Vol.140 Simon McBride / July 2024

Simon McBride


Photo by Jim Rakete

ハードロック界のレジェンド、ディープ・パープルが最新スタジオアルバム『=1』をリリースする。このアルバムは、スティーヴ・モーズの後任のギタリストであるサイモン・マクブライドがバンドに加入して以降の初となるスタジオアルバムである。ディープ・パープルといえば、これまでのギタリストには、御大リッチー・ブラックモアをはじめ、その後にトミー・ボーリン、一時的なツアーのみの参加であったがジョー・サトリアーニ、そしてスティーヴ・モーズといった匠なギタリスト達が名を連ねており、サイモン・マクブライド加入後において初となるディープ・パープルの今回の最新スタジオアルバム『=1』にも大きな注目と期待が集まる。アルバムのリリースに先行しミュージックビデオが公開されている”Portable Door”、”Pictures of You”においては、ディープ・パープルらしさを継承しつつ、楽曲の魅力を最大限に引き出すための的を得たバッキングギター、起承転結のあるエモーショナルかつクレバーなギターソロなどサイモン・マクブライドのオリジナリティあるギターワークを確認することができる。サイモン・マクブライドに彼の音楽的バックグランドやディープ・パープルとの出会い、そして最新スタジオアルバム『=1』などについて聞いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : 2024年3月にはディープ・パープルの日本公演が行われましたが、日本でのライヴはいかがでしたか?
Simon McBride (以下SM) : 日本での演奏は本当に楽しかったよ。日本の人々や食べ物、全てが大好きだ。皆とても親切でフレンドリーだった。日本の観客は音楽をとても評価してくれて、彼らが音楽だけに集中して聴いてくれるのを感じるのは、音楽家にとっては素晴らしいことだね。

MM : あなた自身のプライベートも含めて今回の来日は初めてだったのでしょうか。ライヴの他に日本で印象的だったことをお聞かせ下さい。
SM : これが初めての日本訪問だったよ。日本の文化や歴史は私にとって本当に印象的だった。僕は日本食のファンだからそういう意味では天国のようだったね。日本の色々な都市で演奏して、妻も一緒だったので、多くの観光地に行くことができたね。

MM : それでは、ディープ・パープルに関するお話に入る前に、まずはあなたの音楽的な背景について教えて下さい。あなたがギターを始めることとなったきっかけを教えて下さい。
SM : 9歳の時にギターを弾き始めたんだ。家ではいつも音楽が流れていて、父はクラシックなロックの大ファンだった。僕にギターを弾きたいと思わせた最初のバンドはAC/DCで、そのシンプルさと音楽性が信じられないほど素晴らしかった。80年代/90年代に育ったから、ジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイ、ヴァン・ヘイレンといったギターヒーローたちの時代だったね。これらのアーティストが何かしらの形で僕の先生で、ほとんど全てを耳で覚えたんだ。

MM : あなたの出身地であるアイルランドにはロリー・ギャラガー、ゲイリー・ムーアといったレジェンドギタリストがいますが、あなた自身はどのような音楽やギタリストに学び今のスタイルを確立したのでしょうか。
SM : メインのギターの影響はゲイリー・ムーアとスティーヴ・ルカサーだな。ゲイリーの攻撃性と音の選択が好きだったね。スティーヴ・ルカサーの演奏を見ると頭が吹っ飛ぶくらい彼のことを天才だと思ってる。スティーヴは他のギタリストとちょっと違うのがいい。自分のスタイルが何かはわからないけど、ギタリストってのはただ演奏するだけで、みんなそれぞれの色々な影響を受けていることがわかるんだよね。

MM : 既に16歳の時には以前にヴィヴィアン・キャンベルが在籍していたことで有名なハードロック・バンド Sweet Savage に参加し『Killing Time』(1996)、『Rune』(1998)の2枚のアルバムでプレイしているとのことですが、詳細をお聞かせ下さい。
SM : うん、そのバンドに入った時はまだ若かったんだ。彼らの事は地元の他のバンドを通じて知っていて、一緒にアルバムを録音しようって誘われたんだ。16歳の子供にとっては夢みたいな話で、それまでバンドで演奏したり他の人とレコードを録音したことなんてなかったからね。自分ではインストゥルメンタル・ミュージックをやってたし、主にPRSギターやマーシャルアンプで弾いてたんだ。めちゃくちゃ楽しかったし、今でもたまに彼らの音楽に少し変わった要素を与える仕事をする機会があるよ。

MM : その後もソロでのデビューアルバム『Rich Man Falling』(2008)をリリースし、それ以降も引き続いてのスタジオアルバムの制作やライヴ活動にて確実に音楽でのキャリアを積み上げています。この当時についてのお話をお聞かせ下さい。
SM : そうだね。ソロ・アルバムは音楽的なフラストレーションから生まれたんだ。何年も他の人のために演奏して、いつも雇われのセッション・ミュージシャンだったから、楽しめなくなってきて、変化が必要だと思った。2007年には、特にスタイルにこだわらず、ただ音楽を書き始めた。それが『Rich Man Falling』というアルバムになった。これがフロントマンとして歌う初めての試みで、チャレンジだったね。そのアルバムは当時のマネージャー、リチャード・パヴィットが運営するニュージェン・レコードからリリースされた。その後もいくつかアルバムを出して、最新作は2022年にイアーミュージックからリリースされた『The Fighter』だね。これからも自分の音楽をもっとやっていきたいけど、今はディープ・パープルの音楽に集中してる。

MM : それでは、ディープ・パープルのお話に入ります。まずは、あなたがスティーヴ・モーズの後任としてディープ・パープルに加入するまでの経緯を教えて下さい。
SM : 最初はスティーヴ・モーズの代わりに数公演だけギターを弾くことを頼まれただけだったから、深くは考えていなかった。もちろんディープ・パープルと演奏できるのは素晴らしいことだったけど、当初は数公演のみの予定だった。でもスティーヴの奥さんの病気のことがあって、彼は家で奥さんの世話をしなければならなくなった。バンドは6ヶ月とか12ヶ月も休むわけにはいかなかったから何とかしなければならなくて、僕が常任メンバーとして加わることになったんだ。スティーヴもそれがベストだと合意してくれたね。このバンドの一員になれたのは本当に光栄だよ。オーディションなどはなくて、以前にドン・エイリーとイアン・ギランのために演奏していたから、彼らにとっては僕が自然な選択だったんだ。


Photo by Jim Rakete

MM : ディープ・パープルにはリッチー・ブラックモア、一時的なツアーのサポートですがジョー・サトリアーニ、その後にスティーヴ・モーズといった偉大なギターマスター達がいました。その後任のギタリストを担うことについてはどのように考えましたか。
SM : 最初はメディアやファンから「リッチーかスティーヴのどちらのように聞こえるのか」というコメントが出ていて、ちょっとイライラしたよ。僕は僕という存在だからね。ドン・エイリーと話した時に、彼に「自分自身でいるんだ、それがここにいる理由だ」と言われたのを覚えてる。ロジャーからは、スティーヴ・モーズも加入したときに同じことを言われていたと聞いたよ。ディープ・パープルの前のギタリストたちはみんなレジェンドだからあまり考えすぎないようにしている。彼らのようになろうとするよりも、自分を信じて自信を持つことが大切だと思ってるよ。

MM : リッチー・ブラックモア、ジョー・サトリアーニ、スティーヴ・モーズは各自それぞれの独自のスタイルを持ち、ディープ・パープルの音楽に対してそれぞれのアプローチ方法も異なっていたかと思います。あなたは彼等それぞれのアプローチ方法についてどのように捉えていますか?
SM : みんなそれぞれが色々なアーティストから影響を受けてるね。リッチーはブルースとクラシカルのバックグラウンドがあるし、スティーヴ・モーズはもっとロックやアメリカン・カントリーのバックグラウンドがあって、その影響が作品から聞こえるんだ。ジョー・サトリアーニは本当にユニークで、彼がもっと作品を作ってたらかっこよかっただろうね。でもその時彼のキャリアが飛躍的に伸びていたからね。

MM : ディープ・パープルの最新スタジオアルバム『=1』は、あなたにとってディープ・パープルでの最初のスタジオアルバムになります。この作品であなたはディープ・パープルの音楽に対してギターでどのようにアプローチしているのかを教えて下さい。
SM : すごくシンプルでオーガニックな感じだったよ。僕たち5人が部屋にいて、ただジャムセッションをしてたんだ。どんなアイデアが出てくるか誰にもわからなかった。もちろんみんな事前に用意したいくつかのアイディアを持ち寄っていたんだけど、使われたものもあれば使われなかったものもある。結果的にほとんどの曲は最初のライティング・セッションで完成したんだ。

MM : このインタビューの時点では、アルバムのリリースに先行し”Portable Door”が公開されており、疾走感のある曲にあなたのエモーショナルかつセンスの良さが濃縮されたギタープレイが印象的でアルバムへの期待が高まります。
SM : そうだね。”Portable Door” は僕たちが一緒に書いた最初の曲だと思う。ギターのメロディを書いて、それを弾き始めたらみんなが加わって、他の部分もとても早くまとまったんだ。パープルとの最初の曲だったから、その曲は本当に誇りに思ってるよ。

MM : アルバムに収録されている楽曲に対してあなたは作曲も手掛けているのでしょうか。
SM : そうだね。僕たち全員が曲作りに貢献したよ。

MM : 今作におけるディープ・パープルのバンドとしての作曲、アレンジ、レコーディングの各プロセスについて教えて下さい。
SM : 曲作りについては前の質問で答えたけど、レコーディングはトロントのノーブル・ストリート・スタジオでボブ・エズリンと一緒に行った。ギターパートのオーバーダブは自宅スタジオでやった部分もあるけど、大部分はバンドでライブ演奏する形でノーブル・ストリートで録音されたよ。

MM : ディープ・パープルではアンサンブルにおけるハモンドとギターの絡みも魅力の1つですが、今作でもそれらの聴きどころは用意されていますか?
SM : うん、ドンと僕は何年も一緒に演奏してきたから、ステージの上でも下でもお互いのことをとてもよく理解しているんだ。お互いが何を弾くかをが互いにわかるんだよ。それがうまくいくのは運が良いということもあったかもね。リッチーとジョン・ロードの初期のディープ・パープルも同じように機能していた。それは意図的にやろうとしてできることじゃなくて、二人のミュージシャンの間のケミストリーなんだ。

MM : 今作の制作する過程において印象に残ったことや気づきについて教えて下さい。
SM : このアルバムの制作過程全体が学びの連続だったよ、特にボブ・エズリンとの作業はね。彼は伝説的なプロデューサーで、ディープ・パープルのようなバンドのレコーディングのダイナミクスについて多くのことを教えてくれた。彼が僕たちのアイディアを取り入れて、スタジオで音楽に息を吹き込む方法を見るのは本当に勉強になったね。

MM : アルバムで使用したあなたのギター、アンプ、エフェクター、ペダルについて教えて下さい。
SM : 長い間PRSギターを使っているんだけど、このレコードで特に重要な役割を果たしたのは僕のシグネチャーモデルのPRSの2本さ。バリトンギターやスミティ・テレキャスターもオーバーダブで少し使ったけど、ほとんどはPRSを使ってた。アンプはカスタムのEnglヘッドを使って、オーバーダブにはNeural Quad cortexも使ったよ。エフェクトペダルもたくさん使ってて、BOSSやジャムペダル、Vahlbruch、Digitech、TC electronic、MXRなど、挙げたらキリがないくらいだ。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
SM : これからの予定はディープ・パープルに集中しているよ。今年はツアーがすごく忙しいけど、その後どうなるかは誰にもわからないね。もしかしたらまた新しいレコードを作るかもしれない。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
SM : いつもサポートありがとう、また素晴らしい君たちの国に戻ってライブで音楽を演奏するのが待ちきれないよ。

Simon McBride official website https://www.simonmcbride.net/
DEEP PURPLE official website https://deeppurple.com/


DEEP PURPLE / =1

1. Show Me
2. A Bit On The Side
3. Sharp Shooter
4. Portable Door
5. Old-Fangled Thing
6. If I Were You
7. Pictures Of You
8. I’m Saying Nothin’
9. Lazy Sod
10. Now You’re Talkin’
11. No Money To Burn
12. I’ll Catch You
13. Bleeding Obvious