Pete Lesperance
Photo by Tyler Weatheral
メロディアスかつ良質なハードロックで多くのロックファンに愛されているHAREM SCAREMがその活動を停止後、実に4年の年月を経て再び結集した。今回彼等が新たにリリースしたアルバムはファンの中ではHAREM SCAREMのバンド史上において最高傑作として誉れ高い「MOOD SWINGS」がリレコーディングされた「MOOD SWINGS II」である。バンドサウンドの中核を担うと共にその素晴らしいギターテクニックと音楽センスで聴く者を魅了し続けているピート・レスペランスに「MOOD SWINGS II」について語って貰った。
Photo by Tyler Weatheral
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)
Muse On Muse (以下MM) : ハーレム・スキャーレムが解散してからおよそ5年が経ちましたが、再びメンバーが集まった経緯について教えて下さい。
Pete Lesperance (以下PL) : 「MOOD SWINGS」をリ・レコーディングするというアイデアは元々イギリスのFIREFESTというフェスティバルを企画している友人の考えから生まれたものなんだ。最初はアルバム発売20周年を記念してイギリスで「MOOD SWINGS」の完全再現ライヴをやってほしいという話だった。そこから俺たちは20周年を記念したツアーを思いつき、それがリ・レコーディングのアイデアへと繋がった訳さ。
MM : バンドの最高傑作アルバムとしてファンに支持されている「MOOD SWINGS」をリ・レコーディングし「MOOD SWINGS II」としてリリースしましたが、新曲のみで構成されたアルバムを新たに制作するのではなく、リ・レコーディングしたアルバムのリリースとなった経緯についてお聞かせ下さい。
PL : 長年のキャリアの中で「MOOD SWINGS」が自分たちの作品の中で最もファンに支持されているアルバムだということは明らかだった。だからこそ、演奏されている各パートやメロディ、ギターソロ等に関してはオリジナルに忠実でなければならないと思っていた。ただ、この20年の間に培った能力や経験を活かして録音プロダクションは最新でモダンなものにしたかった。要するに、オリジナルの品位を保ちながらもモダンなヴァージョンを作りたかったということだ。
MM : 多くのファンに長い間愛聴され続けている「MOOD SWINGS」をリ・レコーディングするにあたり、その音楽やサウンド面についてはどういった観点で取り組んだのでしょうか?
PL : ともかくオリジナルに忠実な形で録音するということだった。全く新しいアレンジやギターソロを入れたいと思っていたのであれば、ニュー・アルバムを録音しただろうね。ちなみにツアーが終わったらHAREM SCAREMのニュー・アルバムをレコーディングすることになるはずだ。ともかく、今回のリ・レコーディングに関してはオリジナルの「MOOD SWINGS」アルバムに忠実な形で作りたいという気持ちに尽きるよ。
MM : アルバムのブックレットにはあなたがベース・プレイでクレジットされていましたが、レコーディングではどのような経緯からあなたがベースもプレイすることになったのでしょうか?
PL : 元々、自分が携わっているいくつかのプロジェクトでもベースを弾くことがあるんだ。HAREM SCAREMは元々活動を休止していた状態で前ベーシストのバリーはもうバンドに参加していないし、正式なベーシストがいない状態だ。だから自分がレコーディングでベースを演奏したのはごく自然の流れだった。ツアーではスタンが参加してくれることになったけど、その後はどうなるかまだ分からない。ともかく、レコーディングに関しては自分が弾くことが最も合理的だったということだ。
MM : “JUST LIKE I PLANNED”は元々ハーモニーが美しいアカペラのアレンジでしたが、今回、アカペラからバンドをバックにしたアレンジに変更したのは?
PL : この曲に関しては何か別の形で録音したいという思いがあった。オリジナルと全く同じようにアカペラにしても意味が無いと思ったのさ。”MANDY”の新ヴァージョンと似たような考え方だ。オリジナルと全く同じにはしたくなかったからバックを変えた。”JUST LIKE I PLANNED”の場合もバッキング・ヴァオーカルを取り除くことによってハリーの声がまた違った雰囲気で聴こえるようになった。ハリーの声だけに焦点を置くことによって前のヴァージョンにはなかった臨場感が生まれている。同じ曲の新たなヴァージョンだと思って楽しんでほしい。
MM : “JEALOUSY”はオリジナルに比べると曲全体にリズムのフックが効き、リズム・ギターもよりパーカッシブかつシャープになった印象を受けましたが。
PL : “JEALOUSY”に着目してもらったのは面白いね。何故なら”JEALOUSY”はオリジナルの「MOOD SWINGS」アルバムにおいて唯一「失敗した」と思ってしまった曲だからね。特にギターの音に対して、あまりいい思いがしない。それにアレンジも何か的を得ていない感じがする。でも、今回は上手くいった気がするよ。個人的には新しいヴァージョンの方が好きだね。特にギター・パートは音も以前と変わっていて気に入っているよ。
Photo by Tyler Weatheral
MM : 今作では3曲がボーナストラックとして加えられていますが、これらは今作用に新たに書き起こした曲なのでしょうか? それとも以前からストックされていた曲なのでしょうか?
PL : 「MOOD SWINGS II」に収録されているボーナス3曲は全て新たに書き下ろした新曲だ。元々は自分が制作を進めていたギター・インスト・アルバムの曲のためにあったアイデアだけだったんだけど、HAREM SCAREMの新曲をレコーディングするという話が持ち上がった時点でこれらのアイデアをHAREM SCAREMの曲として仕上げるべきだと思ったんだ。いくつかのアイデアをハリーに聴かせ、この3曲が彼に最もアピールしたアイデアだったんだ。インストゥルメンタルだった曲をヴォーカル入りの曲に変えて、このように仕上がったという訳さ。
MM : 収録されている各ボーナス曲について解説して頂けますか? まずは”World Gone To Pieces”。次に”Anarchy”はイントロのハードなカントリー風なリフとメロディックなサビが印象的でした。そして最後に”A Brighter Day”はコーラスの美しさとメロディックなサビが印象的ですが。
PL : 曲の歌詞はハリーが全て書いたんだ。だから、曲の背景にあるアイデアや深い意味については彼に訊くのが一番だと思うけど。でも、ざっくり説明すると”World Gone To Pieces”と”Anarchy”は今の世の中を表そうとしている内容だ。環境問題、人間、政府等をテーマにしている。”A Brighter Day”も同じようなテーマを持っているが、「自分たちの力で何とかできる!」というポジティヴな意味もあるんだ。暗い内容ばかりでなく、少しは希望に満ちた内容でアルバムを終わらせたかったのもあるよ。
MM : これらのメロディックで感動的なハーレム・スキャーレムらしさが凝縮された曲を聴くと是非とも新曲のみで構成されたフルアルバムも聴いてみたいと思わされました。
PL : ハリーと話し合って決めたことなんだけど、ツアーが全て終了したら新しいHAREM SCAREMのアルバム制作に取りかかることにしたよ。ツアー等で色々と忙しくしているから、リリースはまだ先になると思うけどレコーディングをすることにはなっているから是非楽しみにしていてほしい。上手くいけば2014年中にリリースできるかもしれないね。
MM : 「MOOD SWINGS」をリ・レコーディングしてみて、あらためてこのアルバムについてどのように感じましたか?
PL : レコーディングを終えて振り返ってみると今回のリ・レコーディングには凄く満足していると言えるよ。自分たちがこのリ・レコーディングでやりたいと思っていたことは全て達成できたと思っている。全体的なプロダクションやレコーディング作業、ミックス作業において新しい技術や知識を活かすこともできた。出来にも満足している。ボーナストラックとして収録した3曲にも満足しているし、リ・レコーディング作品との相性にも満足だ。今回のリ・レコーディング全体を振り返ってもポジティヴな経験だったと言える。
MM : 「MOOD SWINGS」の制作当時時に使用していた機材(ギター、アンプ、エフェクター、ペダル類)及び今回「MOOD SWINGS II」で使用した機材を教えて下さい。
PL : オリジナルの「MOOD SWINGS」では基本的にギターサウンドが2つあった。アンプを鳴らしてマイクで録った音と、ラインで録った音だ。ライン録りの音はROCKTRON PRO G.A.P.とMarshall のプリアンプを使った。プリアンプの名前は忘れたけど1Uのラックマウント式トランジスタ・プリアンプを使った。これを両方ともHughes & KettnerのRED BOXを通してひとつのトラックに混ぜたんだ。メインのライン録りはそうやって作った。アンプをマイクで録った音はMarshallの50Wのヘッドを通常のMarshall 4 x 12 のキャビネットに通して録音されている。いたってシンプルだ。殆どの音はライン録りだったけどね。「MOOD SWINGS II」に関してはFRACTALのユニットを使っている。FRACTALは最高の機械だよ。大好きだ!今回レコーディングで使用したのはULTRAというモデルだ。今はAXE-FXも持っているけど、レコーディングではAXE-FX ULTRAを全編で使っている。必要なエフェクト等、全てが備わっている。これをMarshallに通し・・・20Wのパワーアンプだったはずだ・・・Boogieの 2 x 12 のキャビネットで鳴らしマイク録りしている。今回はライン録りを全くしていない。ギターは全てRoyerのリボンマイクを使い、MANLEYのVOXBOXを通してProToolsで録音した。
MM : CDとDVDがセットになった「MOOD SWINGS II」の限定盤にはファンがDAWなどで楽しめるように個々の楽器パートのオーディオ・ファイルが収録されていますが、このアイデアはどのようにして思いついたのでしょうか?
PL : ともかく特別なパッケージにしたいと思ってね。だからオーディオやメイキング映像等の特典を加えたんだ。このようにオーディオ・ファイルを特典として付けるのは我々が初めてじゃないけどね。YouTube等を見ていると、ギターソロをコピーしてくれている人も多いみたいだし、そういった人たちが実際の音をバックにギターソロを弾いたりできるのもいいアイデアだと思ったのさ。音源をバックに自分のヴォーカルを入れたり、自分なりのミックスをしたり、色々できる訳だ。発売20周年を記念する作品の価値を高める意味合いもあるし、ただのリ・レコーディング作品だけじゃない、それ以上のものをファンのために提供したかったという気持ちもあったんだ。
Photo by Tyler Weatheral
MM : 「FADE INTO STARS」をリリースした際のインタビューでは、ギターファンが喜ぶようなギター・オリエンテッドな作品(アルバムかEP)の制作を始めようと思っているとのことでしたが、そちらの方はどのような状況でしょうか?
PL : 前にも話したように、ボーナストラック3曲は元々自分がインスト・アルバム、またはギターをメインにしたアルバムをレコーディングするために書いていたアイデアから生まれたものだ。だから、それについては全く進展が無い状態だ。実際には完成された曲のアイデアが5曲ほどあって、これに自分のヴォーカルと演奏を入れてレコーディングしたいとは思っている。アイデアだけはあるけど、実際の作業は進んでいないということだ。ここのところずっと忙しかったし、HAREM SCAREMのツアーの準備もしているところだからね。いつ作業を再開できるかは分からないけど、いつか完成させるつもりさ!
MM : 今でもギタリストとして日々の研究や練習に取り組んでいるのでしょうか? その場合はどういった内容の研究、練習に取り組んでいるのでしょうか?
PL : 研究や勉強はあまりしていないね。時間があれば楽譜が読めるようになりたいね。独学で音楽を学んでいるから楽譜が読めないんだ。楽譜が読めるようになって、また異なる音楽の要素を取り入れることができれば嬉しいね。練習は沢山しているけどね。何年かあまり練習をしなかった時期もあったけど、今は毎日平均で6時間はギターを握っているよ。友達とおしゃべりをしながら適当にギターを弾いている時もあれば、真剣に練習をしている時もあるけど。ともかく最近は沢山弾いているよ!
MM : 10月にはハーレム・スキャーレムの来日公演が予定されていますがどのようなライヴを期待できますか?
PL : 日本公演に関しては「MOOD SWINGS II」全曲と、それ以外にも自分たちのお気に入りの曲を演奏する予定だ。良いショウになるはずだ。実際に同じセットを既にアメリカのフェスティバルで演奏したんだ。良いセットリストだし、ともかく楽しいし、ロックしているし、「MOOD SWINGS」の全てが詰まったセットだ。
MM : ハーレム・スキャーレムとしては次作の制作なども踏まえ今後も引き続き活動していく予定でしょうか? ファンは強く期待していると思いますが。
PL : 前にも言ったように、ハリーと話し合った結果HAREM SCAREMの新作を制作する予定だ。今回のツアーが終わったらギタリストとして参加しているTHE STELLASというカントリー系のデュオのレコーディングがある。ネッシュヴィルでレコーディングをした後、年明けにツアーも予定されている。今はHAREM SCAREMとTHE STELLASの活動を交互に行っている状態だ。
MM : それでは日本のファンへメッセージをお願いします。
PL : 日本のファンに何を伝えたいか・・・?そうだね・・・「MOOD SWINGS」が発売されてから20年が経った訳だけど。当時ワーナーに所属していた自分たちにとって、このアルバムが日本での人気に火をつけてくれた作品だった。不思議だね、20年かけて元の場所に戻ったような気がするよ。日本のファンは常に自分たちのキャリアの中で重要な位置を占めていたのは事実だ。とても感謝しているよ。このバンドに興味を持ってくれて本当にありがたく思うね。また日本のファンの前で演奏できるのが楽しみだ!故郷へ戻るような気分だ!
Pete Lesperance official site : http://petelesperance.com/
HAREM SCAREM official site : http://www.haremscarem.net/
MOOD SWINGS II / HAREM SCAREM
MIZP-30008 ¥3,800(税込) SHM-CD+DVD 初回限定盤 AVALON
MICP-11111 ¥2,700(税込) CD 通常盤 AVALON
CD (MIZP-30008/MICP-11111):
1. SAVIORS NEVER CRY
2. NO JUSTICE
3. STRANGER THAN LOVE
4. CHANGE COMES AROUND
5. JELOUSY
6. SENTIMENTAL BLVD.
7. MANDY (INSTRUMENTAL)
8. EMPTY PROMISES
9. IF THERE WAS A TIME
10. JUST LIKE I PLANNED
11. HAD ENOUGH
12. WORLD GONE TO PIECES *
13. ANARCHY *
14. A BRIGHTER DAY *
DVD (MIZP-30008):
RE-MAKING OF MOOD SWINGS
AUDIO FILE: SAVIORS NEVER CRY
AUDIO FILE: NO JUSTICE
AUDIO FILE: CHANGE COMES AROUND
EXTENDED INTERVIEW FOOTAGE
* Bonus/New Tracks