何の面白味もない。

MM : アルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか? 曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
TM : アルバムの曲は2014年の夏と冬の間に全て作曲されている。曲によっては非常に短い期間で書き終えているものもあれば、逆に長い時間を要したものもあった。 “Maiden’s Wish”は楽譜を見て覚えた曲で自分が書いた曲ではない。楽曲によってはある特定の場所を頭に思い描きながら作った。 例えば”Sierra Morena”はスペインのイベリア半島にある山脈をテーマにしているし、”Red Giant”は太陽系に存在する大きな星を表現している。 “Concrete Gardens”や”Exhibitionist Blvd.”は最初の方に書いた曲で考え方やコンセプトを描いた楽曲だ。 “Epic”はアルバムに収録されているアレンジに落ち着くまでに何度も変更を行い、完成に時間を要した曲だ。 “Man In A Metal Cage”は試験飛行のテスト・パイロットを頭に思い描きながら書いた曲だ。飛行機等の進化をテーマにしたドキュメンタリー番組を時々テレビで見ては楽しんでいるよ。 “Square Circles”は最後の方に書いた曲で、Jeff Loomisのプレイを思い描きながら書いた。 二人でプレイできるクールな曲が欲しかったんだ。”Poison Cookies”やその他の楽曲は作曲期間中の半ば頃に書いていて、個人的な感情やフィクションをテーマにしている曲が多い。

MM : ところであなたは日本人ギタリスト ISAOのアルバム「Spark7」にゲストとして参加していますが、参加の経緯について教えて下さい。彼との共演は如何でしたか?
TM : ベーシストのPhilip Bynoeから連絡をもらい、ISAOが私に彼のアルバムに参加して欲しいということを聞いたんだ。収録されたギター・パートは自分のスタジオでレコーディングしたので、実際にはISAOと一緒にプレイした訳ではないが、彼が送ってきてくれた楽曲は素晴らしいエネルギーに満ちあふれていたし、演奏していてとても楽しかったよ!

MM : 今回のレコーディングで使用しているギター、機材を教えて下さい。
TM : ギターはIbanezの7弦と8弦スルーネックを使った。フロイドローズとIbanezオリジナルのトレモロ・システムが搭載されている。ピックアップはEMGだ。アンプは、ライヴ時にHughes & Kettner Coreblade、スタジオではTriAmpを使っている。ベダル類はErnie Ballのボリュームペダルとワウペダル、それにVoodoo LabのペダルをいくつかとSource Audioのディストーションも使っている。

MM : 日本のファンへメッセージをお願いします。
TM : 世界中に存在する真の音楽を楽しんでくれるリスナーたちのために音楽を作ることができてとても嬉しいと思っている。その中でも日本は自分がプレイしていて最も楽しいと思える場所のひとつだ。またすぐに日本の皆さんにお会いできるのを楽しみにしています!
 
Tony MacAlpine Official Site : http://www.tonymacalpine.com/
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Tony MacAlpine Official twitter : www.twitter.com/tonymacalpine
 


Tony MacAlpine / Concrete Gardens

1. Exhibitionist Blvd.
2. The King’s Rhapsody
3. Man In A Metal Cage
4. Poison Cookies
5. Epic
6. Napoleon’s Puppet
7. Sierra Morena
8. Square Circles
9. Red Giant
10. Confessions of a Medieval Monument
11. Concrete Gardens
12. Maiden’s Wish