Phil X
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PHIL X & THE DRILLSが2019年にリリースしたEP『Stupid Good Lookings Vol.1』からはおよそ5年ぶりとなるフルアルバムの新作『POW! Right In The Kisser』をリリースする。リッチー・サンボラの後任ギタリストとしてBon Joviに参加しているPhil Xであるが、その指先から解き放たれるギターのトーンや統制から解き放たれた際の自由奔放で変幻自在のギタープレイは真にリアルでロックしている。自身の活動の場となる旗艦バンド、PHIL X & THE DRILLSではそれらがより顕著に現れており、キャッチーでフックが効いた骨太のハードロックで聴き手を魅了する。快心の新作『POW! Right In The Kisser』に関することはもちろん、音楽的なバックグランドやこれまでの活動など色々とPhil Xに語って貰った。
Photo © Composite photo by Justin Roszkowski
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Hiroshi Takakura
Muse On Muse (以下MM) : あなたはリッチー・サンボラの後任としてのボン・ジョヴィでの活動で多くの人に知られていますが、それ以前のことについてもお聞きします。あなたが音楽に興味を持った当時の年齢やきっかけについて教えて下さい。
Phil X (以下PX) : 父親の影響で音楽が好きになったんだ。すごく幼い頃から父はブズーキ(ギリシャの楽器)を弾いていて、その姿がインスピレーションになった。俺が興味を示しているのに気づいた父が、5歳のときにギターを買ってくれたんだ。8歳の頃にはエルヴィス・プレスリーの楽曲を弾けるようになっていて、友達や家族の前で歌っていた。でも初めての本格的なパフォーマンスは大規模なギリシャの結婚式だったよ。バンドが休憩している間に ”Blue Suede Shoes” と “Teddy Bear” を歌ったら、会場が大盛り上がりして、その瞬間に「俺がやりたい事はこれだ!」って確信したんだ。
MM : 当時はどのような音楽、アーティストに影響を受けていましたか?
PX : エルヴィスから始まって、AMラジオのヒット曲を聴いていた。でも、そこにROCKがやってきたんだ。ブラック・サバス、トライアンフ、テッド・ニュージェントが俺をギターソロの世界に引き込んだ。11歳の時だね。ギタリストなら誰もが同意すると思うけど、エディ・ヴァン・ヘイレンがすべてを変えた。彼のソロはもちろんヤバかったけど、リズムギターもとんでもなくクールだった。完全にその世界に吸い込まれたよ。でも一番衝撃を受けたのは1980年にヴァン・ヘイレンを生で観たときだった。ただ超絶ギターを弾くだけじゃなく、ステージを全力疾走し、スピーカーの上に駆け上がり、ドラムの台から飛び降りる…あれがロックのライブの基準になった。そこからウリ・ジョン・ロート、ランディ・ローズ、アンガス・ヤング…と続いていってギタースタイルのビュッフェ状態だね。全部食べ尽くしたかったんだ。
MM : プロのミュージシャンになろうと決心したのはいつ頃でしょうか?その後、プロとして活動するに至るまでの経緯についてお聞かせ下さい。
PX : 他のことはどうでもよかった。学校の成績は悪かったし、スポーツにも興味がなかった。ただギターとロックンロールだけがあった。14歳のときに最初のバンドを組んだけど、その時点で努力と忍耐で絶対に夢を掴めると心の底から確信していたよ。”プロ” っていう言葉はアーティストにとって妙な響きがある。毎日情熱を持ってやっていればプロなのか?それとも金をもらったらプロなのか?とにかく、俺はどこでも、どんなに小さなステージでも、がむしゃらにプレイしていた。すると、誰かがこのギタリストをチェックしろ!って話を広めてくれて、そこからすべてが動き出した。インターネットがなかった時代でも、いかに多くの人の目と耳に触れるかが勝負だった。
MM : Triumph、Powderとの活動もされていますが、これらについて教えて下さい。
PX : Triumphは素晴らしい経験だった。ギル・ムーアとマイク・レヴィーンから多くを学んだ。でも、既存のバンドに参加すると、自分のスタイルを100%出せないことを痛感した。俺がフィルXらしいソロを弾くと、マイクが「素晴らしいけど、Triumphっぽくはない」って言うんだ。リッチー・サンボラの代役をやることになったとき、この経験がめちゃくちゃ役に立った。
その前にはカナダのFrozen GhostやAldo Novaにいた。Aldo Novaのアルバム「Blood On The Bricks」は90-91年にジョン・ボン・ジョヴィのレーベルJAMBCO RECORDSからリリースされて、ジョンとアルドが全曲を共作&プロデュースしていた。アメリカツアーを回り、豪華なMVも撮った。スコーピオンズのオープニングも3週間務めたよ。最高の時期だった。
どれだけキャリアを積んでも、もっと上を目指したかった。トロントにいることが限界に感じて、1997年にロサンゼルスへ移った。その後、元妻のニネット・テルハートと組んだバンドをいくつか経て、Powderを結成。ニネットはキャラを作り上げ、ステージ上でシルク・ドゥ・ソレイユばりのアクロバティックなパフォーマンスを披露して観客は虜になった。P!NKがやるずっと前にね。すべてを注ぎ込んだけど、最終的にニネットのプロジェクトになり、俺は「脇役」になった気がした。それでThe Drillsを始めたんだ。
MM : 2011年からはボン・ジョヴィに参加していますが、どのような経緯を経てメンバーとして加入することに至ったのでしょうか。
PX : 2011年はあくまでリッチーの代役で正式に加入したのは2016年だね。2011年当時、ジョン・ボン・ジョヴィがプロデューサーのジョン・シャンクスに「リッチーの代わりを探せ」と頼んだんだ。シャンクスが俺を推薦すると、ジョンは「そいつを呼べ」と即決。オーディションもなし。弁護士とマネジメントが契約をまとめている間、俺は2時間半のセットリストを必死に覚えた。そしていつでもツアーに飛んで行けるよう準備していた。もしかしたらステージに立たない可能性もあったけどね(笑)。リッチーが正式に脱退したのは2014年。そして2016年、ジョンが新しいアルバムを作ると言ったとき、すでに100以上のライブを共にしていた俺がギタリストになるのは自然な流れだった。
MM : それでは新作『POW! Right In The Kisser』をリリースするあなたの核となるバンド、Phil X & The Drillsについてお聞きします。今作は2019年にリリースしたEP『Stupid Good Lookings Vol.1』からおよそ5年ぶりとなるフルアルバムですが、このタイミングで作品を制作することとなった経緯について教えて下さい。
PX : 『Stupid Good Lookings Vol.1』は、もっと大きなプロジェクトの第一弾だったんだ。レコーディングは2014年に始めて、そこからどんどん曲を書いては録音していった。『Stupid Good Lookings Vol.1』に収録されなかった曲たちが、その後の数年間で完成していき、『POW! Right in the Kisser』になったんだ。最初にレコーディングしたのは ”You Sunk My Battleship” で、2014年にブライアン・ティシーと録った。最後に録ったのは “Seemed Like A Good Idea” で、2024年11月にトッシュ・ピーターソンとレコーディングしたんだけど、つまりこのアルバムは10年分の楽曲が詰まった作品なんだよ。Bon Joviや他のプロジェクトの合間を縫いながら、少しずつ作り上げてきたんだ。
MM : あなた以外のバンドのメンバーである ダニエル・スプリー (Bass & Background Vocals) 、ブレント・フィッツ(Drums & Background Vocals)について紹介下さい。
PX : ダニエル・スプリーとは最初から一緒にいるよ。ドラマーについては俺たちのオリジナルドラマーだったのはジェレミー・スペンサー(Five Finger Death Punch)だけど、彼が抜けてからドラマーが次々と入れ替わる状態になった。まるで毎月違うドラマーがいるような感じだった。あとロサンゼルスっていう街はヤバいドラマーが多いけど、みんな5つくらいのバンドを掛け持ちしてるから、「おい、5日にWhiskyでライブやるぞ!」って誘っても、「悪い、もう別のギグが入ってるんだ」って言われることが多かった。かなりフラストレーションが溜まる状況だった。でも、今となっては『POW! Right in the Kisser』に11人のドラマーが参加しているのも納得できるだろ?(笑)
俺達がブレントと一緒に初めてThe Drillsのショーを行ったのはドイツだった。ショーの途中、俺はまるで彼と一緒に長い間演奏していたかのように感じたのを覚えている。それは瞬時に化学反応が生まれたし、ダンも同じように感じていた。もちろん、ブレントは他のアーティスト(スラッシュ)ともプレイしているので、彼が参加できない時もあり、その場合は他の誰かを探すようにしているよ。
Photo by Phil X
MM : ドラムには、ゲストメンバーとしてトミー・リー (Mötley Crüe)、レイ・ルジアー (Korn)、ティコ・トーレス (Bon Jovi)が名を連ねています。彼等にゲスト参加してもらった背景について教えて下さい。
PX : 全員友達さ。トミーとは’99年のMethods of Mayhemの頃から彼のソロ作品でずっと一緒にやってきたし、ティコとはもちろんBon Joviでの繋がりがある。レイとはずっと一緒に何かやりたいと思ってたんだけど、ついに実現したって感じだな。アルバムに参加してくれた他のドラマーも、以前いろんなアーティストのレコーディングで一緒に仕事したことがあるやつばかりだ。スタジオで一緒に演奏して、音楽的に刺激を与え合いながらクリエイティブなヴァイブを共有すると、自然と「おい、お前、俺のレコードでも叩いてくれよ!」って流れになるんだ。まるで「今日のランチ何食う?」って聞くみたいに、気軽に声をかけられる関係なんだよ。
MM : 今作用の曲作りはどのように進められたのでしょうか。
PX : 何年も前から温めていたアイデアがあって、それが今回のアルバムに形を変えて収まったって感じだね。初期のThe Drillsっぽいパンクな勢いを持った曲もあれば、Drillsの枠を超えて新しい側面を加えた曲もある。”Broken Arrow” は、クリス・コーネルが亡くなったときに書いた曲だ。本当にショックだった。表面からは見えないことが人の頭の中では渦巻いてるんだって思い知らされた。「理性の声を黙らせるには何が必要だった?」って歌詞があるんだけど、これは自殺してしまった人ともし話ができたら聞いてみたい問いなんだ。「自殺なんてやめなよ、すべてうまくいくさ」っていう理性の声が完全に無視されたとき、そこに何があったのか?そして、「そこからの景色はどうだった?」って続く歌詞もそう。そこに行ってみたら、思っていたのと違ったんじゃないか?っていう問いかけなんだ。昔の俺だったら、こんな曲を書いてThe Drillsの作品にするなんて考えもしなかった。でも、アーティストとしてもっと深い部分を探求する時期が来たんだと思う。
MM : アルバムの全編に渡ってロックなカッコ良さが濃縮されたあなたの素晴しいギタープレイとボーカルを楽しめます。その中でも ”Find A Way” が持つグルーヴやコンパクトでありながらも見事に構成されたリズムギター、起承転結でヒネリのあるクールなギターソロが注目の ”Way Gone” が光を放っています。
PX : 気づいてくれてありがとう。どちらの曲にもかなりの時間をかけたんだ。俺はギターでもヴォーカルでも「伝えたいこと」があるんだけど、今回は両方とも全開で出せたと思う。俺はテクニカルなプレイができるけど、いつもそれを前面に出すわけじゃない。曲のために何が必要かを考えて、ヴォーカルに寄り添うようなアプローチを大事にしてる。歌詞が激しければ、歌い方も激しくするし、遊び心があるなら、それに合わせた歌い方をする。 ”Find a Way” は、エアロスミスの “Last Child” やデヴィッド・ボウイの “Fame” 、スティーヴィー・ワンダーの要素がミックスされた感じだな。ティコのキューバン・ファンクが炸裂して、俺とダンが気持ちよくグルーヴにハマった。 ”Way Gone” は完全にエネルギー爆発系だね。この曲にはケニー・アロノフしかいないと思った。彼と一緒にプレイすると、俺たち二人ともエネルギーが弾け飛ぶんだ。この曲は火が出るような爆発的なプレイが必要だったから、思いっきり俺のギター・トリックを詰め込んだよ。
MM : アルバムで使用したあなたのギター、アンプ、エフェクター、ペダルについて教えて下さい。
PX : ほとんどの壁のような分厚いロック・サウンド、いわゆるWALL OF ROCには、Friedman X のシグネチャーモデルを使った。リズムギターの要として大活躍したのは、俺の76年型の Marshall JMPだね。オーバーダブには、いつも頼りにしてるTonemaster、Supro Statesman、”Super”、Greer Mini-Chief、SUNN T-120、Bullhead Custom Shop、Roppoli Plexi レプリカなんかを使った。ギターは、GibsonのSG、Les Paul、Explorer 2本、Flying V Custom、ES-335、ES-355、Trini Lopez Reissue、Framus XG Customを数本、それにYAMAHA SG1801 のシグネチャーモデルも使った。どの曲も、曲に合ったギターとアンプを選んで、ベストなトーンを追求したよ。
MM : Bon Joviでプレイする時とPhil X & The Drillsで活動する時とでは使用する機材に違いはありますか。
PX : 俺はどんな時でも2台のアンプを使う。Friedman X SignatureとSupro Statesman、もしくは ”Super” をブレンドする形だ。Bon Joviのときは、そこにもっとペダルを加えるだけだね。Talk Boxは必須だし ”Always” 用のレスリー・サウンド、”Keep The Faith” 用のワウペダルも必要だったね。
MM : 今後の予定について教えて下さい。
PX : 3月にテキサスでThe Drillsのライブが決まってるし、他にもいろいろ計画中だ。でもBon Joviのスケジュール待ちなんだよね。だからその合間にThe Drillsの予定を入れていくつもりさ。わかるよね?笑
MM : ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
PX : いつも本当にありがとう!!!いつも応援してくれて本当に感謝してる。みんながいてくれるから俺たちの活動に意味がある。俺たちがROCKできるのは、みんながROCKしてるからだ!夢を追いかけろ。誰にも「無理だ」なんて言わせるな。君なら何だってできるんだよ!
PHIL X & THE DRILLS / POW! Right In The Kisser
1. Don’t Wake Up Dead
2. Fake the Day Away
3. Heal
4. Find a Way
5. Moving to California
6. You Sunk My Battleship
7. Seemed Like a Good Idea
8. Broken Arrow
9. I Love You on Her Lips
10. Feel Better
11. Way Gone (Beam Me Up, Scotty)