Carl Verheyen
LA音楽シーンで”ファーストコール”のセッションギタリストとして、これまでにビージーズ、リトル・リチャード、ジョン・フォガティといった数々の大物アーティストとの共演や「STAR TREK」や「ミッションインポジブル 4」といった有名映画作品のサウンドトラックへの参加に至るまで多大な実績を築いているCarl Verheyen (カール・ヴァーヘイエン)。
自身のソロ作品やCarl Verheyen Bandにおいても玄人好みの熱心な音楽ファンを中心に米国、ヨーロッパで支持を集めている。
今回、カールは2001年にリリースされたソロ・アコースティック作品「Guitar Improvisations」に続く第二弾のソロ・アコースティック作品「ALONE」をリリース。
パット・メセニーの”Last Train Home”やピーター・ガブリエルの”Mercy Street”をはじめ、これまでにカールが影響を受けてきた楽曲の数々がカールならではの美しいアレンジで聴く者を惹きつける作品となっている。
新作「ALONE」の内容やアコースティックギターのプレイにおけるアプローチ方法についてカールに訊いた。
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Yuichiro Chikamochi
Muse On Muse (以下MM) : 昨年秋のヨーロッパでのMUSTANG RUN TOUR 2014は如何でしたか?
Carl Verheyen (以下CV) : 音楽的に素晴らしかったよ!バンドは毎晩調子を上げていったし、オーディエンスもとても熱心だった。
MM : ツアーで特に印象に残ったことについてお聞かせ下さい。
CV : スコットランドのギターフェスに参加できたのは楽しかったな。あと、イタリアのアマンドーラという町で、町の庁舎で行われたとある式典で表彰されたんだ。この土地にまつわる曲を書いたことで、町への“鍵”を贈られてね。本当に思い出深い夜がいくつもあった。
MM : あなたにとってトリオ編成の魅力はどういった点にありますか?
CV : “音で埋め尽くすこともできれば、静寂を保つこともできる広大な音の空間”といった感じかな。それをコントロールするのは自分のギタートーン次第で、退屈な瞬間が全くないといえる。
MM : トリオでプレイする際にあなたがサウンド面やギタープレイの部分で心掛けていることについてお聞かせ下さい。
CV : クリーン時にはステレオディレイを使ってステレオサウンドを再現するセッティングで、時々コーラスやハーモナイザーを使ってステレオモジュレーションっぽくすることもある。ソロの時はさらにアンプを二台追加して、ウェットとドライの二種類のサウンドを使い分けるステレオセッティングだね。で、この二つをA/Bスイッチでオーガニックに切り替えるので、切り替える時に音が途切れることもない。音は空間に残ったままになるので、大変な部分といえば、切れ目なく四つのアンプ機材を使うことかな。
MM : 今後もカール・ヴァーヘイエン・バンドはスチュワート・ハム(Ba.)、ジョン・メイダー(Ds.)のメンバーで活動していく予定でしょうか?
CV : この春、スチュワートはジェニファー・バトゥンとツアーに出るから、今回はジョン・メイダーとデイヴ・マロッタを起用する予定だ。人手が足りない時はウォルフレード・レイエスJr.とバーニー・ドレゼルも使うかな。全員現役のプロだから、早くしないとすぐにブッキングされちゃうんだ。
MM : それでは新作についてお聞かせ下さい。今回の作品「ALONE」は2001年にリリースされた作品「SOLO GUITAR IMPROVISATIONS」以来のソロ・アコースティック作品となりますが、第二弾のアコースティック作品を作ろうと考えた経緯についてお聞かせ下さい。
CV : ファン達からはここ何年も「Solo Guitar Improvisations」の第二弾についての問い合わせをもらっていたんだけど、時間的に余裕がなくて、ずっと先延ばしになっていた。一方、こっち(米国)ではここ数年小さな会場でソロギターのギグをやっていたので、ネタも溜まりつつあった。結果として、それがアルバムを作るのに十分な曲数に達したので、第二弾を録音したってわけさ。
MM : アルバムのレコーディングにはどのくらいの期間を要したのでしょうか?
CV : 断続的にやって一ヶ月ってところかな。何か新しいアレンジがまとまるとスタジオとエンジニアに連絡して、“曲が降りてきている”うちに録音するって感じだった。
MM : どの曲も原曲の良さを踏まえつつアコースティック曲としての新たな魅力に気づかされる素敵なアレンジとなっていますが、アレンジにはどのくらいの時間をかけているのでしょうか?
CV : 楽曲のアレンジというのは、時が経つに連れて変化していくものだ。レコーディングを終えた後もね。例えば、”Norwegian Wood”だったら、僕の場合、二度と同じようにプレイすることはない。様々なセクションでインプロヴァイズできるくらい曲のフォーマットがゆるいものであれば、ライブでプレイする時に、曲にその場で息吹を吹き込むことができるからね。
MM : パット・メセニーの”Last Train Home”の原曲では列車の疾走感をリズムセクションで表現し、その上に乗って印象的なメロディが奏でられていますが、この曲をアコースティックギターで表現する上でどのようにアプローチしましたか?
CV : この曲では、フィンガースタイルで、チェット・アトキンス的なアプローチを採っている。アルバムの第一弾で、ザ・キンクスの曲を同じスタイルでプレイした。それも極力チェットのレパートリーからは遠い感じでね。なので、これもその方向での次なる試みといっていい。
MM : ピーター・ガブリエルの”Mercy Street”を取り上げていますが、ピーター・ガブリエルの楽曲を表現する上でどういった点に気を配りましたか?
CV : この曲自体、凄く心に残る印象だったので、そういったミステリアスな部分を最も重要な要素としてキープするよう心掛けた。本当に美しい曲だよね・・・。誰もソロ曲として取り上げなかったのが不思議なくらいだよ。
MM : ビートルズの”All You Need is Love”はライヴ作品「The Road Divides」にエレクトリックバージョンが収録されていましたが、やはりビートルズはあなたにとって特別な存在ですか?
CV : 僕達の多くがそうであるように、自分が最初にギタリストで影響を受けたのはジョージ・ハリソンだった。彼のギタープレイとザ・ビートルズの音楽は未だに僕にとってマジカルだ。それが何度プレイされようともね。ジョン・レノンが書いたあれら三つの曲をアルバムに収録することに関しては、これまでにあまりにも多くの人がカバーしてきたから、本当に躊躇していたんだ。でも、周囲の反応もとてもポジティブだったから、今となってはやはり録音しておいて良かったと思う。
MM : ボーカルが歌っている原曲をインストゥルメンタル曲として表現する場合、歌メロの扱い方次第ではクールでなくなる危険性もあるかと思います。あなたはどの曲も見事にセンス溢れる魅力的なものに仕上げていますが、ボーカル曲をインストゥルメンタルで表現する場合において考慮すべき点について教えて下さい。
CV : 人の声で歌われようが楽器で奏でられようが、必要なのは良いメロディだけなんじゃないかな。その歌が表現している純粋な部分を楽器で再現することができれば、方向的には間違っていないはずだ。僕の場合、スライドのフレーズを“スライドバーを使わずに”再現する練習を結構やっている。それらのフレージングを指だけで極力再現するというのが自分のゴールかな。難しいけど、それはボーカルでも一緒だよね。
MM : “Nordenham”では甘くクリーンなトーンが美しい印象的な曲ですが、2000年のあなたの作品「Atlas Overload」からこの曲を再びレコーディングしようと考えた経緯について教えて下さい。
CV : この曲のソロバージョンは自分のコンサートでは何年もやっていて、バンドでやるオリジナルバージョンとは大分異なる。今回の録音では、1958年製のギブソンES-175を使った。生音をマイキングするのと同時に、フェンダーの古いプリンストンリバーブにもマイクを立てて、二種類のサウンドをブレンドしたんだ。
MM : “Last days of Autumn”ではバリトン・ギターによる低音部の響きが印象的ですね。
CV : これは何年も前にアラン・ホールズワースから贈られたギターで、カリフォルニアのモンタレー在住のルシアー、ビル・ディラップが作ったものだ。これまで映画のサントラで何度も使っている。第一弾収録の”Cactus Tree”っていうジョニ・ミッチェルの曲でも使った。チューニングはレギュラーチューニングから五度下げているので、ベースではないけど、音的には中々ユニークなものがある。
MM : “Over the Rainbow”はこれまでに多くのギタリスト達に取り上げられている曲ですが、あなたならではのアプローチが行われていますね。この曲であなたが取ったアプローチ方法についてお聞かせ下さい。
CV : 僕は何か新しくてこれまでとは違った解釈ができる曲しかカバーしない。僕の昔の先生だったジョー・ディオリオが非常に重要なことを教えてくれた。「君の仕事は音楽を他人とは異なった形で聴かせることだ」ってね。ミュージシャンとして生きる上でこの上なく素晴らしい目標じゃないか。ハービー・ハンコックやジョー・ウォルシュ、その他の僕が好きなミュージシャン達も皆そうさ。なので、僕はその考え方をソロギターのアレンジやコードヴォイシング、インプロヴィゼーション、フレーズライン、トーンに応用しているんだ。
MM : 今回のレコーディングで使用しているギター、機材を教えて下さい。
CV : アコースティックギターは20本前後を持っていて、そのほとんどを使ったかな。1958年製のマーチンD-18、1951年製のギブソンJ-50、1938年製のギブソンL-00、それに古いギルドF-50を使った。この他にも、アヴァロンが2本、マーク・アンガスが2本、ブリードラブが2本、ジェームス・ラッセル、古いラミレスのナイロン弦なんかも持ってるよ。ライブ用とレコーディング用のギターがあって、ライブ用のギターで録音することもある。”Darn that Dream”では1965年製のストラトを使った。
MM : あなたのようにアコースティックギター1本でダイナミクスに富み人々を魅了する音楽をプレイするためにはシュレッド的なテクニカルな技術とはまた違った高度なテクニック、表現力が求められるかと思います。アコースティックギターの魅力やプレイする上で考慮すべき点について、あなたの考えをお聞かせ下さい。
CV : アコギはエレキとは“全く別の生き物”としてアプローチしなくちゃならない。テクニックによっては、エレキのものをそのままアコギに応用可能な場合もあるけど、ソロギターにおいてはまたかなり違った練習が必要なものもある。僕自身は曲を練習するだけで、特定のテクニックやエクササイズをやることはない。ソロのコンサートがあると、ギグ当日まで二週間の時間を自ら与えて、各曲が完璧に弾けるまで毎日練習する。大変だけど、ステージに上がる際の自信になるし、そうすることでコンサートが絶対にうまくいくという確信に繋がるからね。
MM : アコースティックギターを良質なサウンドで録るために工夫していることがあれば、マイキングなどエンジニアリング的な観点も含めて教えて下さい。
CV : ネックの12フレット目と、ボディ下部から数フィートのブリッジの後ろあたりにマイキングするのが気に入っている。長年色々なエンジニアが異なったマイキングの方法でそれぞれ良い結果を残しているけど、個人的には二つのマイクの音をブレンドすると大概うまくいくかな。でも結局のところ、こればかりは楽器とプレイヤーの腕次第だと思うよ。大きな空間系の音はあんまり自分のサウンドではないので、“生っぽさ”を出すという意味で、多少四苦八苦するのは仕方のないことかもしれない。
MM : 今後の予定をお聞かせ下さい。
CV : アメリカ西海岸で6回のソロコンサートを予定しているのと、あとは7月に自分のバンドでヨーロッパのフェスをハシゴするツアーに出る。その後で、スーパートランプで10月から12月までツアーに出る前に、9月は自分のバンドでアメリカ国内を回る予定さ。凄く音楽的な一年になると思うよ!
MM : 日本のファンへメッセージをお願いします。
CV : 近いうちに日本に行ければと未だに願っているんだけどね。これまでにも二回オファーがあったんだけど、両方とも何かがあってキャンセルせざるを得なかった。一回目は80年代にチャカ・カーンと、そして二回目は90年代にカール・アンダーソンのツアーだったかな。なので、近い将来、是非カール・ヴァーヘイエン・バンドで日本に行きたいと思っている。
Carl Verheyen official site : http://www.carlverheyen.com/
Carl Verheyen / “alone” Solo Guitar Improvisations Volume 2
01 Last Train Home
02 Mercy Street
03 Darn that Dream
04 The Gentle Rain
05 Good Morning Judge
06 All You Need is Love
07 Norwegian Wood
08 In My Life
09 Nordenham
10 Wheels
11 Going Home: Theme of the Local Hero
12 Last days of Autumn
13 Goodbye Yellow Brick Road
14 Over the Rainbow
Carl Verheyen official Store : http://www.carlverheyen.com/store-cds/