Vol.142 Daytona / November 2024

Daytona

80年代的なキャッチーでメロディックな産業ロック、と表現すると当時をリアルタイムに体感している人達は、その曲となりやサウンドをピンッとイメージできるのではないだろうか。そんなイメージ通りなサウンド、楽曲、そしてMVを現在に再現するスウェーデンのバンド Daytonaが1stアルバム『GARDER LA FLAMME』をリリースした。当時をリアルタイムで体感している人達の期待に応えるそのサウンドや楽曲は、新しいのに何故か懐かしい・・といった趣のあるものになっている。アルバムの全曲でソングライティングを担っているエリック・ハイクネ(ギター)、フレドリック・ワーナー(ボーカル)に話を訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : このインタビューであなたに初めて接する人達のためにあなたのプロフィールやこれまでの音楽キャリアについて教えて下さい。
Erik Heikne (以下EH) : 僕は主にギタリストだけど、プロデューサーやソングライターとしても活動している。バンド活動を始めた頃はヘヴィメタルに夢中だったけど、20歳くらいの時にAORやクラシック・ロックを発見して、新しいバンドを始めようと決めた。それがMissBehaviourで、アルバムを4枚リリースしてヨーロッパでツアーもできた。他のアーティストに楽曲を提供したり、いくつかのアルバムに参加したりもしたけど、今は全力でDaytonaに集中しているよ。

Fredrik Werner (以下FW) : どこから始めようか!Osukaruのボーカリストとしての長いキャリアから話すのがいいかな。このバンドは10年以上続いていて、僕にとって初めてのメロディック・ロックの世界だった。2013年にボーカルとリードギターを担当するようになったんだけど、現在のスタイルが固まったのはもう少し後のことだった。今の僕たちの音楽は、80年代のヘアメタルのスタイルが現代に蘇ったような2024年版グラム・メタルだと言えるね。Osukaruを理解するのに一番良い方法は、最新作の『Starbound』を聴くことだね。
その後数年して、ヨーテボリの有名なヘヴィメタルバンドAir Raidから連絡をもらった。彼らのスタイルは大好きで、僕の声にもよく合っていた。特にバンドが伝統的なヘヴィメタルから、よりメロディックなアプローチに移行しているタイミングだったのが良かったね。僕たちはすぐに意気投合し、2017年以降、アルバムを2枚作り、多くのツアーもこなしてきた。2017年に日本に行ったことは特に素晴らしい思い出だよ!
2022年には、Air RaidとOsukaruの活動が少し落ち着いたタイミングで、Daytonaのプロジェクトに取り組むことになったんだ。Daytonaの音楽は僕の魂に空いていた隙間を埋めるような存在で、本当に大好きなものなんだ。自分の声をAORやメロディック・ロックの伝統的なスタイルに活かせる絶好の場だと思う。
ただ、僕は来た話を何でも受け入れるわけではない。3つのバンドそれぞれが素晴らしくて、すべての活動に理由がある。どのバンドを聴いてもそれぞれに独自の雰囲気があるにも関わらず同じFredrikを感じてもらえると思う。

MM : Daytonaが結成に至るまでの経緯やバンドのメンバーについて紹介下さい。
EH : 始まりは僕が絶えず曲を書いていたことだね。パンデミック中はスタジオで本当にたくさんの曲を書いたんだけど、その中にはMiss Behaviourとは違う何かがあると感じた曲があった。80年代後半のハードロックを象徴するサウンドやアレンジが昔から大好きだったんだ。最初はソロアルバムにしようかとも思ったけど、すぐに新しいバンドを作る方がいいと感じた。それで、Air RaidやOsukaruで活躍していたフレドリックとチームを組んだんだ。音楽や美的感覚のビジョンが完全に一致していたからね。
それから、元Eclipse, TimescapeのJohan(ヨハン・ベルリン)に数曲聴いてもらって、一緒にスタジオで作業を始めた。デモテープでは僕がすべてを録音してアレンジしたけど、自分はキーボードがあまり得意じゃないから、Johanの経験と音楽性、そして彼のヴィンテージキーボードがサウンドを完璧に仕上げてくれた。その後、Niclasが独特のベースでさらに深みを加えて、Calleのドラミングがハードロックのエッジを加えた。だからDaytonaは、ただのメロディック・ロックのプロジェクトじゃなくて本物のバンドなんだ。

MM : バンド名を”Daytona”とした理由を教えて下さい。
FW : いい感じのバンドの名前を選ぶのは難しいんだ。人目を引くような名前の多くはすでにどこかで使われているからね。音楽のイメージにぴったりで、インパクトのあるものを探したんだ。アルバムのカヴァーアートみたいに、全体のパッケージと合う必要があると思う。いろいろな名前をリストアップして、子供に名前をつけるみたいな感じだったよ(笑)。最終的にDaytonaに決まったけど、アメリカの雰囲気を感じさせる美的感覚に合う名前だと思う。

MM : バンドのデビューアルバム『Garder La Flamme』は、メロディックかつキャッチーでありながらもクレバーで知的な部分も持ち合わせた良質なハード・ロックのアルバムとなっています。
FW : そう、それが僕たちのやり方なんだ!みんなに親しみやすく、それでいて批評的なリスナーにも興味を持ってもらえるものを作る。音楽を楽しみながら、あまりスタンダードになりすぎないようにしている。キーボードのレイヤーに深く入り込んだり、ベースラインを追いかけたり、メインとなるコーラスに身を任せるのもいい。『Garder La Flamme』はそのすべてを楽しめるアルバムだと思うよ!

MM : きらびやかなキーボードやエフェクトが深くかかったギターのサウンドからは80年代当時の音楽の雰囲気も感じられます。
EH : 完璧だね。もしそうであれば僕らの目的を遂げているよ。Daytonaは80年代後半のハードロックのサウンドに大きな影響を受けていて、モダンなサウンドを目指していない。僕は一部の曲をキーボードで書くけど、キーボードプレイが得意というわけじゃない。それは完全にJohanのおかげだよ。本当に当時の雰囲気を忠実に再現したかったんだ。ソフトウェアシンセやMIDIは一切使わず、Johanの80年代のシンセだけで演奏されているよ。

MM : “Looks Like Rain”のMusic Videoでは、映像の雰囲気も非常に80年代的ですが。
FW : そう、これは僕たちがやりたいアートの一部なんだ。曲の歌詞に直接リンクしているわけではないけど、関連性のある要素を表現できていると思う。

EH : その通りだね。当時の雰囲気に忠実なものを作りたかったんだ。例えば、あの赤い電話はただ懐かしさを狙ったわけじゃなくて、1987年あたりで実際に使われていた電話なんだよ。

MM : 80年代に活躍したミュージシャンの中には今でも活躍している人達がいます。彼等の多くはその音楽性やサウンドは当時と同じことをなぞるのではなく、時代とともに成長し変化を遂げた作品を生み出していますが、その一方で彼等のファンの中には変化を求めず、自らが若い頃に聴いていた当時のような音楽を求め続ける人もいます。あなた達はそのようなファンの人達の要求を満たす役割を担っているようにも感じます。
FW : 僕たちはこの点に関してかなり伝統主義的なんだ。自分たちが愛するサウンドに忠実でありたいと思っている。曲には多様性があっても、サウンドはいつでも本物の80年代らしさを感じられるようにしたい。それを最も正直に反映する方法で作り上げたいんだ。レトロなサウンドを目指すアーティストはたくさんいるけど、本当にその雰囲気を完璧に再現できている人は少ないと思う。録音やミキシングの技術的な要素にかかっている部分が大きいね。それはある意味失われたアートだよ!

MM : 楽曲におけるギタープレイは、曲映えさせるバッキングやキャッチーで耳に残るフレーズを紡いだ起承転結のあるギターソロなど聴き手を魅了します。
EH : 素晴らしい褒め言葉をありがとう!このアルバムのギタープレイとアレンジには全体的なフィーリングを重視したんだ。Dann Huffのギターアレンジのアプローチに大きく影響を受けているよ。ソロを作るときは、ただ速弾きするのではなく、曲の中の特定のメロディを拾って、それを基にソロを構築するようにしている。もちろんYngwie Malmsteenも大好きだけど、Daytonaにはもっと抑制されたプレイスタイルが必要だった。Kee Marcelloのメロディックなソロは本当に素晴らしくて、それも大きなインスピレーションになったね。

MM : ロック・ギタリストの場合は前に出たいタイプの人が多いように見受けますが、あなたは良い意味で曲重視のギタープレイに徹しています。
EH : その通りだね!自分でもそれを考えていたところだった。僕のプレイスタイルをそう感じてもらえたのは嬉しい。速弾きはもともとあまり得意じゃないし、いつも曲とメロディを優先している。リスナーの95%はまずボーカルに耳を傾けると思うから、ミックスでボーカルがしっかり目立つ必要があると思っている。すべての楽器が明瞭に聞こえるようにしたいし、ベースの演奏が気になる人にも、それもちゃんと聞き取れるようにすべきだ。空間とダイナミクスが重要だからね。最近はマスタリングでアルバムの音量を上げすぎる人が多くて、ダイナミクスが失われている気がする。ずっと音圧が全開だと、すぐに飽きてしまうよ。ギタープレイに関して言うと、すべての音に意味があるべきだと思っている。だから音数よりもバリエーション、トーン、ビブラートといった要素にフォーカスしたいんだ。

MM : “Slave To The Rhythm”の中間部ではギターソロではなくサックスが入っていますね。
FW : このジャンルをやるなら、少なくとも1曲にはサックスソロが入るべきだよね。ある意味、義務みたいなものさ。サックスはとても表現力のある楽器で、ソウルフルに演奏されればロックミュージックにとても合うんだ。ルーツは50年代のロックンロールまで遡ると思うよ。

MM : アルバムで使用しているギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。
EH : このアルバムではいろいろなギターを使った。メインで使ったのはストラトキャスターだけど、リズムセクションではハムバッカーギターを使い始めた。Kramer、Jackson、G&L、そしてDiMarzioピックアップを搭載したIbanez Les Paul Jr.も使用した。このIbanezは、10歳くらいのときに父がくれた最初のギターなんだ。Dann HuffのGIANTの最初の2枚のアルバムのトーンにインスパイアされてサウンドを作り込んだよ。イギリスの友人がYamaha SPX90、Eventide H90、DBX160A、Daytronics CX5など、効果的なエフェクターの組み合わせを見つける手助けをしてくれた。

MM : 今作を通してあなた達と出会う音楽ファンへのメッセージをお願いします。
EH : Daytonaのメンバー全員が別のバンドでかなりの経験を積んできたけど、これは完全に新しいデビューのバンドだと自覚している。今のところ、ものすごくポジティブな反響があって、正直言って驚いているし本当に嬉しいよ。これは僕たちが純粋に音楽を愛する気持ちからやっていて、自分たちが求めるサウンドやビジュアルの明確なビジョンがあるからだと思っている。懐古主義ではなく、僕たちが最も愛する時代のハードロックをやっているんだ。

FW : Daytonaの新しいアルバム『Garder La Flamme』を楽しんでほしいと思っている。日本にはもう長いこと行っていないから、近い将来また戻りたいね。日本が恋しいよ!


Daytona / Garder La Flamme

1. Welcome To The Real World
2. Kelly
3. Through The Storm
4. Downtown
5. Time Won’t Wait
6. Looks Like Rain
7. Town Of Many Faces
8. Slave To The Rhythm
9. Garder La Flamme
10. Where Did We Lose The Love

Lineup
Fredrik Werner – Vocals (Osukaru and Air Raid)
Erik Heikne – Guitars (Miss Behaviour)
Johan Berlin – Keyboards (ex.Eclipse)
Niclas Lindblom – Bass guitar
Calle Larsson – Drums