ミュージシャンのブルース・スプリングスティーンが3月15日にSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)の基調講演者として、音楽やエンターテインメントの今後方向を示すようなユーモアと感動に満ちたスピーチを披露した。
SXSWは25年前にスタートした世界最大のコンベンションフェイスティバルである。最初は音楽のみのイベントであったが、今は映画、インターネット(インタラクティブ)の分野が加わり、各業界の著名人や関係者がテキサスのオースティンに集まり、世界中が注目する重要イベントとなっている。日本ではいよいよ今週3月21日にスプリングスティーンはの新作『レッキング・ボール』が発売されるが、海外では既に全米全英を含む14カ国で1位を獲得し、多くの新聞社や音楽メディアが「スプリングスティーン史上最高の名作」と評され、期待が高まっている。
スプリングスティーンのスピーチは「なんで皆こんなにアホみたいに早起きをしているんだ?俺のスピーチが終わる頃には寝てしまっているだろうね」という謙虚なジョークから始まり、その後はロックの歴史と自分自身の音楽との関係について50分近く語った。
スプリングスティーンは自分をインスパイアしてくれたミュージシャンたちへの愛を語った。ウディ・ガスリー、ハンク・ウィリアムズ、エルヴィス・プレスリー、ロイ・オービソン、ビートルズ、ボブ・ディラン、ジェームズ・ブラウン、カーティス・メイフィールド、そして中でも自分が最も影響を受けたの、イギリスのビートグループであるアニマルズは「ロックンロールの世界で最も不細工なグループの1つ」だとしながらもその愛を熱く語った。
「若いミュージシャンはよく聴いときなよ。」そう言ってスプリングスティーンはアニマルズ”Don’t Let Be Misunderstood” のリフをギターで弾いてみせ、そこから瞬時に自分自身の名曲”Badlands”へ移行してみせた。「うまくパクるっていうのはこういうことなんだ。」
スピーチの中の随所随所にこのようなユーモアを挟みながらも、音楽文化、創造活動の核心にも触れた。
「俺の音楽はもともとレコードという形態でリリースされていたけれど、今では1と0のコンピュータの世界が主流になり、俺が13歳の時から集めてきた全レコードコレクションを胸ポケットに入れておける時代になった。その間も一貫して変わらなかったことは1つだけだ。それは創造の起源と力、ソングライターや作曲家、あるいは作り手の力だ。だから、人がダンスミュージックを作ろうと、アメリカーナ、ラップミュージック、あるいはエレクトロニカであろうと、大切なのは、作り手がいかに自分のやっていることをまとめ上げるかということで、どういう要素を用いているかというのは大した問題じゃない。人間の表現や経験の純粋さというのは、ギターやチューバ、ターンテーブル、マイクロチップなんかに制限されるものじゃない。正しいやり方、純粋なやり方なんてどこにもない。ただやるのみだ。」
そして最後は、若いミュージシャンに対して、
「しっかり前へ進んで行くことだ。耳を澄まし、心を開くこと。自分のことをあまり真剣に考えすぎず、でも死そのものと同じくらい真剣に考えるんだ。心配するな。必死で気を揉め。まっすぐな自信を持ち、なおかつ疑うこと。そうすれば油断せず、機敏でいられる。自分が町で最高にクールな奴だと信じるんだ。そして、自分は最低だ!とも。そうすれば正直でいられる。自分の胸と頭の中に、いつでも2つのまったく正反対の理想を持っていられるようにすること。それで頭がおかしくならなければ、きっと強くなれる。挫けず、ハングリーであり続けろ、生と向き合い続けろ。そして今夜ステージに立ち、さあやるぞという時になったら、それが自分のすべてだというつもりでやるんだ。ライヴで演奏し、観客を納得させること、毎晩、毎晩続けること。そして覚えておいてほしい。イッツ・オンリー・ロックンロール、ということを。」
とメッセージで締めくくった。笑いあり、感動あり、ギターでの弾き語ありの基調講演は、「スピーチ」という枠を越えた「ショー」でありスプリングスティーンという男の物語であった。普段と変わらぬ大股歩きで退場するスプリングスティーンを、会場は惜しまぬスタンディングオベーションで称えた。
それから8時間後、スプリングスティーンはSXSWの魅力とも言えるライブステージに新しい拡大版のEストリート・バンドと共に立ち、その圧倒的パフォーマンスで自らの助言を見事に実践してみせた。歴代の名曲や、今週3月21日に発売される「スプリングスティーン史上最高傑作」と称される『レッキング・ボール』からの楽曲を披露。本作は全世界14カ国ですでに初登場1位を獲得している。また、ゲストとして、このアルバムに参加したレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロやアーケイド・ファイアなど豪華面々が登場し、歴史に残る名演となった。するとなんと基調講演で熱く称えたばかりの、アニマルズのエリック・バードンもサプライズで登場し、(スプリングスティーンはこのことを全く知らされていなかったようで、バートンもたまたまSXSWに参加していたことをツイッターで明かしている)。スプリングスティーンは3月18日にアトランタを皮切りにツアーを開始したが、SXSWでのこのショーは決してウォームアップではなかった。ライヴで演奏し、観客を納得させること、毎晩、毎晩続けること。達人が与えた例の教訓そのものであった。
BRUCE SPRINGSTEEN 『WRECKING BALL』
ブルース・スプリングスティーン『レッキング・ボール』
日本盤 2012年3月21日発売
★初回生産限定スペシャル・エディション:豪華デジブック仕様 ¥2800(税込) SICP3460
(『WORKING ON A DREAM』の初回限定版のようなちょっとサイズが大きい、本のような豪華版。このスペシャル。エディションのみのエクスクルーシヴ・アートワークとともに、ボーナストラックとして下記2曲を追加収録)
★通常盤:紙ジャケット仕様 ¥2520(税込) SICP3461
(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)