Vol.39 Philip Sayce / October 2014

Philip Sayce


Photo by Chad Crawford

Philip Sayce (フィリップ・セイス)が前作「STEAMROLLER」からおよそ2年ぶりとなる新作「INFLUENCE」をリリースした。
この作品ではフィリップがこれまでに影響を受けてきたLittle Feat、Graham Nash、Little Richardといったアーティスト達の曲を取り上げているとともに、作品をプロデュースしているデイヴ・コブとフィリップが共同で書き上げた秀逸な新曲6曲を含んだ聴き応えある作品に仕上がっている。
エモーショナルを重視した歌とダイナミクスかつ情感に溢れ、聴き手の心を揺さぶるギタープレイで音楽ファンを魅了し続けているフィリップに新作「INFLUENCE」について訊いた。


Photo by Josh Withers

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : あなたは昨年にEric Clapton’s Crossroads Guitar Festival 2013でプレイしましたがこのフェスティバルに参加することになった経緯についてお聞かせ下さい。
Philip Sayce (以下PS) : エリック・クラプトンのCrossroads Guitar Festivalでプレイできたのは信じられないような出来事だったよ。ERNIE BALL主催のコンテストに友人が僕をエントリーしてくれて、そのコンテストで僕が選ばれてクラプトンのイベントでプレイできることになったのさ!本当に信じられないような経験をさせてもらった。一生、忘れることができないだろうね。こんな経験ができて本当に感謝しているよ。

MM : このフェスティバルは素晴らしいギタリスト達が集いましたが、実際に参加してどういった部分にインスパイアされましたか?
PS : クラプトンのフェスティバルには素晴らしいミュージシャンが沢山参加していた。その場にいれたこと、そしてそこで演奏できたことはとても光栄なことだった。あのイベントに参加した全てのミュージシャンから何らかのインスピレーションを受けたね!でも、イベントの趣旨は様々な中毒症状に苦しむ人々を多に治らせるためのチャリティ・イベントだったからね。全ては人助けのため、そしてクラプトンのCrossroads Centerを支援するためのものだった。

MM : それでは新作についてお聞かせ下さい。新作”Influence”はあなたが影響を受けたアーティスト達の楽曲を中心にエモーショナルを重視した歌、ギタープレイが満載な秀逸な作品に仕上がっていますが、このような作品を制作するに至った経緯について教えて下さい。
PS : “Influence”は2年ほど前にレコーディングした作品なんだ。あの頃はとても慌ただしい時期だった。音楽のビジネス面で色々と難しい問題に直面していたのさ。収録されている楽曲の多くは当時の自分が置かれていた立ち位置を映し出している。結果的には励みになるような内容の作品に仕上がった。リスナーがこのアルバムを聴いて、それを感じ取ってもらえたら嬉しいね。この作品を聴いてインスピレーションや希望を感じてもらえることを願っている。それが自分のこの作品を作る上での意図でもあったからね。

MM : 前作”STEAMROLLER”に引き続き今回もデイヴ・コブがプロデューサーに迎えられていますが、彼のプロデュースのどういった部分を気に入っていますか?
PS : デイヴ・コブは良き友人でもあり、優れたプロデューサーとミュージシャンだ。彼と一緒に仕事をできるのは光栄なことでもあり、誇りに思っているよ。彼との仕事はいつも楽しい。お互いに同じようなヴィンテージ系の機材やレコーディング手法等に興味を持っている。それに同じような音楽をリスペクトしているんだ。今回の作品には誇りを持っているし、仕上がりにはとても満足している。

MM : 今回アルバムに参加している各メンバーについて教えて下さい。
PS : アルバムの核となっているのが自分、デイヴ・コブ、そしてドラマーのクリス・パウエルだ。更にフレッド・マンデルやリース・ワイナンズ、クリスティン・ロジャーズといった人たちがそこに素晴らしいパフォーマンスを加えてくれている。そしてヴァンス・パウエル、デイヴ・コブ、エディ・スピア等が最高のエンジニアリングとミキシングをしてくれている。


Photo by Josh Withers

MM : アルバムのレコーディングはどのように進められたのでしょうか?
PS : アルバムのほとんどは2012年にレコーディングされた。2013年にも少しレコーディングしている。デイヴのスタジオがあるナッシュビルに3回足を運んで録音を終わらせた。全てヴィンテージ系の機材を使っている。特に楽器のトーンに関しては細心の注意を払って作業を進めた。でも、レコーディング作業自体はとても楽しかったよ。ライヴ・レコーディングも沢山やったよ!

MM : “Tom Devil”(Ed Lewis and The Prisoners)がアルバムのオープニング曲となっているのは良い意味で驚きました。あなたのギターとミックスされている歌声が醸し出すサウンドが最高にクールです。Ed Lewis and The PrisonersがVocalsとしてクレジットされていますが、この曲について詳しくお聞かせ下さい。
PS : “Tom Devil”は我々にとってとても重要な楽曲だった。ルーツ・ミュージックに対して経緯を払うオマージュのような位置づけだ。西洋音楽のルーツに対して尊敬の念を何らかの形で表現したかったんだ。アラン・ロマックス・アーカイブから許可を得て楽曲を使わせてもらったのだが、こういった音楽が生まれた経緯に対する我々の敬意を評したい意図に彼らもとても喜んでくれた。リスナーにもその意図を共感してもらえたら嬉しいし、現代の西洋音楽がどこから生まれたかを再認識してもらえたらいいね。

MM : “Out Of My Mind”は実にあなたらしさを感じるパワーとグルーヴに溢れた爽快な曲ですね。
PS : “Out Of My Mind”はレコーディングをしていてとても楽しかったよ!名手、ジミ・ヘンドリックスに対して敬意を表している楽曲でもある。

MM : Little Featの”Sailin’ Shoes”はアルバムより一足先にSoundcloudで公開されファンにも好評でしたが、Little Featからはどのような音楽的な影響を受けましたか?
PS : “Sailin’ Shoes”では自分たちなりのマッシュ・アップをしたつもりだ。George Lowell & Little Featが作曲して演奏したオリジナル・ヴァージョンとロバート・パーマーのヴァージョン、更には素晴らしいギター演奏が入ったスティーヴィー・レイヴォーンのヴァージョンを全てコンビネーションにした感じだ。ともかく原曲が素晴らしいので、自分たちなりに一生懸命楽しんでみたという訳だ。

MM : “Fade Into You”はエモーショナルな歌、そして泣きのギターソロが圧巻の素晴らしい曲ですね。この曲からはジミ・ヘンドリックス的なヴァイヴも感じられましたが。
PS : どうもありがとう!”Fade Into You”はアルバムの中で最も繊細な部分でもある。アウトロのギターソロはまさに癒しの瞬間だ。自分を縛る鎖を解き放つ機会を与えてくれているのさ。力を与えられる瞬間だ。勿論、そこにはジミ・ヘンドリックスの影響もあるし、スティーヴィー・レイヴォーンの影響もある。彼らのタッチ、トーン、勢い、作品、そして様々な要素に多くの影響を受けているよ。


Photo by Chad Crawford

MM : Little Richardの”Green Power”ではワウ・ペダルを絡めたギターがとても印象的な曲ですね。
PS : “Green Power”はこのアルバムの中でもお気に入りのひとつだよ。Vox Clyde McCoyのワウ・ペダルを使ったんだけど、ともかく油っこくてウェットな音になったよ。Little Richardはロック史において最も偉大なシンガーの1人だ。自分たちなりに楽曲を楽しみながら現代音楽に多大なる影響を与え、重要な人物として名を残した偉大なるLittle Richardに敬意を表したかったのさ。

MM : “Better Days”では情感溢れる感動的な歌声を聴くことができますが、この曲があなたに与えた影響についてお聞かせ下さい。
PS : “Better Days”は素晴らしい曲だ。勿論、Graham Nashによって作られた楽曲だが、過去数年間の自分の感情を映し出しているかのような内容でもあったのさ。この曲における演奏には多くの感情が入っているよ。気に入ってもらえて嬉しい!

MM : “Triumph”はとても美しく、エモーショナルであるとともにあなたから弾き出されるトーンが実に感動的なインストゥルメンタル曲となっていますね。
PS : “Triumph”も辛い状況にあるこの音楽業界の中で頑張るための希望に満ちた曲だ。この曲が持つ感情や威力がリスナーにとって何らかのインスピレーションになることを願っているよ。このアルバムではともかく自分の正直なパフォーマンスを収めようと努力をしたけど、その中でこの”Triumph”は最も気に入っている曲の中のひとつだよ。

MM : Thomas A. Dorseyの”Peace In The Valley”では、Joe Savageの歌声とあなたのギタープレイによる時を超えた共演を聴くことが出来ますが、この曲について詳しくお聞かせ下さい。
PS : “Peace In The Valley”はこのアルバムのブックエンド的な位置づけになっている曲だ。”Tom Devil”でアルバムをスタートさせたかったのと同じように、”Peace In The Valley”でアルバムを締めたかった。この曲もルーツ・ミュージックに対するリスペクトを表している曲だ。自分たちが影響を受けた音楽に対する感謝の気持ちさ。Joe Savageのパフォーマンスも素晴らしい。これ以上ディープなものはできないと思えるほどディープなパフォーマンスだ。ともかく最高に素晴らしいヴォーカル・パフォーマンスだよ。

MM : アルバムにはカヴァー曲に加えてあなたとDave Cobbとの共同作業によるオリジナル曲も6曲収録されています。他のカヴァー曲と並んでも遜色ない秀逸な曲ですが、このアルバム用に準備するにあたり何か心掛けたことはありましたか? 
PS : レコーディングの時期に自分の身の回りで起こっていたことを表現して伝えるというのがこのアルバムの主なテーマでもあった。”Fade Into You”は喪失感や自暴自棄、失望、不安といった感情を表現している良い例だ。このような要素が作品全体に取り入れられている訳だ。僕自身、この作品には希望やポジティブさ、這い上がっていく姿勢等も含まれるということを強調したい。雨の中で踊りながら、嵐の中を切り抜けていく・・・夜を乗り越えて朝日を見つめる、そして人間として自分にとって重要な様々な要素と繋がりを持ち続けられることを表現している。この人生の中で音楽を作ることができるということに対して感謝をしている。

MM : これらオリジナルの6曲についてアルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか?曲が生まれるまでの経緯や、曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
PS :
“Out Of My Mind”
「楽しむ」ことを表現している曲だ。何でもいい・・・女性、車、ギター・・・何かに夢中になって楽しんでいることがテーマだ。

“Fade Into You”
このアルバムの中で最もヘヴィな曲のひとつだ。気分的にとても暗い時期にこの曲のレコーディングを行っていた。この曲は主にとても深い悲しみを感じていることをテーマにしながらも、ギターソロ辺りからは鎖を解き放ち、困難を乗り越えて勝利を得るという内容を表している。癒えていきながら、復活してく過程を描いた曲だ。

“Easy On The Eyes”
この曲も楽しい曲だ。女性でも、車でも、ギターでも、何かに無我夢中になっている状態を表している。”Out Of My Mind”と似たようなテーマを持った曲でもある。レコーディングはとても楽しかったね。アウトロでクリスティン・ロジャーズが爆発するかのように歌っている!

“Evil Woman”
BLACK SABBATHのファースト・アルバムを聴いていた翌日に書いた曲だ。女性のことを歌っているだけではない。人生において様々な妨害をしてくる人物が必ずどこかで現れる。そういう奴らには近づいちゃいけない、という曲だ。

“Triumph”
“Triumph”は困難な時期を乗り越えて勝利を得るという内容の曲。究極のインスピレーションに満ちた曲だ。

“Light Em Up”
この曲は音楽業界で様々なトラブルと直面したり、恥知らずな人たちと関わる状況を描いている。そういった邪魔者を消しながら前進していくという内容だ。誰にも邪魔されちゃいけないのさ、ずっと信じて自分の道を進んでいかないといけないんだ。邪魔する奴らがいたら、何らかの方法で奴らの妨害を避けて進み続けていけないといけない!


Photo by Chad Crawford

MM : 前回のインタビューではヴンテージ系の機材が大好きであるとのことでしたが、今回のアルバムの中で使用したギター、アンプ、エフェクター、ペダル類を教えて下さい。新たに試したものはありますか?
PS : 過去に使った機材も沢山使ったよ。お気に入りの古いストラトや古いテレキャス、古いグレッチのギター、それにAlexander DumbleやTommy Cougarのヴィンテージ系のアンプと古いFuzz Faceのペダル、古いTube Screamer、それに古いVoxのワウ・ペダルも使ったね。ともかく、色んな機材を使って楽しかったね。常に新しい機材も色々と試しているよ。

MM : あなたのように表現力豊かなギタープレイを身につけたいと思っている人達に何かアドバイスを頂けますか? あなたの表現力豊かな現在のオリジナルなプレイスタイルを創り上げた過程について詳細をお聞かせ下さい。
PS : ありがとう!一番大切なのは自分が感じているものを演奏するということだ。常に自分の心に素直にプレイすることだ。ハッピーな日はそのハッピーな感情をプレイに反映させることだ。怒っている時や悲しい時、興奮している時等、感じているものをそのままプレイに取り込むことだ。自分の真の感情をそのままプレイに取り入れるのさ。演奏をする時はともかく自分の中にある真のエネルギーを放つことだ。僕はそれを常にできるように努力しているよ。今でも学んでいる段階だ。少しずつ、更に深い感情へと入り込めるように訓練しているよ。

MM : 今後のあなたの予定をお聞かせ下さい。
PS : まずは作品を北米、そして全世界でリリースできるように頑張っているところだ。今年の11月と12月にはヨーロッパとイギリスでツアーが行われる予定だ。早く日本にも戻りたいと思っているよ!それが実現したら最高だね!

MM : 日本のファンへメッセージをお願いします。
PS : 生きている間に音楽を作ることができて、そして自分の音楽について皆さんとお話ができるのはとても光栄なことです。日本の皆さん、いつも応援してくれて、そして僕の音楽に興味を持ってくれて感謝しています。とても光栄です。本当にありがとう!日本で皆さんに会えるのを楽しみにしています。皆さんもこれから音楽を演奏し続けて下さい。心の中のルーツに忠実な音楽をプレイし続けて下さい。どうか”Influence”を楽しんで下さい。
 
Philip Sayce official site : http://philipsayce.com/
 

Philip Sayce / INFLUENCE
1.Tom Devil
2.Out Of My Mind
3.Sailin’ Shoes
4.I’m Going Home
5.Fade Into You
6.Blues Ain’t Nothin’ But A Good Woman On Your Mind
7.Green Power
8.Better Days
9.Easy On The Eyes
10.Evil Woman
11.Triumph
12.Light Em Up
13.Peace In The Valley