Vol.136 Francis Dunnery / November 2023

Francis Dunnery

ロックギタリスト達の多くが、そのプレイのルーツ、拠り所として取り上げるブルース音楽。そのあらゆる感情をダイレクトに表現し、聴き手に突き刺さるこの音楽に真正面から取り組んだリアルなブルースアルバム「THE BLUES OF TOMBSTONE DUNNERY」をフランシス・ダナリーがリリース。80年代にはプログレッシヴ・ロック・バンド IT BITESにてギタリスト・シンガーとして活躍したフランシス・ダナリーは、IT BITESから離れた以降も自らのミュージシャンとしての創造力に更なる輝きを増した数多くのアーティスティックな作品を創り続けていたが、2023年からは遂にIT BITES FDとしても始動しており、ライヴ作品「Live From The Black Country」をリリースしている。最新ブルースアルバム「THE BLUES OF TOMBSTONE DUNNERY」のことや気になる今後の予定についてフランシス・ダナリーに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : 「THE BLUES OF TOMBSTONE DUNNERY」は本格的なブルースアルバムですが、ブルースの作品を創ろうと思ったのはなぜでしょうか。
Francis Dunnery (以下FD) : 僕は常に新しいことを学ぶことに興味があって、今回はブルースの深い部分を探求したかったんだ。BB KingやAlbert King、Freddie Kingのようなアーティストの音楽を聴いていると、彼らが頭で考える前に心のより深い部分で演奏しているって感じるんだ。心の底にある何かを信じているように思う。それにインスパイアされて僕もギターの精神的な側面を追求したかった。

MM : 今作で聴くことができるあなたの内面から訴えてくる歌声や指先を通したギターで弾き出されるブルースは、とても感情に溢れており、聴き手の心にダイレクトに響きます。
FD :  何かをやろうと考えて弾いたわけじゃないんだ。次にどうプレイするかも考えてないし、同じパートを二度演奏することもない。人々の魂の扉を開くような音楽で、人々が感じ取るものだと思う。

MM : アルバムの内ジャケットには、あなたからB.B.キング、アルバート・キング、フレディ・キング、アルバート・コリンズ、そしてロバート・ジョンソンといった偉大なブルースメンへの感謝の言葉が捧げられています。彼等のブルースからは、どのような影響を受けたのでしょうか。
FD : 考えないこと。エゴを持たないことだね。

MM : 今作品では全曲であなたが作曲、アレンジ、プロデュースを手掛けています。ブルースはとても奥深い音楽ですが、ブルース曲を手掛ける上で作曲やアレンジ、そして実際にプレイする際に心掛けたことはありますか。
FD : ブルースという形を守ることを大切にしたよ。ブルースを変えることはできないんだ。ブルースの原則を守らなければ、それはもはやブルースじゃなくなってしまう。多くの人がブルースを変えようと試みたが、変えた瞬間にそれらの曲はもうブルースではなくなってしまった。僕は常にジャンルにとらわれず音楽を表現しようとしてるけど、このプロジェクトではブルースというフォーマットの内側に留まる必要があった。

MM : ブルースの歌詞を書くといった面ではでどうでしたか。
FD : 全てが即興だね。ただブルースのフォーマットの上で自分の歌詞を歌っただけだよ。特に新しいことはやっていないんだ。全て昔から存在しているものだけど、何かを変えたかったんじゃなくてそこに自分をフィットさせたかっただけなんだ。

MM : アルバムに参加しているバンドのメンバーについて教えて下さい。
FD : ドラムは友人のフィル・ボーモントを迎えた。フィルは通常、僕のツアーマネージャーをしているんだけど、アルバムで演奏したいと言ったからOKしたんだ。ベースはいつも通りポール・ブラウンが担当している。彼は僕のプロジェクトの全てに参加しているよ。キーボードはナイジェル・ホプキンス、バッキングボーカルはディアン・ブレイジーだ。ブラスはニックが担当したんだけど、彼の苗字は忘れちゃったね。(笑)

MM : アルバムのレコーディングはどのように行われたのでしょうか。
FD : このアルバムのために合計で約40曲ものデモを録音したんだ。その中から最も良い曲を選んだ。多くのトラックはライブで録音した後、ボーカルをオーバーダブしている。

MM : 今作品の録音では、EQ、プラグイン、デジタル・エンハンスメント等は使用していないそうですが、その理由をお聞かせ下さい。
FD : 音楽を台無しにするデジタルプラグインの音が嫌いなんだ。今の若者たちは違いを知らないし、ほとんどの人は音楽を深く聴かないから気にも留めないんだ。それが普通の音だと思っている。でも今日の音楽と70年代にテープで録音され、テープにミックスされ、マスタリングされてレコードにプレスされた音楽とはまったく異なる体験なんだ。ただの音ではなく、体験なんだよ。デジタルや合成的な録音ツールには本当に問題がある。音楽に何か良くないものを加えてしまうんだ。それはオレンジジュースとコカコーラの違いみたいなものだよ。

MM : あなたがプレイするブルースギターのサウンドもとても素晴らしいのですが、今作で使用しているギター、アンプ、ペダル類について教えて下さい。
FD : 古いHofner Verithinのギター、RATディストーションペダル、そしてLaney Lionheartのアンプを使った。Laneyは安価な中国製コンポーネントを使ってないから品質が良いんだ。

MM : アルバムに収録されているそれぞれのブルース曲について、曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
FD :
“She Left Me With The Blues”
これは典型的な離婚した男のストーリーだ。もし君が男性で離婚の裁判になれば常に裁判官は君の敵になる。女性が全てを手に入れ、男性は全てを失うんだ。

“Poison Woman”
男と女の戦い方は違う。男は力という剣を振り上げ、女性は毒を吐く。男性的な女性と女性的な男性の場合は逆になるけどね。

“Boys Running Wild”
これはアメリカ政府の問題について歌っているんだけど、若者とその父親が一緒に暮らせないようなシステムを政府が推奨している。子供達にとって一番の問題は父親という存在の不在でその結果多くの少年達が刑務所に行くという状態を生み出しているんだ。

“Take Me Joy Away”
違いを乗り越えて互いを信じ合う二人についての歌だね。

“Don’t You Cry
他人を責めたり、批判したりジャッジする人は常に不幸に終わる。素晴らしい人生を望むならそれは最悪の行動だ。不平ばかりを言うことは自分の毒を飲むようなもので君の人生を破壊するだろう。

“The Town Where Nobody Feels”
誤解された人間の典型的な孤独の物語だね。知の町に住む、感受性豊かな人物の話さ。

“Danglin Man”
旧約聖書のサムソンとデリラの話のようにかつて強かった男が女性との恋愛で全てを失う・・典型的な話さ。

“My Whole Life”
もう十分に涙を流した男の話だ。彼はこれから素晴らしい人生を迎える準備ができたんだ。

“Blues Falling Down Like Weather”
憂鬱から逃れることができないって話さ。どこに言っても鬱がつきまとってくる。まるで天気や空のようにそこにある。逃れることができないものを乗り越えないといけないんだ。

“It’s Hard To Love Another Woman”
自分よりも魅力的な女性はその気になればどんな男でも手に入れることができる、そんな誰からも注目される女性と付き合っていくことの難しさを歌った曲さ。

“The Comeback Boy”
これは誰にでも当てはまるストーリーだ。生きていれば必ず辛い時期に入ることがあるけど、僕たちはいつもそれを乗り越えるんだ。そうするしかないからね。ドナルド・トランプの男らしさからインスピレーションを受けている。彼はアメリカ政府やメディアがなんども彼を潰そうとしても彼であり続けた。トランプの事が好きではなくても、その執念は称賛に値する。彼は決して転ぶことなく、誰にも負けることなく、彼に向けて投げられたもの全てを跳ね返したんだ。それは人生で困難を経験した全ての人にとってインスピレーションになるだろう。

“Riding On The Blues Train”
人生をあるがままに受け入れると、痛みは消えるんだ。人生にあるものに抵抗するから辛くなるのさ。抵抗をやめれば痛みが消えていく。

MM : ところで、今作品のタイトル「THE BLUES OF TOMBSTONE DUNNERY」ですが、FRANCIS DUNNERYではなく、TOMBSTONE DUNNERYとなっている理由を教えて下さい。
FD : It Bitesを脱退した時に本名のフランシス・ダナリーではなくバンド名で呼ばれたかったんだ。最初に思いついたバンド名は「The Dunnery Tombstone」だった。でも、もっと詩的な「The Tombstone Dunnery」の方がいいと思ってね。ある日、マネージャーが大きな黒いコートを着て帽子を被った僕を見て、映画に出てくる幽霊みたいと言ったんだ。だから「Tombstone Dunnery」にしろと。みんなで笑ったよ。彼はそれが今まで聞いたブルースのアーティストの名前の中でベストだと言った。だからバンドの連中は僕のことをからかって「オールド・トゥームストーン(古い墓石)」って呼んでたんだ。だから、最初のブルースプロジェクトを始めるとき、「Tombstone Dunnery」以外の名前は考えられなかった!この名前が大好きだよ。

MM : 今作品以外に、FRANCIS DUNNERY’S IT BITES FD / Live From The Black Country といったライヴ作品がリリースされています。
FD : これは2023年の1月にやったライブを録音して映像に残したものだね。今ある曲のライブ版として一番良いバージョンになったよ。出来には満足しているんだ。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
FD : It Bitesの新作CDのレコーディングを間もなく始めるよ。ドラムにはチャド・ワッカーマンを迎え、ベースはポール・ブラウン。素晴らしいキーボードプレーヤーを今探しているところさ。全く新しいIt Bitesのサウンドをウェールズのロックフィールド・スタジオで録音しているんだ。来年の1月にはリリースされる予定だよ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
FD : ファンのみんな元気かな?みんなが元気でハッピーで残り人生最後の3分の1を楽しく迎える準備ができていることを願ってるよ。僕もみんなと一緒にそこにいるからね。(笑)

Francis Dunnery official website https://francisdunnery.com/


Francis Dunnery  / THE BLUES OF TOMBSTONE DUNNERY

01. She left me with the blues
02. Poison Woman
03. Boys running wild
04. Take my joy away
05. Don’t you cry
06. The town where nobody feels
07. Danglin man
08. My whole life
09. Blues falling down like weather
10. It’s hard to love another woman
11. The comeback boy
12. Riding on the blues train
https://francisdunnery.com/shop/
https://francisdunnery.bandcamp.com/