Michael Lee Firkins
Photo by Ross Pelton
マイケル・リー・ファーキンスが2007年発表の「Black Light Sonatas」以来となる6年ぶりの新作「Yep」をリリースした。
90年代にロック・インストゥルメント作品「Michael Lee Firkins」でデビューしたマイケルは、メロディックな楽曲やカントリースタイルを織り交ぜた独自のテクニカルなギター・スタイル、トーンで次世代ギターヒーロとして一躍注目を集めた。その後もカントリー、ブルースをより強く感じさせるアルバムを発表していく中、そのパワフルかつ深みのある歌声や説得力あるギタープレイで聴く者を魅了し続けている。
カントリー・ブルース、そしてロックの魅力がふんだんに盛り込まれている新作「Yep」についてマイケルに訊いた。
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Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Masa Eto
Muse On Muse (以下MM) : 2007年にリリースされた前作「Black Light Sonatas」以来となるアルバム「Yep」を6年ぶりにリリースしましたが、その間のあなたの活動状況についてお聞かせ下さい。
Michael Lee Firkins (以下MLF) : 2009 年にライヴで歌うようになった。このアルバムを作っている最中も、レコーディングに行き詰まったと感じたら、スタジオから出てショウをやることもあったよ。そのおかげで無事にレコーディングを終わらせることができたんだ。
MM : アルバムのタイトル「Yep」に込められた意味やアルバム制作におけるコンセプトについて教えて下さい。
MLF : Yepは短くて優しい響きの言葉だから好きなのさ。ググってみれば変な連中が使っている言葉じゃないってことが分かるよ(笑)。嘘偽りがないってことを象徴している。サザンブルースっぽい味もあるし、カントリーとかクラシック・ロックのストーリーを伝える内容でもある。アルバムのコンセプトはかなり深いから一行でまとめることはできないけれど、70年代に人々がレコードを聴き始めてから現在にいたるまでのお話、って感じかな。
MM : アルバムに参加しているミュージシャン達について紹介下さい。
MLF : Gov’t Muleのリズムセクションを形成しているマット・アブツとアンディ・ヘスの二人、それにローリング・ストーンズやオールマン・ブラザーズ、エリック・クラプトンでキーボードを弾いているチャック・リーヴェルだ。彼らは親切なことに僕のために才能を貸してくれたんだ。最高のリズムセクションだったよ。まさにドリームチームさ!
MM : 今回参加したミュージシャン達とのレコーディングは如何でしたか? 印象に残っていることなどをお聞かせ下さい。
MLF : ストーンズのキーボーディストのチャック・リーヴェルは信じられない男だよ。彼が演奏するとどんなタイミングでも合ってしまうんだ!彼が演奏ミスするなんてことは絶対にあり得ないって思えたほどさ。彼はセッションの間ずっと手を宙に浮かせて指揮をとっているようだった。彼ら三人は一緒に演奏し、昔ながらのアナログ・レコーディングという方法で自分たちのパートを録音したんだ。マットとアンディは年中ライヴをしていて、ついBonnarooフェスティヴァルに出演したばかりだったんだ。彼らはその翌日にナッシュヴィルに来て僕のアルバム用にレコーディングしてくれたんだ。
MM : “Golden Oldie Jam”は気持ち良いグルーヴのサウンドが飛び出しており、アルバムへの期待が高まるオープンニング曲ですね。
MLF : どうもありがとう!曲順も成功ってとこかな。”Golden Oldie”は、僕がみんなに真っ先に聴いてもらいたいと思っていた要素が備わっているんだ。B3も入っているし、ブルージーだし、ロックの要素もバッチリある。クラシック・ロックさ!
MM : アルバムでは曲にマッチしたとても力強くソウルフルな歌声を聴くことができますがシンガーとして影響を受けたアーティストはいますか?
MLF : クラシック・ロックとブルースであれば、そのすべてから常に影響を受けているよ。でも、一人だけ挙げるとすれば、Lynyrd Skynyrdのロニー・ヴァン・ザントかな。彼らには若い頃に多大な影響を受けたし、彼らの音楽は今でも毎日自分の中で鳴っているよ。
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MM : アルバムに収録されている曲はライヴの雰囲気を持つ一方で、ギターは様々のパートが重ねられて曲のサウンドを彩っていますね。
MLF : そうなんだ。さっきも言ったけれど、ドラムとベースとキーボードはライヴ演奏なんだ。その彼らの演奏をもとに僕が時間をかけて少しずつパートを加えて行ったんだ。
MM : “Long Day”では哀愁を帯びた曲にロングトーンを中心としたスライドバーによる泣きのギターの素晴らしさが印象的でした。
MLF : どうもありがとう。僕の大好きな曲さ。このアルバムで最高の曲に最高の歌詞が乗って、最高のソロが弾けたんだからとてもラッキーだったよ。キーボードもアルバムの中で最高の出来だ。ソロではオールドのOahu Dianaラップスティールギターを使ったんだよ。Yep.
MM : “Wearin’ Black”では曲の中間部でユニークで一風変わった興味深いギターサウンドを聴くことが出来ますが。
MLF : あれは4種類の異なるギターが一つになったものなんだ。それぞれを個別のトラックに分けるのではなく、一つのサウンドにまとめてみたんだ。ハーモニーごとに異なるセッティングを使いたくなかったから、オールドスクールなやり方で全部一括してバウンスしたのさ。
MM : “Last Call”はイントロのリズムギター、そして中間部のソロがクールで印象的ですね。
MLF : ありがとう。このアルバム用に書いた最初の曲のひとつだよ。何年も前にデモとしてレコーディングはしてあったんだ。もっと速くてアップテンポな曲だったんだけど、ミドルテンポのドラマティックな感じの曲に仕上がったね。
MM : “No More Angry Man”と”No More Angry Man (Part 2)”との関係について教えて下さい。
MLF : 基本的にはどちらも同じ歌詞の同じ曲さ。パート2の方は、プリンスでドラムを叩いていたマイケル・ブランドと一緒に1997年に録ったものだよ。その時のレコーディングからはドラムパートのみが使えたんだけど、他のパートはすべて録り直したものだ。よりアップテンポなハードロックで、グルーヴィな曲だね。新しいバージョンの方では、マットとアンディとチャックが演奏しているよ。こっちではもっとミドルテンポ寄りに演奏していてちょっとツェッペリンっぽいかもしれないね。どちらの曲もこのアルバムのコンセプトを上手くまとめあげているんだ。僕の人生のタイムマシンみたいな感じさ。
MM : あなたはデビュー当時、ワーミーバーを駆使し、あたかもスライドバーによるプレイのような絶妙なニュアンスを出していましたが、現在は実際にスライドバーを本格的に使用するプレイスタイルに変化しています。リアルにブルース、カントリー音楽を追究していくことで今のスタイルに行き着いたのでしょうか?
MLF : 難しいな、僕は常に自分の演奏したい音楽を演ってきた。このレコードでもワーミーバーを何度も使ったよ。どちらのテクニックも同じように使いたいし、どちらか一つをシャットアウトするようなことは絶対にないよ。
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MM : 同様にあなたのピッキングスタイルは、以前はピックによるピッキングとカントリースタイルのフィンガーピッキングをミックスし駆使していました。現在はその比重は変わってきましたか? ピッキング、フィンガーピッキングのそれぞれのスタイルでアプローチする際における曲やギタートーン、サウンドに対するあなたの考えをお聞かせ下さい。
MLF : 僕はピッキング方法を自分のアプローチの一つとは捉えていないよ。ピックで弾いた方が良い曲もあるし、フィンガーピッキングのパターンを使って書く曲もあるかもしれない。僕はサムピックもよく使うんだ。最近友人から教えてもらったジムダンロップ製の黄色いピックがお気に入りでね。今はもうテクニックを身につけようとはしていないけれど、時々ふと何か思いつくことがあるんだ。最近だと本当にアグレッシブなブルーグラススタイルのピッキングを試してみたりしているよ。
MM : アルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか? 曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
MLF :
“Golden Oldie Jam”
この曲はレコード(アナログ盤)の黄金期を歌ったものさ。10秒で書き上げて、歌詞も100万通り書いたんだ。この曲は僕にとってすべてが瞬時にまとまった最初のヴォーカル曲の一つで、ギターとヴォーカルだけでも十分にイケる曲さ。
“Cajun Boogie”
これは楽しいサザンブギーだね。言葉が実際に口から出てくるまでどれぐらいの時間がかかるかってことを歌った歌詞さ。僕は椅子に座って歌詞を書くタイプではないんだ。演奏している最中にわーっと言葉が出てくるのさ。
“No More Angry Man”
この曲は腐敗した強力な指導者や、我々が作り上げては破壊したプロパガンダについて歌ったものだ。これは間違いなくギター曲芸の一つさ。このアルバムの中でもお気に入りの一曲だよ。
“Standing Ovation”
この曲は不思議なことにハリケーン・カトリーナが起きる何ヶ月も前に書いた曲なんだ。答えを探し出すためニューオーリンズを抜け出しメンフィスへ向けて雨の中車を走らせるっていう夜のドライブを歌った歌詞なんだ。エルヴィスの霊を感じたよ。僕の父親は大のプレスリーファンだったんだ。
“Long Day”
これは僕らしい曲だね!プレイヤーと言い、歌詞と言い、ハーモニーと言い、ソロと言い、すべてがまとまった。今だ!っていう瞬間がやってくるまで、僕はこの曲で歌ったり、ソロを弾いたりするのを長いこと拒んできたんだ。チャック・リーヴェルが弾いたB3とピアノは名演さ。セッションを終えてナッシュヴィルから帰る時にこの曲が遂に形になったって思ったよ。これは苦しみを歌った曲なんだ。暗闇を歌ったものさ。たとえ世界が死に絶えようとも、生きることがどんなに美しいことかを歌っているんだ。生と死が一つになっているんだ。
“Wearin’ Black”
これは元々はジョニー・キャッシュについて歌ったものさ。この曲の歌詞には何年も悩んだ。全然歌詞が出てこなかったんだ。その後、残念ながら友人だったロニー・モントローズが自殺してしまい、彼の死を嘆いていたある晩に歌詞を書き上げたんだ。今では僕の人生に起きたあのつらい出来事を歌った自分の曲になったよ。
“Out Of Season”
これは友情や結婚が破綻することについて歌った曲だよ。痛みは伴うけれど、自分は正しいことをしたんだ、っていう内容さ。
“Take Me Back”
これはなかなかノリの良い曲だね。歌詞は、世界を終わらせるのではなく、まだ世界が生まれたばかりの時に戻りたいってことを歌ったものなんだ。良い感じで古典的なサザンロック・サウンドが楽しめる曲だよ。ドライブに最適さ。
“Last Call”
この曲も大分前からあったものさ。しばらくはそれほど好きな曲じゃなかったんだけど、曲が完成するにつれてソロも本当に素晴らしいものになったし、ハーモニーも僕が元々望んでいた形になった。結果にはとても満足しているよ。いつかピンク・フロイド的なロックソングを作ろうってずっと思っていたんだ。
“No More Angry Man (Part 2)”
これはプリンスのドラマーだったマイケル・ブレンドと一緒に録ったオリジナル・バージョンだよ。本来はもっと速い曲だったんだ。ドラムトラックをテープにバウンスさせてからテンポを落とし、それを今度は96HzでProToolsにまた移したんだ。図太い音だよ!もう少し深いグルーヴが欲しかったんだよ。長いこと眠っていた曲をこうして使うことが出来てもの凄く嬉しいよ。マイケル・ブレンドの演奏もお見事さ。曲の最後の大暴れも大好きなんだ。ヘンドリックス風のジャムが感じられるよね。
“The Cane”
これは真夜中に気がおかしくなった時にワンテイクで録ったギタートラックさ。後からドラムパートとベースラインを加えていったんだ。自分のかなり正確な体内時計以外、クリックもなにも使っていないよ。でもテンポはかなり変動しているね。まったくのゼロから作り上げていったんだ。道路に引かれた白線について歌ったものなんだ。夜、車を運転しながら眠ってしまう、っていうね。ほとんどの人はこういうものをリリースしようとはしないだろうね。未完成のデモみたいな荒削りな内容だからね。でもその正直さが気に入っているよ。
Photo by Ross Pelton
MM : 今回のアルバムの中で使用したギター、アンプ、エフェクター、ペダル類を教えて下さい。
MLF : これまで何年にも渡っていろいろと使って来たけれど、結局自分のVOX AC30ハンドワイアード・アンプヘッドに落ち着くんだ。レコーディングではペダルはほとんど使ったことがないよ。AC30の場合、フットスイッチでEQをバイパスしてより高いゲイン段を作ることができるから、ハイゲインの音色が必要な時はそうしているよ。スピーカーは25ワットのビンテージ・セレッションを使っている。ギターはリゾネーター・テレキャスター、フェンダー・カスタム・ショップ製のノーキャスター、同じくカスタム・ショップ製の57年ストラトリイシュー、OAHU Dianaラップスティール、1972年製ギブソンSG、そしてバーニーの70年代後期製SGを使ったよ。
MM : アルバムでは温かみのあるエモーショナルなギターサウンドを聴くことが出来ますが、サウンド作りで心掛けたことや工夫していることをお聞かせ下さい。
MLF : スピーカーやアンプや真空管などを何年にも渡って色々と試してはいるけれど、最終的には他のなによりも自分のアイディアが大切なんだってところに行き着くんだ。1万ドルもする機材で録音する時もあるし、安いモデリング・ソフトに直接ギターを挿してレコーディングすることだってある。プレイヤーに演奏させることさえ出来れば、どちらを使っても素晴らしい結果が得られると思うよ。
MM : あなたのプレイから弾き出されるダイナミクスに溢れた温く繊細なトーンに憧れ、それを目指しているギタリストへアドバイスをお願いします。
MLF : 先人達を敬うこと。自分にとってのギターヒーローを聴いて、出来る限り真似をするんだ。君自身が真にオリジナルな存在なら、それはいつか現れてくる。例えヒーローの真似をし続けるミュージシャン人生だったとしても、それはそれで素晴らしいことじゃないか!
MM : 日本ではデビュー・アルバムである「Michael Lee Firkins」で聴くことが出来るようなギター・インストゥル・メンタルのロック・アルバムも期待しているファンがいると思います。1stアルバムのようなギター・アルバムを再び制作する可能性はありますか?
MLF : うん、早くまたインストアルバムも作りたいよ!
MM : 今後の活動予定について教えて下さい。
MLF : このアルバムをレコーディングしている最中もたくさんの曲を書いたんだ。早く次のアルバムを作りたいよ!ギターを手に取る度に新しい曲が出来上がるような感じさ。僕の今の哲学はビートルズのそれと同じで、「ライヴはどうでもいいからスタジオに篭ってクリエイトすること!」なんだ。でも、そうは言えど、やっぱりライヴはとっても楽しいし、演奏力をキープするのにも良いからこれからどうなるか様子見ってとこかな。
MM : それでは日本のファンへメッセージをお願いします。
MLF : 日本の人たちのことは大好きだよ。僕が日本で演奏した時、どのオーディエンスもすごく親切だったんだ!また準備ができたら是非日本で演りたいね!みんなに平和が訪れますように!!!
Michael Lee Firkins official site : http://www.michaelleefirkins.com/
Michael Lee Firkins / Yep
1.Golden Oldie Jam
2.Cajun Boogie
3.No More Angry Man
4.Standing Ovation
5.Long Day
6.Wearin’ Black
7.Out Of Season
8.Take Me Back
9.Last Call
10.No More Angry Man (Part 2)
11.The Cane
Featuring:
Michael Lee Firkins – Guitar, Vocals
Matt Abts – Drums (Gov’t Mule)
Andy Hess – Bass (Gov’t Mule)
Chuck Leavell – Keyboards (The Allman Brothers Band, The Rolling Stones)
Michael Bland – Drums (Prince, Paul Westerberg)
Magnatude Records