Vol.8 Michael Landau / February 2012

Michael Landau


Photograph : Miles Overn

スタジオ作品としては約11年ぶり、全曲インストゥルメンタルの作品としては1990年にリリースされたファースト・アルバム『Tales From The Bulge』以来となる新作『ORGANIC INSTRUMENTALS』をリリースするマイケル・ランドウ。 極上のハードフュージョンアルバムとなっている新作、そしてその極上の音楽、サウンドを創り上げているギタープレイについてランドウに語って貰った。


Photograph : Alex Kluft

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

米国LAの出身であるマイケル・ランドウはこれまでに超売れっ子のスタジオ・ギタリストとしてボズ・スキャッグス、ピンク・フロイド、マイルス・デイヴィス、ロッド・スチュワートなどのビッグ・ネームの作品をはじめ、浜田麻里、氷室京介、松任谷由美、矢沢永吉など、数多くの日本人ミュージシャンの作品にも参加している。
これまでにマイケル・ランドウの名を知らなくとも、気づかないうちに彼のギタープレイを耳にしている人も多いはず。
ランドウは1990年に初のソロ・アルバム『Tales From The Bulge』を発表し、以後、数多のセッション業と並行しながら、これまでにソロ、バンドを合わせて13枚のアルバムを発表している。近年では、ロベン・フォード(G)、ジミー・ハスリップ(B)、ゲイリー・ノヴァック(D)とのユニット『RENEGADE CREATION』でアルバムをリリース、来日公演も大盛況に終えている。
そんなランドウが今回リリースする新作は極上のハード・フュージョン・アルバムに仕上がっている。あのスティーヴ・ルカサーが「世界一のギタリスト」との賞賛を惜しまない名手マイケル・ランドウに新作やギタープレイについて語って貰った。

Muse On Muse (以下MM) : 今回のアルバムは全曲インストアルバムであり、あなたの1stソロアルバム「Tales From The Bulge」以来となりますが、全曲インストのアルバムを制作しようと考えた経緯についてお聞かせ下さい。
Michael Landau(以下ML):こういったスタイルのインストアルバムを作るには絶好のタイミングだと思ったんだ。自分のバンドでライヴをやる時は半分ぐらいの曲を自分が歌っているし、ロベン・フォードと一緒にやっているRENEGADE OF CREATIONでも同じく半分ほどの曲を歌っている。少し歌うのを休みたいと思ったのもあるし、何よりもずっとインスト音楽が好きだったというのが自分の中で大きかった。

MM : アルバムのタイトル「ORGANIC INSTRUMENTALS」に込められている意味や、アルバム制作におけるコンセプトについて教えて下さい。
ML : アルバムに収められている殆どの音が加工されていないオーガニックな音やギター・トーンなんだ。それに、最近は「オーガニック」という言葉が流行っているよね。色んな商品が「オーガニック○○○」という名前がついているから、ちょっとしたユーモアで使った部分もある。「オーガニック」という言葉が付くことによって何だか聞こえもいいし。だから、このアルバム・タイトルにはシリアスな意味と少しふざけた意味も込められているのさ。また、楽曲の多くに自然と関連した題名がつけられていることからも「ORGANIC INSTRUMENTALS」というアルバム・タイトルと繋がっていると言える。

MM : あなたの1stソロアルバム「Tales From The Bulge」のリリースからおおよそ20年経ちます。この20年という間にあなたのギターサウンドはあなたのプレイの素晴らしいニュアンスがよりダイレクト、クリアーに伝わるようなサウンドに変化しているように感じましたが、あなた自身はどのように感じていますか?音作りにおいてあなたが理想とするサウンドについてお聞かせ下さい。
ML : 以前はもっと加工されたギターサウンドだったね。最近のギター・トーンの方が気に入っているよ。よりリアルなアンプサウンドになっているからね。ライヴでもレコーディングでも、僕は常に自分のプレイで感情を表現するために努力をしている。自分の楽曲の多くはとてもシンプルだったりするので、とても強いムードや感情を持たせることが重要なんだ。音ひとつひとつを聴かせ、そして意味を持たせることが大切だと思っている。


Photograph : Miles Overn

MM : アルバム用の曲作りやレコーディングにはどのくらいの期間をかけたのでしょうか?
ML : いくつかの楽曲は何年か前からあったものもある。僕はジャコ・パストリアスが大好きで、彼の音楽と音楽に対する姿勢には大きく影響されたよ。”Jaco”という曲は何年か前から進めていた曲だ。日本盤に収録されることになり、やっと日の目を見ることになってとても嬉しく思っている。日本という国に対して思うのと同じように、この曲には特別な思いが自分にはある。マイナー7のヴォイシングは『Word Of Mouth』におけるジャコのヴォイシングを彷彿とさせる部分もある。自分なりのジャコに対するちょっとしたトリビュートだね。”Sneaker Wave”のベーシック・トラックは5年前にレコーディングしているが、アルバムの大半は2011年に断続的に自分のスタジオでレコーディングされている。

MM : 「Delano」、「Smoke」、「The Family Tree」ではアコースティックなサウンドがとても心地良いとともに、ギタープレイのポジションチェンジする際の弦と指が擦れて出る音などもとてもリアルで、まるで目の前であなたがギターを弾いているような臨場感や、打ち込みの音楽等からは得にくい、人のプレイによる温もりを感じさせられました。あなたが聴き手にリアルな臨場感を与えるために重視している点は何でしょうか?
ML : 音楽は自分にとってとても神聖なものであり、そこには感情と意味がなければいけないと思っている。現代の音楽は打ち込み、プログラミング等、作り込まれたものが多い。それにはそれなりの意味があるのは否定しないが、それが当たり前になってしまい、現代のポップカルチャーと同じように強要されるのは間違っているよ。僕はライヴやレコーディングで演奏することが大好きだ。
まれにギターやドラムのループを使う以外、打ち込みやプログラミングを使う必要が僕にはない。音楽に対する素直な気持ち、そして感情こそが聴き手に伝えたい最も重要な要素だろう。

MM : 「Sneeker Wave」や「Spider Time」などを筆頭にバッキングのリズムギターを聴くだけであなただと判る雰囲気やリズムにウネリを感じさせるものですね。どの曲もリズムギターやコードワークが多彩で色々なアイデアが盛り込まれていますが、リズムギターに対するあなたの考えをお聞かせ下さい。
ML : ありがとう。リズムは自分にとってとても大切なものだ。良い流れがあって、聴いている者を気持ちよくさせないといけない。「ウネリ」というのはとてもいい表現だね!リズムギターであっても、ひとつひとつの音を大切にして、意味を持たせることが重要だと思っているよ。

MM : リードプレイについても、あなたのプレイは一聴してあなただと判る独特のグルーヴとトーンを持っています。こういったオリジナリティはどのようにして確立させてきたのでしょうか?
ML : スタジオやサポートの仕事の経験が自分に色々なことを教えてくれたよ。共に仕事をした多くのアーティストやミュージシャンから多くを学び、それが自分のスタイルを作り上げたと思っている。演奏される音譜だけでなく、演奏されない音譜も同じぐらい重要だ。人のソロを聴いていて、途中まで素晴らしいと思っていたのに急に雰囲気に合わない演奏をしたりすることでソロが台無しになってしまうこともあるよね。ライヴやレコーディングの経験が多いことから、僕は自分のプレイをその場ですぐに修正することができるようになった。全ての音が良くなければ、自分も盛り下がるからね。そして勿論、グルーヴもないとダメだ!


Photograph : Alex Kluft

MM : 今回のアルバムでもあなたのリードプレイはパワフルさと、繊細さのダイナミクスがとても印象的で素晴らしいのですが、プレイする際は、ピックを使用するよりもピックを使用しない指弾きの割合が多いのでしょうか?
ML : そうだね、指弾きも多い。おそらく50%ぐらいだろう。指で弾くことで使っていない弦をミュートすることができる。そうすることによってよりピュアで強い音譜を奏でることが可能になるのさ。指とピックを使い分けることによって、アンプとフットペダルと組み合わせて数えきれないほど色々なトーンを出すことができる。

MM : 指弾きによるプレイとピックを使用したプレイを使い分ける場合は、どういった観点で使い分けているのでしょうか?
ML : ずっとギターを弾いているから、使い分けはごく自然に行われているよ。明るくてアタック感のある音が欲しい時はピックを使い、太くて柔らかいトーンが欲しい時は指を使うようにしている。

MM : これまでにあなたに影響を与えたアーティストをお聞かせ下さい。
ML : インスト音楽だとアラン・ホールズワースに影響されている。特にバラードやスペーシーなタイプの曲には大きな影響を受けたよ。ボーカルが入っている音楽で言えばジミヘンやデヴィッド・イダルゴ、カーク・コベイン。リードとリズムそれぞれで影響を受けたプレイヤーは非常に多いね。様々な60年代ロックバンドやアルバート・キング、BBキング等をはじめとする多くの偉大なブルース・ギタリストに影響された。ジャズで言えばパット・マルティーノやジャコ・パストリアスだね。

MM : 近頃では難易度が高いテクニカルなプレイをこなす新世代のプレイヤーは多いようですが、あなたのようにギターから弾き出されるトーンに圧倒的な存在感や説得力を持つプレイヤーは少ないように感じられます。スケールの練習などでは得られない、そういった部分を身につけていこうとする場合は一体何が必要なのでしょうか?
ML : 音楽におけるテクニカルな要素を重視するプレイヤーがいるのも確かだ。勿論、自分の楽器に自信を持つためにはそういった要素もある程度必要だ。しかし、僕は常にエモーショナルな部分を重視してきた。聴いていて心を動かされないような音楽に大きな価値は無いと個人的には思っている。

MM : あなたが注目している次世代のギタリストがいれば教えて下さい。
ML : 若いプレイヤーの中ではカーク・フレッチャー、デレク・トラックス、ダスティン・ボイヤー、ジョシュ・スミス。

MM : 今回のアルバムであなたが使用したギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。またギターのピックを使用してプレイしている場合におけるピックの種類(メーカーや形状、硬さ)や使用した弦の種類(メーカー、弦の太さ)なども教えて下さい。
ML :
ピック:Dunlop ナイロン1.0
シールド:Providence E205, Belden 9778
弦:D’Addario 10-46または11-49(ギターによって)

ギター:
63年製ストラト・フィエスタレッド
68年製ストラト・サンバースト
52年製テレキャス
63年製ギブソンSG
54年製マーティン0-15アコースティック

アンプ:
Dumble 100W オーバードライヴ・スペシャル
Suhr 18W Badger
64年製フェンダー・スーパーリヴァーヴ
Kerry Wright オープンバック 4×12 (スピーカー:Celestion Heritage Series G12-65)

ペダル・エフェクター&ラック・エフェクター:
Maxon SD-9
Vintage 808 Tube Screamer
Rodger Mayer Voodoo-1
Fulltone Plimsoul Overdrive
Boss RT-20 ロータリーペダル
Boss FV-500H ボリュームペダル
Line 6 Echo Pro

API マイクプリアンプ
Shure SM 57 マイク
Royer R-122 リボンマイク

MM : 最近は実際のアンプのサウンドがシミュレーションされている機材やソフトウェアが数多く出ていますが、あなたもそういったサウンドを試したりするのでしょうか? それらサウンドについてあなたはどのように感じていますか?
ML : フィーリングやサウンド面で優れたチューブアンプに勝てるものはないよ。本物に近い音を出せるモデリング・アンプも存在しない。小さい音量で大きなディストーションサウンドが必要な時など、必要なシチュエーションも全くない訳ではないのは分かるけどね。レコーディング等で音を沢山重ねないといけない時や非常に高いゲインが必要な時はたまにLine 6 Pod Proを使うこともあるけど、99%は本物のアンプを使っている。今回のアルバムにモデリング系の音は一切入っていないよ。


Photograph : Miles Overn

MM : あなたがこれまでに携わったアルバムのレコーディングにおける印象的なエピソードがあればお聞かせ下さい。
ML : ジョニー・ミッチェルやBBキング、ピンク・フロイド、ジェームズ・テイラーのレコーディングに参加したのは自分のキャリアの中でも大きなハイライトだった。偉大なアーティストと仕事をすることで多くを学ぶこともできる。ピンク・フロイドの仕事ではデヴィッド・ギルモアがスタジオでアンプ等の機材を見せてくれたんだ。太くて良い音をしていたよ。彼は自分の音に対して非常に研究熱心なのが分かった。思い出に残る楽しい一日だったよ。

MM : それでは今後の活動スケジュールについて教えて下さい。日本公演はいつ頃になりそうですか?
ML : 今年の秋ぐらいにはRENEGADE CREATIONか自分のバンドで日本へ行きたいと思っているよ。

MM : ギターの教則DVDやライヴDVDといった映像作品のリリースは考えていないのでしょうか?多くのファンが待ち望んでいるかと思いますが・・。
ML : ライヴDVDはいつか出したいとずっと思っていた。今、やりたいことのリストには入っている。

MM : 日本のファンへのメッセージをお願いします。
ML : 何を弾くか、どんなスタイルの音楽を演奏するかは人が決めることじゃない。自分の音楽は自分で決めるものだ!多くの偉大なアーティストたちはどこかで型破りなことをやって、それが彼らの良さとなり唯一無二の存在へと成長させた。自分が尊敬するミュージシャンたちに影響を受けていれば、何れ自分のスタイルが必ず生まれて来るはずだ!


ORGANIC INSTRUMENTALS / THE MICHAEL LANDAU GROUP
2012年2月22日 / KICJ-613 / ¥2,600(tax in) / <キング/セヴンシーズ>

1.Delano
2.Sneaker Wave
3.Spider Time
3.The Big Black Bear
5.Karen Mellow
6.Ghouls And The Goblins
7.Big Sur Howl
8.Woolly Mammoth
9.Smoke
10.The Family Tree
11.Jaco 日本盤ボーナストラック
全11曲収録

[ラインナップ]
Michael Landau(Guitar)
Larry Goldings(Hammond organ, Piano)
Estey Reed (Organ, Carillon)
Walt Fowler-(flugelhorn)
Teddy Landau(Bass)
Andy Hess(Bass)
Chris Chaney(Bass)
Vinnie Colaiuta(Drums)
Charley Drayton(Drums)
Gary Novak(Drums)