Keith Scott (キース・スコット) コラム issue #3 Tonality

80年代から数々のヒット曲を放ってきたブライアン・アダムスをロック・スピリット溢れるギターでレコーディングやツアーで支え続けてきたキース・スコット。 誰もが耳にしたことがあるであろうブライアン・アダムスの数多くのヒット曲では必ずキースの歌心溢れる印象的なギターを聴くことが出来る。
キースは今回のコラムでは”ギターの音作り”といった非常に興味深いテーマについて語ってくれた。

Tonality

辞書でtonalityという言葉を調べると、このような意味が書かれている:「楽曲における主和音に対する組織化された全ての音程や和音」または、「音色の性質」。Tonalityは芸術の分野でも使われる言葉でもあるが、私の話の焦点は音楽にあるので、それは未来のピカソたちに任せておくことにしよう。

ギターのトーンに関する質問をされることもあり、特にエレキギターのトーンに関する質問が多い。要するに「レコーディングやライヴで聴こえてくるあの音はどのようにして得られているのか」という簡単な質問だ。残念ながら現実は質問ほどシンプルなものではない。このテーマに関して、インターネット上では様々なセオリーが論じられている。まず重要なのはギターの音色を出しているギタリスト本人だ。ギターを弾く際に、そのギタリストによって頭の中で異なる楽器の聴こえ方があるため、そのギタリストがどんなギターを手にしても同じような音が頭の中で鳴っている訳だ。発せられている音はその人独自の音。そこには脳から指へと伝達されるオリジナル・サウンドの特徴が存在しているという訳だ。そのプロセスは身体的自己の中で構築されるものであり、ほとんどの場合は常にその特定の音になるということだ。あくまでも「ほとんどの場合」という話ではある。理論的にという訳だ。

これには様々な異なる考え方が存在する。日によって環境が変わることから、得られる結果も多いに変わる可能性がある。それでもレコーディング・スタジオのように常に管理された状況であれば、ギタリストは頭の中で描いている音をそのまま鳴らすことができる。また、意図的に音を変えようとすることでプレイヤーの予想以上に異なるサウンドが得られるケースもあるだろう。

では、最終的に得られる音色とは?

まずはギターだ:プレイヤーにとって最も弾きやすいメイン・ギターを選ぼう。次にアンプ、またはダイレクト入力。これはプレイヤーの好みによって異なる部分だ。まず、最初に注意してもらいたいのはノイズ等の異音が無いかどうかだ。質の高いケーブルやコネクターを使用するのも役立つはずだ。長年の経験からレコーディングの時はアンプにどれだけクリーンな信号を送れるかが重要だということが分かった。前はディストーションの強いアンプの方がクリアな音がすると思っていたけど、少しでも音が歪むとクリア感がなくなるし、ディストーションが多くなればミックスの中で他の楽器の音が犠牲になってしまうこともある。ディストーションにはマスキング効果のようなものが存在するのがその理由だ。ただ、最終的にはプレイヤーの好みに委ねられる部分でもある。

最新のDAWソフトではダイレクト入力でも納得のいくディストーション・サウンドが得られるようになっている。個人的にはしっかりとした真空管アンプの音が好みだったが、今では非常に音質の良いトランジスタ・アンプも開発されている。小型のVOX DA-5を自宅で使用したこともあるが、なかなかクールなオンボード・エフェクトが搭載されていてレコーディング用コンソールへのダイレクト出力が可能なことから手軽に楽曲のアイディア等を録音するのに便利だった。でも、やっぱり甘くナチュラルなオーバードライヴ・サウンドを実現してくれるのは古いFENDERや古いVOXしかない。自分がレコーディングに使っているアンプの中でもお気に入りの2台だ。今までに多くのレコーディングで60年代のVOX AC-30と64年型のFENDER DELUXE REVERBを使ったが、まさに第一候補として使えるアンプだ。シールドをHIGHインプット側に差し込めばより幅広い音色を得ることができる。また、60年代のヴィンテージ物のVOX AC-30にトレブル・ブースターを足したこともあった。(PETE CORNISH社のトレブル・ブースターが非常に良い)その結果、フルでサスティンの効いた信号が得られ、ギター本体のボリューム・コントロールを下げることによって音がよりクリーンになっていく。また、適切なコンプレッサーやライン・ドライバーをアンプのHIGHインプットに接続することによって更なる音の広がりを与えてくれる。ギター本体のボリュームを下げることでギターから更にクリーンな信号を得ることができる。勿論、エフェクトペダルやコンパクト・エフェクターをそこに足す毎に「トーン」を少しずつ失われていく。

もうひとつ考えておきたいのはアンプの前に立てるマイクの位置だ。アンプの特徴を活かした位置を決めることが重要だ。個人的にはキャビネットからある程度離した位置にマイクを置くようにしている。ある程度の広さの部屋で録音をしている場合、キャビネットから離すことによって部屋そのものの鳴りも拾われるため、トーンを強化して音に立体感を与えてくれる効果もある。音を分離させていためにアンプをクローゼットのような小さな部屋に入れて録音をしたこともある。ユニークな音が得られる反面、音色の幅は狭くなってしまう。

これらのファクターが存在する上で、卓でEQやコンプ、エフェクト等をどのように調性するかは人ぞれぞれだ。個人的にはミックスダウンを行うまで、なるべく音を素のままにしておくようにしている。ミックスダウンはまた全く異なる話題だ!

まずはトーンを大切に!

キース・スコット

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Translation by Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)