Trevor Rabin
前作「CAN’T LOOK AWAY」から23年ぶりとなる作品「Jacaranda」をリリースしたトレヴァー・ラビン。 80年代のYESのアルバム「90125」の大ヒットの立役者としてアーティストとしての世界的な評価を確立し、YESとしての活動から離れた後は、主に映画音楽家として「アルマゲドン」、「ナショナル・トレジャー」など数々の映画に携わり、優れた音楽作品を創り続けている。 新作「Jacaranda」についてトレヴァーに語って貰った。
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)
前作「CAN’T LOOK AWAY」から23年ぶりとなる「Jacaranda」をリリースしたトレヴァー・ラビン。 80年代のYESのアルバム「90125」の大ヒットの立役者としてアーティストとしての世界的な評価を確立し、YESとしての活動から離れた後は、主に映画音楽家として「アルマゲドン」、「ナショナル・トレジャー」など数々の映画に携わり、優れた音楽作品を創り続けている。
前作「CAN’T LOOK AWAY」ではボーカリストとしても優れた才能を発揮していたトレヴァーであるが、新作「Jacaranda」は全曲インストゥルメンタルの作品となっている。
新作「Jacaranda」のリリース後も新たな映画音楽のプロジェクトなどで超多忙な日々を送っているいるトレヴァーではあったがMUSE ON MUSEのインタビューに応えてくれた。
Muse On Muse (以下MM) : あなたのソロアルバムとしては89年にリリースされた前作「CAN’T LOOK AWAY」からおおよそ23年ぶりとなる新作「Jacaranda」を完成させた今のお気持ちをお聞かせ下さい。
Trevor Rabin(以下TR) : 作品を作るのに時間がかかったのには理由があるんだ。今回は自分なりに何かを伝えたいと思うことがあったから、ゆっくりと作品を作りたかった。作品を作っている時はとても楽しかったし、元気をもらったよ。完成した今、作った中で最も触発された作品に仕上がったと思っている。
MM : 「Jacaranda」を制作しようと考えた経緯及び、アルバムのコンセプトをお聞かせ下さい。あなたはシンガーとしても素晴らしい才能をお持ちですが、今作は全曲インストゥルメンタルの音楽となっています。全曲インストゥルメンタルにしようと思ったのはなぜですか?
TR : 今回の作品ではオーケストラをフィーチャーしたいというコンセプトがあった。それを念頭において曲を書いたり作業を進めた。YES時代にはできなかったことだったから、今回の作品ではその目標を達成したかった。
MM : これまでの間、あなたは映画音楽の作曲家としても活動し成功を収めていますが、映画音楽の世界に活動の場を移すこととなった経緯についてお聞かせ下さい。 映画音楽における仕事は、それまでにあなたが手掛けてきたRABBITTや自身のソロ活動、YESとは違ったフィーリングをあなたに与えているのでしょうか?
TR : 映画音楽の仕事はどちらかというとクラシック音楽を書いているのと似ている。映画音楽に携わることによって多くを学び、そして触発されたと思っている。手がけた全ての作品それぞれから新しいスタイルを得ることができたと思うよ。
MM : 今回のアルバムの制作にはどのくらいの期間を要したのでしょうか?
TR : レコーディング期間は6年以上かかっている。これは映画音楽に携わっている時間が長かったからでもあるんだ。映画音楽の制作をしている時は2、3ヶ月の間、一日24時間、週7日間作業していたからね。映画の仕事が終わったらアルバムの作業をするという感じだったよ。何年間に渡って不定期的に制作をしていたこともあって、曲のアイデアもその場のインスピレーションによって作られている。でも、最後の一年はアルバムを完成させることに専念したよ。
MM : あなたはどの楽器もこなせるマルチプレイヤーですが、今回のアルバムでもあなた自身がほとんどの楽器パートをプレイしているのでしょうか? 他に参加しているミュージシャンはいますか?
TR : 自分以外に参加しているのはドラマーのVinnie ColaiutaとLou Molino、それに自分の息子のRyan Rabin (Grouplove)。ベーシストとしてTal Wilkenfield (Jeff Beck, Herbie Hancock)が”Anerley Road”という曲でプレイしてくれている。それと”Rescue”ではLiz Constantineが歌ってくれている。
MM : アルバムを聴いた第一の印象は、その音楽の完成度の素晴らしさはもちろんですが、あなたの高次元の超絶なギタープレイ、テクニックが相変わらず健在であることに驚かされました。というのも、これまでの間、あなたは映画音楽の作曲家として多忙な日々を送っており以前のYESやソロ活動の時と比べるとギターを弾く時間はすごく限られていたかと思います。そのような状況でこれほどのテクニックを維持することはかなり難しいように思えるのですが、今回のアルバム制作に向けてギターテクニックに関する何かウォーミングアップ的な期間を設けたのでしょうか?
TR : 自分のギターテクニックを維持することに関しては常に真剣に取り組んでいるよ。ともかく、長い時間プレイし続けることが大切なんだ。映画音楽の仕事の合間はもちろん、映画音楽制作中でもプレイする時間を必ず作っているよ。
MM : オープニングの”Spider Boogie”はアコースティックなスライドプレイと、エレクトリックギターの縦横無尽に跳ね回っているようなリズムギターがとても印象的でした。異なるスタイルを持つ2人のギタリストが共演しているようなライブ感がありますが、実際はあなた1人のプレイを重ねたものでしょうか?
TR :そのとおりだ!
MM : “Market Street”も各楽器のリズム的な展開や絡みがとても面白く、それが良い意味で癖になり何度も繰り返し聴きたくなる曲ですが、曲に対するリズム面からのアプローチ方法についてのあなたの考え方をお聞かせ下さい。
TR : 変拍子を使うのはとても好きなんだ。自分の楽曲でもよくそういう要素を取り入れている。時には同じ曲の中で2つや3つ異なる拍子記号を使うこともあるよ。
MM : “Annerly Road”のイントロはあなたのオフィシャルWEBサイトで以前から流れており聴くことが出来ましたが、昔からアイデアを温めていた曲なのでしょうか?
TR : あの曲は何年も前に書きはじめた曲なんだ。やっと完成させてアルバムに収録することができたことにとても嬉しく思っているよ。
MM : “Through The Tunnel”な静かなピアノにアコースティックなギター、そして、その対極となる激しいリズムにハードなディストーションによるギターサウンドの対比がとても素晴らしい曲ですね。
TR : この曲はシャッフルのようでありながら拍子が8分の20なのが面白い。それによって曲が進むにつれ、何か面白いダイナミクスが曲の中で生まれているのが興味深い。
MM : “The Branch Office”を聴きつつ、というか今回のアルバム全体に通じますが、アルバムの中におけるあなたのギタープレイは、曲を構成する上で必要とされるフレーズがまずあって、それに基づいてプレイしているように感じられます。 それらフレーズは、多くのギタリストがアドリブ時に聴かせる手癖のプレイのように勢いだけで乗り切れるものではなく、誤魔化しが一切できないものばかりですよね。そういった点でも今回のアルバムのギタープレイはどれも難易度が非常に高いように感じたのですが、実際はどうでしたか?
TR : 僕は常に自分のギターテクニックや技術を向上させようと努力をしている。今回、自分が完成させたアルバムを聴いてとても満足な気持ちだ。でも、また数ヶ月後に聴いたら違った聴こえ方がして、色々と変えたくなるだろうね。
MM : “Rescue”は非常に美しく荘厳な曲であり、厳格に響き渡るギターのコードサウンド、そして神聖な雰囲気を持った女性の歌が非常に印象的な曲ですね。
TR : この曲のメロディはいつも気に入っていたよ。自分がそのメロディを曲中に置いた場所もぴったりだと思っているよ。
MM : “Killarney 1 & 2″は美しいピアノ曲ですが、この曲のピアノはあなたがプレイしているのですか? あなたが作曲を行う際はピアノを使うことが多いのでしょうか、それともギターを使用することが多いのでしょうか?
TR :そうだよ。アルバムでは僕がピアノを弾いている。作曲をする時はピアノで書くこともあれば、ギターで書くこともあるね。
MM : “Me and My Boy”ではハード・ロックのフィーリングを持ったオープニングのギターリフが実にインパクトを持っていますね。
TR : この曲は息子のライアンと一緒に演奏した曲だ。息子と一緒に演奏するのはとても楽しい。
MM : “Freethought”、”Zoo Lake”はメロディックで曲の持つバイブがとても心地よいフュージョンミュージックといった感じですが、フュージョンミュージックにありがちな各楽器パートの長いソロプレイの応酬はなく、コンパクトで聴きやすい曲のサイズでした。 そのあたりについてはプレイヤー志向のリスナーだけでなく、一般的な音楽リスナーも意識し、バランスを考慮した結果なのでしょうか?
TR : 曲の構成に関しては全て自然の流れに任せているよ。
MM : あなたが曲を創る際のイマジネーションは何処から得ているのでしょうか? 楽器のテクニックといった部分の修得であれば、楽器をプレイすることで得られるように思います。しかし曲を創る上で必要となる創造力といった部分は作曲理論や作曲法の修得といった部分のみでなく、その人がこれまでに体験してきた人生の全ての部分がベースとなり、曲に現れるような気がするのですが、あなたの考えをお聞かせ下さい。
TR : いい質問だね。いつ曲のアイデアが出て来るかは分からない。どこからアイデアが浮かんで来るのかも分からない。僕にできるのはスタジオに入り、自分が何かを創るという意識を持ってその場にいることだけなんだ。そこで何かが浮かんだらラッキー。浮かばなければ、また次にスタジオに入る時に期待するだけのことだ。
MM : 今回のアルバムで使用したギター、アンプ、エフェクターを教えて下さい。また使用した弦なども教えて下さい。
TR : アンプはAmpeg VT120やMarshall 100、それにFernandez等、いくつか使っているよ。エフェクトはKorg A3。それにBob Bradshawが作ったラックがある。ラックにはMXRのコンプレッサー、Rolandのファズ・ボックス、MXR Delay 1500、それにTC6000のリヴァーブ・ユニットが入っている。それにソフトウェア・べースのコンプやディレイもいくつかある。ドブロを使う時はNeuman 87をギターから30cmほど離した場所に立てている。弦はD’Adarioを使っている。
MM : 現在の最新デジタルテクノロジーから創りだされている様々なギターサウンドや音楽についてあなたはどのように感じていますか?
TR : デジタル・プラグインを使っても、意識をしていればある程度自然な音をキープすることは可能だと思うよ。でも、個人的には昔からのやり方で普通のアンプを使って音を出す方が好ましいね。
MM : 今後の活動予定を教えて下さい。今回のアルバムのリリースに伴う久々のツアーの予定はありますか?
TR : このアルバムはあくまでも自分の楽しみ、そして音楽に対する愛情で作った作品だ。特にこのアルバムを完成させた後のことに制限をしてはいないが、自分としてはアルバムを完成させたという達成感を感じているところだ。今は特にそれ以上の予定はない。
MM : あなたの新作を長い間心待ちにしていた日本のファンへのメッセージをお願いします。
TR : 日本で起こった数々の悲劇に悲しんでいるのは自分だけじゃない。苦しい時期を経験したり、孤独を感じている多くの人々と自分の音楽を通して繋がることができればと思っている。特に”Rescue”を作っている時は日本のことを想いながらレコーディングをしていたよ。”Rescue”という曲人生における混乱や人間の生きる理由を描いた曲だ。イントロでは何かを探し求めている雰囲気から曲中では希望をイメージした作りになっている。そして曲の終わりには平和と希望が表現されている。この平和と希望を日本の皆さんと分かち合いたい。
Trevor Rabin official site : http://trevorrabin.net/
Jacaranda / Trevor Rabin
1 Spider Boogie
2 Market Street
3 Anerley Road
4 Through The Tunnel
5 The Branch Office
6 Rescue
7 Killarney 1 & 2
8 Storks Bill Geranium Waltz
9 Me And My Boy
10 Freethought
11 Zoo Lake
12 Gazania