Vol.27 Carl Verheyen / September 2013

Carl Verheyen

  
英国のロックグループ SUPERTRAMP のアルバムへの参加や大規模ツアーへの帯同、そして「STAR TREK」や「ザ・クロウ」、「Mission: Impossible IV」など膨大な数の有名映画作品のサウンドトラックやTV音楽までをもこなすLA音楽シーン屈指のスーパーギタリスト、ミュージシャンであるカール・ヴァーヘイエン。

素晴らしい音楽キャリア、そしてギタリストとしての卓越した才能を持つカールであるが、同じLAを拠点とするスティーヴ・ルカサーやマイケル・ランドウは知っていてもカールのことはまだ知らない日本の音楽ファンが多いことも残念ながら事実である。カールを今まで知らなかった音楽ファンの人達にも彼がリリースした新作「Mustang Run」を是非とも聴いてもらいたい。そこには真にリアルなアーティストによるリアルな音楽が繰り広げられており、なぜカールが膨大な音楽作品の数々に名を刻み続けられるのかを聴き知ることが出来る。新作「Mustang Run」についてカールに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : 2009年の「Trading 8s」以来となるスタジオアルバム「Mustang Run」をリリースした今の心境は?
Carl Verheyen (以下CV) : まるで子供が生まれたかのような気持ちだよ!最初のインスピレーションの瞬間から最後のマスタリング作業まで、まさに愛に満ちた作業だった。今は子供が無事に退院して家で走り回っているような感じだね。

MM : アルバムのタイトル「Mustang Run」に込められた意味やアルバム制作におけるコンセプトについて教えて下さい。
CV : このタイトルのインスピレーションの元になっているものは2つあるんだ。ひとつは、自分の音楽をライヴで演奏する際に広い高原を走り抜ける馬の群をいつも想像していたこと。2つ目は18才の息子が運転している1997年型のフォード・マスタングのコンバーチブルだ。彼はいつも幌をオープンにして楽しそうにドライヴしていて、その感情を楽曲の中で捉えたいという気持ちもあったんだ。コンセプトは何度も聴き直したいと思えるような作品を作ることだった。一度だけ聴いて、仕舞われるような作品にはしたくなかった。それにはともかく良い楽曲を作るしかない。今回はそれを狙ったつもりだ。

MM : 「Trading 8s」では多くのギタリスト達を招き素晴らしい共演を聴かせていました。今回はギター以外のパートにて様々なゲストミュージシャンを招き制作されていますが、このような形式のアルバムにしようと考えた背景について教えて下さい。
CV : 前回はゲスト・ギタリストを多数フィーチャーしたアルバムを作ったからその反動もあって、今回のアルバムでは沢山の弦楽器を使ってアルバムを作りたかった:エレクトリック、アコースティック、ドブロ、マンドリン、エレクトリック・シタール。様々な楽器やアンプを使いつつ、異なるトーンがそれぞれの楽曲を彩っている。それを全て自分で弾くことによって私的な感情に満ちたサウンドになっているという訳だ。

MM : アルバムに参加しているミュージシャン達について紹介下さい。
CV : 参加しているドラマーは全てロサンゼルスを代表するベスト・ドラマーたちばかりだ。ほとんどのドラマーは過去にバンドに参加してもらった経験を持っている。ベーシストのDave MarottaとCliff Hugoも過去にバンドに参加してもらったことがる。それにStu Hammは次のツアーに参加する予定だ。Jimmy Johnsonも何曲か参加してもらった。ドラマーはWalfredo Reyes、Chad Wackerman、Simon Philips、Bernie Dresel、そしてGreg Bissonetteが参加している。サックスはBill EvansとJohn Helliwell、キーボードはJim CoxとMitch Forman。これ以上の優れたミュージシャンたちはいない。彼らと音楽で繋がっていることを光栄に思っているよ。

MM : レコーディングはどのくらいの期間をかけてどのように進められたのでしょうか?
CV : 2012年9月にレコーディングを開始し、2013年4月に終わった。レコーディングはProToolsを使い、全てレコーディング・スタジオで行われた。宅録は一切やっていない。

MM : ファンクなグルーヴが素晴らしい”Julietta and the St. George”では、スティーヴ・モーズ、ドレッグスの雰囲気を彷彿させる曲のオープニングも印象的ですね。
CV : ありがとう!Dixie Dregsには大きく影響されているし、Steveとも友達なんだ。彼はJohn McLaughlinに影響されていて、この曲のイントロはMahavishnuを彷彿とさせる部分もあるはずだ。

  

MM : “Amandola”は口ずさめるような心地よいメロディと軽快さがとても魅力的な曲ですね。Jim Coxのピアノも弾んでいて壮快な開放感がありました。
CV : この曲ではJimに彼なりの解釈でKeith JarrettとBruce Hornsbyを混ぜたようなスタイルで弾いてほしいと頼んだのさ。所謂、パストラル的なオープンで美しいサウンドにしてほしかったんだ。

MM : “Spirit Of Julia”や”Last Days of Autumn”も心に染み入るメロディを持った曲であり、ギタープレイにおける繊細な表現力が素晴らしいのですが、こういった曲におけるプレイ面でのあなたのアプローチ方法について教えて下さい。
CV : こういった楽曲に着目してもらえて、曲を通して自分の意志を感じとってもらえるのは非常に嬉しいことだ。”Spirit Of Julia”では、自分のギターがリード・ヴォーカルに聴こえるようなアプローチをとっている。”Last Days of Autumn”ではエレキのメロディを全て61年フェンダー・ストラトのアーミングを使って弾いている。Jeff Beckに近づこうと試みた訳さ!チョーキングではなくアーミングを使うことによって全く異なるフレージングができるからね。

MM : “Fusioneers Disease”や”Fourth Door on the Right”ではジャズ・フュージョン音楽のファンが喜ぶスリリングな音楽が展開されていますね。
CV : これらの曲はストレートなフュージョンだよ。最近はChick Coreaの『Hymn Of The Seventh Galaxy』やHerbie Hancockの『Thrust』をよく聴いているんだ。中でもHerbieの”Actual Proof”という曲は毎日のようにギターを合わせて弾いているよ。

MM : “Mustang Run”ではJerry Goodmanのエレクトリック・ヴァイオリンとあなたのギターによる素晴らしいソロの掛け合いが印象的です。
CV : とても難しい曲だったし、ソロを弾くには難易度の高い進行でもあったよ。結局、チューニングを半音さげて弾いたよ。Jerryはこの曲で素晴らしい演奏をしてくれている。彼のソロを採譜してあのクレイジーな演奏を覚えようと思っているところだよ!

MM : アルバム中で唯一のボーカル曲である”Bloody Well Right”はSupertrampの曲ですが、どのような経緯で取り上げようと思ったのでしょうか?
CV : ツアー中にたまたまバンドがこの曲のアレンジを考えていて、実際にライヴでやることになったのさ。ロサンゼルスの自宅の近くに600人ぐらい入るCanyon Clubという会場があって、そこでこのカヴァーを披露した。ライヴ後にSupertrampのリーダー/コンポーザーでシンガーでもあるRick Daviesが「よくやったね、カール!」と、声をかけてくれたのさ。それが大きな後押しになったんだ。それに、ライヴを観たファンが何人かこのカヴァーを次のアルバムに入れてほしいとリクエストしたのも理由のひとつだ。

MM : アルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか? 曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
CV :

“Taylor’s Blues”
ギタリストはブルースを弾くのが大好きなのさ。この曲は若い頃によく一緒にバンドをやったJeff Taylorに捧げた曲だ。二人がギターを学んでいた頃の楽しさをリスナーに伝えることができたら嬉しいね。

“Julietta and the St. George”
11才の誕生日に祖母のJuliettaから最初のギターをプレゼントされたんだ。その日に初めてのレッスンもしてくれた。St. Georgeという30ドルのナイロン弦ギターだった。この曲は祖母に捧げた曲でもあり、彼女が子供だった自分に与えてくれた音楽という素晴らしい贈り物に感謝の意を込めた曲だ。

“Fusioneers Disease”
今回のアルバムのために書いた最後の曲だ。今、最もファンキーなベーシスト、Cliff Hugoとこの世で最も素晴らしいドラマーのひとり、Simon Phillipsが共演している曲でもある。元々はFm7のコードの上に乗せるメロディとして作ったんだけど、あまりにもメロディックだったからそのまま曲にしてしまったのさ。

“Last Days of Autumn”
James Taylorのスタイルで書いたバラードだ。リズム・セクションのChad WackermanとJimmy Johnsonは実際にJTとプレイしている。アコースティック・ギター、チェロ、そしてエレキ・ギターの3つの声によって夕日を表すようなサウンドを作り上げている。また、ギター・ソロのバックを支えるChadの大きくて力強いポケットが心地いいね。

“Amandola”
かなり早い段階でこのメロディを思いついたんだけど、なかなか頭からメロディが離れなかったよ。ライヴで演奏するにはキーボーディストが必要になる。多くの友人たちはこの曲を一度聴いただけでメロディを口ずさんでいるよ。

“Bloody Well Right”
スライド・ギターによってブルージーで泥っぽい雰囲気に仕上がった楽曲だ。SupertrampのJesse SiebenbergとJohn Helliwellがどこかで聴いたことがあるような雰囲気をより明確に表現してくれている。

“Riding the Bean”
コーヒーを題材にした曲だ!Supremes の“You Can’t Hurry Love” とKatrina and the Waves の“Walking on Sunshine” を混ぜたようなグルーヴだ。曲は全編テレキャスターで弾いていて、スライドは1956 Supro Dualtoneでオーバーダブしている。65年リッケンバッカーの12弦とエレクトリック・シタールも少し加えてある。

“Passage to Run”
“Riding the Bean”を録音していた時に、曲のエンディングの後からそのままジャムが続いたんだ。その音源にギターを何本か重ねて、ハモンドB3のベース・ペダルを足した。更に”Mustang Run”のイントロ・フレーズをストラトで録音し、それを加えてひとつの曲に仕上げたのさ。このアルバムの中でも大好きな瞬間だ。全てアドリブだしね。

“Mustang Run”
元々はバラードだったものをテンポを速くしたら全く違った印象のメロディになってしまい、そのメロディが頭から離れなくなってしまったんだ。この曲におけるJerryの音が凄く好きなんだ。コードが変化していく上で、メロディをより引き立たせてくれる演奏を彼はいつもしてくれる。

“Fourth Door on the Right”
個人的に8分の6のフィールが大好きなんだけど、Chadだったらきっと凄い演奏をしてくれると思ったよ。Bill Evansのソロも素晴らしい。彼はとても優れたプレイヤーだし、ともかくトーンがいいね!それに、2回目のサビのギター・ソロ部分のバックのJimmy Johnsonのプレイにはやられたね!

“Spirit of Julia”
今年、古くからの友人がひとり亡くなってしまったんだ。みんな彼女のことがとても恋しくてね。教会音楽のような進行で書いた曲なんだ。ギターを使って自分の魂から気持ちを込めて歌いながら彼女に捧げている。

MM : 今回のアルバムの中で使用したギター、アンプ、エフェクター、ペダル類を教えて下さい。
CV : 全てを説明するには何時間もかかってしまうよ。何故なら僕はギターを70本、アンプを45台持っているからね。今回のレコーディングでは主にレスポール数本、ES-335、ギブソンSG、ストラト、テレキャス、Gretch 6120、リッケンバッカー12弦、それにアコースティック・ギターも数本使っている。アンプはDr Z、Fender、Marshall、Gibson等をそれぞれ何台か使っている。可能な限り様々なトーンを使いたいと思っていたんだ。

MM : アルバムでは素晴らしいギターサウンドを聴くことが出来ますが、サウンド作りであなたが心掛けたことや工夫していることをお聞かせ下さい。
CV : その楽曲のメインとなるトーンをまず決めるようにしているよ。その他のトーンは、メインをサポートするものだと捉えている。リズム・サウンドを大きくし過ぎて、リードのメロディやソロが貧弱に聴こえてしまうようなことは避けたいからね。

MM : LsLよりあなたの最新シグネイチャー・ギター「CV Studio」が登場しましたが、このギターを新たにラインナップすることになった経緯を教えて下さい。 
CV : 元々はストラトのデザインの件で相談があったんだ。僕がストラトと一緒に寝るほど好きだって知っていたみたいでね(笑)僕はストラト、もしくはストラトタイプのギターを13本所有していて、自分だけの特別なセッティングがあるんだ。彼らが作ったLsL Saticoyというモデルを見せてもらい、そのモデルを何カ所か改良するように指示をしたんだ。その後、Saticoyのハイ・エンド(高級)タイプがCV Specialとして出された。CV Studioはノイズが出ないSeymour Duncanのピックアップがマウントしてあって、スタジオ・ワークに適したモデルとなっている。どっちのモデルもいつも使っているよ!

MM : あなたはトップ・レベルのセッション・ギタリストとして映画・TV音楽から有名アーティストのアルバムに至るまで数多くの作品に参加していますが、特に思い出に残る作品やエピソードはありますか?
CV : 最近、映画「カーズ2」で演奏できたのは楽しかったね。サウンドトラックにはsurf guitar、spy guitar、country guitarというパート分けがされていたのが面白かったよ。過去には何百といったテレビ番組やアルバムのレコーディングに参加したけど、Supertrampの『Some Things Never Change』はとても楽しかった思い出があるよ。大きなスタジオに1ヶ月も滞在しているなんて、まるでキャンプみたいで最高だったよ!

MM : 長年に渡り音楽の世界で現在の位置をキープし続けていく上であなた自身が常に努力し取り組んでいることは何でしょうか?
CV : 自分の場合は主に3つの異なる活動によって成り立っている気がする:スタジオ・ミュージシャン、Supertrampのメンバー、そしてソロ・アーティスト。ソロ・アーティストとして活動している時はライヴ演奏以外にも様々なことができる:世界中で音楽を教えることができるし、自分や他のアーティストの作品をプロデュースすることもできる。それに本やDVD、インターネットでも教材を発表することができる。このように様々な分野の仕事に携われる機会を得ていることは、複数の収入源があるということだ。この時代、そしてこの年齢でそれは非常に重要なことだと思うよ。

MM : あなたのような優れたセッション・ギタリストを目指しているギタープレイヤー達にギターへの取り組み方は勿論のこと、仕事に必要とされる心構えに至るまでアドバイスを頂けますか?
CV : 自分の楽器を学んで行く過程で、自分は様々な音楽スタイルが好きだということに気づいたんだ。その瞬間、「僕はジャズ・ミュージシャンだから・・・」みたいな意味も無い理由でそういった音楽スタイルから自分を遠ざけるのはやめようと思ったのさ。ロック・ギタリスト、速弾きギタリスト、カントリー・ギタリスト、ブルース・ギタリスト等、自分がなれるものは全部なってやろうと思ったよ。楽譜を読むのも得意になったし、クラシックだって弾けるようになった。スチール弦のアコースティック・ギターも弾けるようになったし、スライドも得意になった。時間はかかる・・・でも、その考え方を持っていれば常に仕事はできるよ。

MM : 今後のあなたの活動予定について教えて下さい。
CV : 今年の前半はアルバム「Mustang Run」をレコーディングしていたからね、後半は実際にアルバムの曲をライヴでやることが多くなるだろう。まずはアメリカ東海岸のミニ・ツアーを2回予定している。その後、ヨーロッパを7週間かけて回る。2014年には是非とも日本に行きたいね!

MM : それでは日本のファンへメッセージをお願いします。
CV : 長年、いつも応援を続けてくれて本当にありがとう!「Mustang Run」を楽しんでくれることを願っているよ!

 

Carl Verheyen official site : http://www.carlverheyen.com/
オフィシャル日本語サイト : http://www.museonmuse.com/carlverheyen/

Mustang Run / Carl Verheyen

1.Taylor’s Blues
2.Julietta and the St. George
3.Fusioneers Disease
4.Last Days of Autumn
5.Amandola
6.Bloody Well Right
7.Riding the Bean
8.Passage to Run
9.Mustang Run
10.Fourth Door on the Right
11.Spirit of Julia