Vol.22 Bobby Caldwell / April 2013

Bobby Caldwell

 
世界的なシンガー・ソングライターとして珠玉の名曲を作り続けているボビー・コールドウェル。ボビーは数多くのアーティスト達に楽曲を提供しており、それら中でもピーター・セテラ & エイミー・グラントに提供した”Next Time I Fall”、ボズ・スキャッグスの”Heart of Mine”などは日本でも特に有名である。今回のインタビューではボビーの音楽的なバックグランド、作曲面における考え方や最新のオリジナルアルバム「house of cards」について語ってもらった。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : 昨年は最新作「House of Cards」のリリース後に東京、大阪で日本公演を行いましたが如何でしたか?
Bobby Caldwell (以下BC) : 僕もバンドメンバーも日本公演をとても楽しんだよ。新作「House Of Cards」の曲をお客さんが一緒に歌ってくれたのが印象的で凄く嬉しかったね。

MM : あなたは既に世界中の音楽ファンに知られているトップアーティストですが、今回のインタビューを通して初めてあなたのことを知る新しいファンもいるかと思いますので、まずはこれまでのプロフィール的なことからお聞かせ下さい。ショービジネスの世界に携わっていたご両親の影響により音楽に興味を持ちフランク・シナトラ、ナット・キング・コール、トニー・ベネット、そしてビートルズといったアーティストを聴いて育ったとのことですが、彼らの音楽からどのような影響を受けましたか?
BC : 両親はSummer Stockという演劇に出演していた後にアメリカのテレビ史で最も古い番組のひとつで、DUMONTというテレビ局が放送していた”Suppertime”の司会を務めていた。両親は演劇、そしてAmerican Songbookが大好きだった。きっと、両親が好んでいた音楽が幼い自分に何らかの影響を与えていたに違いない。僕も演劇は大好きだし、シナトラは毎日のように聴いている。その手のジャンルでアルバムを何枚かリリースしているしね。その中で最近リリースしたのが『Bobby Caldwell Live at the Blue Note Tokyo』という作品だ。僕は古いクラシックを演奏するのは大好きだ。それと、BEATLESも大好きだよ。彼らがどのようにして名曲を作り上げたかを研究していた時期もあった。彼らは当時の音楽シーンの中で時代を先取りしていたし、あの楽曲の数々は不滅だ。ある意味、自分にとってそれが成功のバロメーターでもあるんだ。ひとつの時代から次の時代へと愛される楽曲こそ名曲と呼べる。

MM : 楽器を始めた当時の年齢やきっかけについて教えて下さい。
BC : 10才の頃に親に勧められてピアノを始めた。でも、自分の中ではずっとギターをやりたいと思っていたんだ。13才の時に、草刈り等の家のお手伝いで貯めたお駄賃でStellaのアコースティック・ギターを買った。ギターを買ってからは部屋で何時間も弾いていたよ。アナログ・プレイヤーでBEATLESのドーナツ盤をかけながらずっとギターを弾いていたね。そのうち、BEATLESのシングル曲はほぼ全て演奏できるようになっていた。今でも彼らの曲を弾くのは大好きだよ。夜遅くに家の台所でギターを持って歌い出したら朝まで歌い続けていることもあるよ。

MM : その当時は周りの音楽仲間とバンドを組んだりしていましたか? どのような音楽をプレイしていたのでしょうか?
BC : 僕はニューヨークで生まれながら幼少時代の殆どをフロリダ州マイアミで過ごしたんだ。14才の頃に友達とTHE NIGHT WALKERSというバンドを始めた。ポップ・バンドだった。最初はそれぞれのメンバーの家のガレージで練習していた。その後は学校のダンスパーティー等でも演奏するようになったんだ。僕はギターとヴォーカルを担当していた。若い学生にしてはなかなかいいバンドだったよ。

MM : プロのミュージシャンとして初めて携わった仕事や当時の思い出についてお聞かせ下さい。
BC : 13才の時、マイアミにあるクラブに裏口から忍び込んだことがあってね。確かThe Sceneというクラブだった。そこで演奏していたTHE COLWELL WINFIELD BLUES BANDのステージにギターを持って飛び入りしてジャム・セッションをしたのさ。終わったらバンドから20ドル貰ったよ。それが初めての仕事だったね!その後、僕はギタリスト/ヴォーカリストとしてトップ40系のカヴァーバンドのメンバーとしてフロリダ州のクラブ・シーンで仕事をしていた。やがて、ロサンゼルスのクラブ・シーンを目指してバンドのメンバーとカリフォルニアへ行ったんだ。その頃から僕はオリジナル曲を書きながらレコード契約を探すようになっていた。

MM : これまでに数多くの素晴らしい作品をリリースしていますが、あなたの音楽キャリアを語る上で特に印象深い作品とその理由についてお聞かせ下さい。
BC : 僕の初めてのレコード契約はマイアミのTK Recordsというレーベルと交わしたものだった。そのレーベルから発売されたデビュー・アルバムが1979年リリースの『What You Won’t Do For Love』だった。このアルバムのタイトルトラックは今でもラジオで流されているし、数えきれないほど多くのアーティストにカヴァーされている。このアルバムが今でもリスナーの間で忘れられない作品になっていることが何よりも印象深い。本当にありがたいね。

 

MM : あなたが作った曲は数多くのアーティストに取り上げられており、それら中でもピーター・セテラ & エイミー・グラントに提供した”Next Time I Fall”、ボズ・スキャッグスの”Heart of Mine”などは日本でも特に有名です。彼らに曲を提供したいきさつや当時のエピソードなどを教えて下さい。
BC : 実は僕にはレコード契約が無い時期があってね。だから、その頃はボズ・スキャッグスやCHICAGO、アル・ジャロウ等、様々なアーティストのために曲を書いていたんだ。”Next Time I Fall”はピーター・セテラがCHICAGOを脱退してソロ・アーティストとしてキャリアを踏み出そうとしていた頃、彼に提供した楽曲だ。ピーターとエイミーにとっては大きなヒット曲となった。自分にとっても非常にありがたいことだったね。

MM : あなたのようなシンガー、ソングライターとして世界的にトップレベルのアーティストになるには才能は勿論のこと、音楽を始めた頃から培ってきた独自の音楽に関する鋭い観点からの取り組み方法にもあるのではないかと思われます。シンガーとして能力を上達させる上では、どのような観点で音楽を聴き、そこから学んだのでしょうか?
BC : 自分にとってシンガーの最も大切な要素はいかに楽曲の意味を自分の感情で表現できるかなんだ。その点、シナトラは素晴らしかったね!歌詞の意味を体で感じ、その言葉ひとつひとつを、誠意を持って伝えることだと思う。そうすることによってリスナーはその楽曲を好きになるのさ。

MM : それでは最新作「House of Cards」について聞かせて下さい。最新作「House of Cards」は心地よいメロディを持つバラエティに富んだ楽曲が印象的な素晴らしい作品ですが、アルバムのコンセプトについてお聞かせ下さい。
BC : 自分が今までに受けた音楽的な影響を一枚のアルバムで表したいと思って作った作品なんだ。自分に衝撃を与えた様々な音楽スタイルをリスナーにも伝えたいと思ったのさ。「House of Cards」は割と幅広いサウンドやスタイルをミックスした作品に仕上がっている。スムーズ・ジャズからラテンやカントリーまで、様々な音楽スタイルを網羅している。

MM : 今回のアルバムの制作にはどのくらいの期間を要したのでしょうか?
BC : 僕の頭の中には常にメロディや歌詞が流れている。だから作曲は常にコンスタントなペースで行っている。今回の「House of Cards」の制作に関しては12月に作業を開始して翌年7月には完成していた。

MM : アルバムにはDave Koz、David Horgan、Andrew Neuが参加していますが彼らが参加した経緯をお聞かせ下さい。彼らとの作業は如何でしたか?
BC : Dave Kozは長年の知り合いだ。1980年代も僕のバンドに参加してもらえて本当に光栄だった。彼はとても素晴らしい人間だし、音楽家としても達人だ。彼と一緒に仕事をするのはいつも楽しいよ。「House of Cards」にはカントリー調の曲もあって、そういった曲にはペダル・スティール・ギターが必要だった。サウンド・エンジニアのRichard McIntoshがモンタナ州のペダル・スティール・プレイヤーを知っていて、それがDavid Horganだった。彼は素晴らしい仕事をしてくれたよ。Andrew Neuは僕のバンドで今サックスを吹いているプレイヤーだ。彼は素晴らしいサックス・プレイヤーだよ。お互いのアルバムで演奏している仲なんだ。これからも、彼とはずっと一緒に仕事をしていくつもりだ。

MM : あなたは様々な楽器をプレイしますが、自分自身でプレイする場合、他のミュージシャンにプレイを依頼する場合とではどのような考えで切り分けているのでしょうか?
BC : 僕は管楽器以外だったらほぼ何の楽器でもプレイできる。だから、サックスを吹くことはないのは確かだと思うよ!

 

MM : アルバムであなたはギタリストとしても曲にマッチした実に味のあるプレイを披露していますが、ギタリストとしてはどのような音楽、ミュージシャンから影響を受けましたか?
BC : 僕はジミ・ヘンドリックスがずっと好きだったね。若い頃は彼のプレイを聴いて勉強をしたんだ。僕にとってジミ・ヘンドリックスは永遠にナンバーワンだ!

MM : アルバムで使用したギターやアンプ、ペダル類について教えて頂けますか?
BC : ギター・アンプは使っていない。BOSS GT10でアンプのモデリングやエフェクトをかけて、AVALONのコンプレッサー/リミッターを通している。そのふたつの機器があればどんなアンプの音でも作れるよ。ギターはノース・ハリウッドのPERFORMANCE GUITARSに作ってもらったカスタムのストラトキャスターを使った。

MM : アルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか?曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。 
BC :

“GAME ON”
“Game On”という表現はアメリカのキャッチフレーズで「勝負の始まりだ!」という意味。普段はスポーツで使う表現だけど、オフィス等の仕事場でも使うことができる。この曲はウォール街で儲け過ぎた奴のことを歌っている。

“BLUE”
人間の感情を色で例えてみたんだ。別れた恋人のことを思い出したくない、男のシンプルな物語だ。

“DANCE WITH ME”
ずっとタンゴ調の曲を書きたいと思っていたんだ。テレビ・シリーズの「Dancing With The Stars」にインスパイアされて書いた曲だ。

“IT’S ALL COMING BACK TO ME NOW”
いつもとはちょっと違った順番で出来上がった曲なんだ。この曲に限っては歌詞を先に書いた。しかも、その歌詞は一晩で書き上げたんだ。時に曲作りは非常に根気の要る作業だけど、この時はすぐに完成した。歌詞を完成してから友人でもあるマーク・マクミレンと一緒に曲を書いた。

“HEARTS ON FIRE”
一人で部屋にいる女性、バーを出ていく男性、その二人が偶然出会うというシーンを想像していたところからこの曲が出来上がった。小さな街の雰囲気を持った楽曲だ。自分の頭の中でヴィジュアルがはっきりしているんだ。きっといいミュージック・ビデオができるだろうね。

“ONE OF THOSE NIGHTS”
やり手のポーカー・プレイヤーを題材にした曲だ。みんなが必死になって勝とうとしている相手なんだ。”Close the door. Dim the lights, and then pour another scotch on ice.”(訳=扉を閉めて、明かりを暗くして、氷の上にスコッチを注ぐ)と歌っているところがたまらなく好きなんだ。

“DEAR BLUES”
元々、自分に向けた手紙から曲へと発展したものだ。この曲を完成させるのには長い時間と労力がかかったよ。この曲のレコーディングではギターを弾くのが楽しかったよ。

“DINAH”
実は若い頃にテネシー州や南北カロライナ州に住んでいた時期もあったんだ。だから田舎のライフスタイルをよく知っているのさ。男なら誰でも”Dinah”(愛しい女性)がいないとね!

“WHAT ABOUT ME”
この曲は親友のマーク・マクミレンと一緒に書いた曲だ。この曲がアメリカでのファースト・シングルになった。チャートでも良い結果を残している。

“MAZATLAN”
この曲は自分にとってヴィジュアルが想像しやすい曲なんだ。平凡な男性を題材にしている。その男は現実を忘れてビーチに行くことをずっと考えているのさ。僕は今も、これからもずっとビーチが大好きだ。

MM : 最近はテクノロジーの発達により音楽制作を行う上での様々な便利なレコーディング・ツールが出ていますが、あなたが音楽を創る上で以前と変わった点はありますか? 現在の状況をどのように感じていますか?
BC : 音楽ビジネスが変わったのは明らかだよね。テクノロジーによって人間の人生における様々な要素が変わったのも事実だ。僕はテクノロジーを受け入れることが正しい道だと思っているよ。否定しても昔に戻れる訳じゃないからね。常に前へと進み続けるものだから。でも、僕はそんな中でも純粋主義者でもあるんだ。今でも曲はギターを使って書いている。曲の大半が出来上がったらスタジオに持ち込んで作業を続ける。その時点で使えるツールを駆使し、更に生楽器と共に曲を完成していく。

MM : 注目している新しい世代のシンガー、ソングライターははいますか? もしいるのであれば注目している理由も含めて教えて下さい。
BC : ADELEはシンガー/ソングライターとして印象的だし素晴らしいと思うね。ジャスティン・ティンバーレイクも底知れぬ才能を感じる。今年のグラミー授賞式でのパフォーマンスは素晴らしかった。最近ではジャック・スプラッシュという若いプロデューサー/ソングライターと仕事をすることもあって、彼もグラミー賞を受賞している。ジャック・スプラッシュはシーロー・グリーン、メラニー・フィオナ等、若いR&Bやポップ系のアーティストと仕事をしている。彼とはマイアミで一緒に作曲やレコーディングの仕事をしている。彼との仕事はとても楽しいよ。一緒に作った曲も最高さ。

MM : 今後の活動予定について教えて下さい。
BC : ここアメリカでは、「House of Cards」からのセカンド・シングルとして”Game On”がもうすぐリリースされる。ファースト・シングルとしてリリースした”What About Me”の反応にはとても満足していて、引き続きツアー等のライヴ活動を行っているところだ。この間、ラスベガスのSanta Fe Station CasinoにあるThe Chrome Showroomでショウをやったばかりだ。最高のショウだったね。ラスベガスには家族もいるから、ともかく楽しいんだ。今年中にはまたラスベガスでショウをやろうと思っている。それ以外に高橋真梨子のプロジェクトにも携わっている。とても光栄なことだ。これから、またマイアミに戻ってジャック・スプラッシュとのプロジェクトを終わらせないといけない。今年の後半には自分のバンドと日本ツアーを行う予定だ。みんな日本へ行くことを楽しみにしているよ。

MM : 最後に日本の音楽ファンへメッセージをお願いします。
BC : 日本のファンのみんなには常に感謝している。僕にとって日本のファンひとりひとりがとても大切な存在だ!

 
Bobby Caldwell Official Site : http://www.bobbycaldwell.com/ 



House of Cards / Bobby Caldwell

1.Game On
2.Blue
3.Dance With Me
4.It’s all Coming Back to Me Now
5.Heart’s on Fire
6.One of Those Nights
7.Dear Blues
8.Dinah (Diamond in the Rough)
9.What About Me
10.Mazatlan