Vol.135 Carl Verheyen / September 2023

Carl Verheyen

Carl Verheyen (カール・ヴァーヘイエン)の最新アルバム『RIVERBOAT SKY』がリリースされた。そのリアルなギタープレイにより弾き出される本物のギタートーンは、真に匠ならではのものである。全8曲が収録された今作では、8曲中の7曲がボーカル曲、残り1曲の”APRIL SURPRISE”がインストゥルメンタル曲の構成となっている。参加メンバーは、ジョン・メイダー(DRUMS)、デイヴ・マロッタ(BASS)、トロイ・デクスター(KEYS)からなるカールのお馴染みのツアー・バンドを核として、更にキーボードにジム・コックス、ドラムのチャド・ワッカーマン、パーカッションのアレックス・アクーナが参加。また、タイトル曲 “RIVERBOAT SKY” では、ソフィア・ジェームズ(米国のオーディション番組アメリカン・アイドルで知られている)が、カールとのボーカルに参加している。心強いメンバーをバックに制作された今作は、カールの味のある心地よいボーカル、匠なギタープレイの充実度はもちろん、各楽器パートによる臨場感に溢れるインプロヴァイズも充実しており、ボーカル入りの曲を好む音楽ファン、インストゥルメンタル曲を好む音楽ファン、双方の音楽ファンにアピールするバランスの取れた作品となっている。最新アルバム『RIVERBOAT SKY』についてカールに語って貰った。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : 最新作『RIVERBOAT SKY』では美しい空をバックに船が描かれたアルバムジャケットがとても素晴らしいですね。
Carl Verheyen (以下CV) : パンデミック時期に僕も他のミュージシャンもツアー生活が強制ストップになったから、その時期は作曲や練習をして次のキャリアに備えるのにパーフェクトな時間だった。でもね・・それも8ヶ月も経てば、まるで川の下流に取り残されたような気分になった。救いが必要だったんだ。前の生活に戻りたいってね。大きなボートのアートワークはその時のイメージの比喩になっているよ。

MM : アルバムタイトルを RIVERBOAT SKY にした理由をお聞かせ下さい。
CV :  曲名のアイディアは曲を録音した後に浮かんだんだ。もともとはアコースティックギターでのシンガーソングライター的な曲だったけど、ピアノや(Hammondの)B-3オルガン、さらにはベース、ドラム、ギターソロや6人のバックボーカルを加えたら、曲の存在感がすごく大きくなって、結果的にこの曲がアルバムの中心になったね。

MM : 今作でもあなたと共にMark Hornsbyがプロデュースとしてクレジットされています。彼はどのような部分をアルバムにインプットしてくれているのでしょうか。
CV : マークはスタジオでの最高の共同作業者だね。僕はたくさんのアイディアを持ち寄って彼と話し合うんだ。そうすると、アルバムを何度も聴きたくなるような色々なテクスチャーや音色の組み合わせが生まれる。彼はボーカルのプロデュースやミックスも本当に上手い。スタジオでの彼の意見やアドバイスは、僕にとって本当に貴重だよ。

MM : 今作に参加しているミュージシャンについて教えて下さい。
CV : 基本的なメンバーは、ツアー・メンバーのデイブ・マロッタがベース、ドラムがジョン・メイダー、そして最近加わったキーボードとボーカルのトロイ・デクスターの3人だね。さらにラインナップに加えてジム・コックスにもキーボードで参加してもらった。彼は1988年から『Atlas Overload』以外のほとんどの僕のアルバムに参加しているすごく才能のあるミュージシャンだよ。さらにドラマーのチャド・ワッカーマンとはかなり音楽性が近くて、彼を起用した曲が3曲ある。そして、今までも何度も仕事してきたパーカッションのアレックス・アクーニャにも参加してもらったよ。彼は僕のお気に入りのグループ Weather Report のメンバーだったことでも有名だね。

MM : 各楽曲のレコーディングはどのように進められたのでしょうか。
CV : 基本的なレコーディングはLAにある大きなスタジオVillage Recorderにて2日間で終わらせたよ。僕のお気に入りはFleetwood Macのために作られたDスタジオで、大きなルームで、ピアノ用の部屋が別にある。ピアノ以外のメンバーはみんなメインのフロアに出て、僕はスティーブ・ニックスのヴォーカル用ブースでボーカルのアイデアや仮のギタートラックをレコーディングした。その後、僕のギターやアンプ、ペダルやその他エフェクターが置いてあるSunset Soundスタジオに移動して、そこで3日間オーバーダブの作業をして、次にボーカルのレコーディングっていうプロセスだったね。

MM : 今作でも各ミュージシャンが間近でプレイしているような臨場感に溢れた作品となっています。レコーディングする上でそれら雰囲気をダイレクトに捉えるためにはどのような工夫をされているのでしょうか。
CV : 2曲を除いたアルバム収録曲は1年以上ツアーで演奏してきた曲なんだ。僕とメンバーは世界中のクラブや劇場で何度もライブしてきたからどの音、どのパートがどう鳴るか、聞こえるかをよく理解している。そして僕たちバンドがマークの元に集まった時の演奏が素晴らしかったから、マークはそれを見て「急いで録音するんだ!」ってことになったよ。

MM : 今回のアルバムでは、”APRIL SURPRISE”はインストゥルメンタル曲ですが、他の曲は全てボーカル曲です。ボーカル曲においては、味のある心地よいボーカルに加え、各楽器パートによるインプロヴァイズも充実しており、ボーカル曲指向、インストゥルメンタル曲指向の双方の音楽ファンにアピールするとてもバランスの取れた作品ですね。
CV : そうだね!”APRIL SURPRISE”は最初ヴォーカル曲だったんだけど、最終的にインストのシャッフル曲になった。制作途中はテキサス風のシャッフルやシカゴ風、または直球のジャズスイングのリズムでやってみたけど、なかなかうまくいかなかったんだよ。ちょうどいいグルーヴを見つけたとき、やっとその曲が輝いたんだ。僕は常に難しいコードチェンジを練習してきたけど、長年トリオでライブをしてるから、僕が複雑にコードチェンジしながら演奏するのをみんな聞いたことがないだろうね。今回バンドにキーボードプレイヤーがいたから幅や可能性が広がったと言えるね。

MM : ボーカル曲の中でのあなたのギタープレイも相変わらず際立っています。”DRAGONFLY”や”ELECTRIC CHAIR(STUDIO TOUR)”でのギターリフや”QUEEN DEE”でのソロなどはギターファンを惹きつけますし、その他の曲でも曲の魅力を更に引き上げるバッキングやソロのフレーズの組み立て方などの聴きどころが満載です。
CV : “Dragonfly”や”Riverboat Sky”に関してはリスナーが1、2回聞いただけでソロを口ずさむことができるレベルのシンプルなソロを目指したよ。The Beatlesの『White Album』に収録されている”While My Guitar Gently Weeps”でのエリック・クラプトンのソロをイメージした。”ELECTRIC CHAIR (STUDIO TOUR)” や “QUEEN BEE”のソロに関してはスタジオで即興で弾いたよ。ギターソロを構築する時の僕の基本的な考え方は、昔に Contemporary Keyboard Magazine誌 の記事で見た「 ベストと言われる演者の即興演奏でも、実際に即興で演奏されているのは全体の30%で残りの70%は既に練習してきたパートを組み合わせている。」というチック・コリアの理論に基づいている。だから僕はメジャー、マイナー、ドミナントや全てのコードやキー用のメロディーやフレーズを何百個と練習してきて演奏時はそのストック内から引き出してプレイしていると言えるだろうね。

MM : “RIVERBOAT SKY”では、あなたとSophia Jamesによる美しいボーカルのデュエットが印象的ですが、Sophia Jamesが参加することとなった経緯についてお聞かせ下さい。
CV : ソフィア・ジェームズはチャドの娘で、彼女の母親は僕の多くのアルバムに参加してくれた故ナオミ・スターで、ソフィアも生まれた時からずっと知っているんだ。ナオミはTrading 8sのアルバム”Higher Ground”という曲で僕とデュエットを歌った事もあるので、このアルバムのタイトルトラックでナオミの娘のソフィアとデュエットを歌うは素晴らしいアイデアだと思ったんだ。ソフィアはアメリカで人気急上昇中の存在で、”American Idol”という大きなオーディション番組で11位になった事もあるんだ。

MM : 今作では全8曲のうち7曲はあなたの作曲ですが、あなたのオリジナル曲とは別にJackson Browneの”JAMAICA SAY YOU WILL”を取り上げた理由を教えて下さい。
CV : 17歳の頃に、叔父からジャクソンがギタリストを探していると聞いて、僕はFender のツインアンプとLes Paulのギターを抱えて急な階段を息切れしながら登ってオーディションに向かったよ。でも他のバンドメンバーと一緒にジャクソンが現れた瞬間、彼は「お前はここで何をしているんだ?」って言ったんだ。ギタリストのオーディションのために来たって答えたら、「探してるのはピアノ奏者だ!ギタリストじゃないぞ!」と言われたんだ。叔父が間違っていたんだよ!でもその曲はずっと好きだったし、今となってはあのオーディションを笑い話にしてるよ!

MM : アルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか?曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
CV :
“SPIKE THE PUNCH”
音楽を作り、聴き、ダンスする。その喜びについての楽しい曲だね。

“DRAGONFLY”
これはwang barを使って演奏したリフを基に作った曲だね。自己流のやり方でギターのバネをセットアップしないとできない技法だよ。YouTubeで Carl Verheyen: Whammy Bar Setup Secretsって検索してチェックして欲しい。

“ELECTRIC CHAIR (STUDIO TOUR)”
この曲では1980年からレコーディングしてきたLAの24箇所のレコーディングスタジオについての曲だね。これらのスタジオの多くは年月とともに閉鎖されてしまったので、それらのスタジオへの小さな追悼の意味を込めて曲を書いたんだ。

“RIVERBOAT SKY”
長いコロナ渦の年月の中の救いの曲だね。希望と諦めないことについて歌っているよ。

“APRIL SURPRISE”
僕は常にWeather Reportの大ファンだから、ジョー・ザビニルは作曲家やソロ演奏者として最も影響を受けた一人だね。このトラックでは、ジョーと長年一緒に演奏してきたアレックス・アクーニャをパーカッションで使用しているよ。

“QUEEN BEE”
数年前に1960年製のfender telecasterでメインのリフ弾いたんだけど、弾いたのを完全に忘れていた。でも演奏している自分のビデオを見つけて聞き直した時に、これはちゃんと曲にしなきゃなって思ったんだ。僕は「時間差で訪れたインスピレーション!」と呼んでいるよ。

“GENERATIONS”
基本的に自分の息子への手紙だね。

“JAMAICA SAY YOU WILL”
ジャマイカで友人の結婚式に出席した際にこの曲のアレンジを思いついたんだ。

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類について教えて下さい。
CV : 実はDumble のオーバードライブ・スペシャル・アンプを通常の価格よりもかなり安く購入するレアな機会があったんだ。でも、手に入れたこの暴れん坊を手なずけるのに少し時間がかかったよ!最終的には僕の45台のアンプのコレクションに加わった。いつも使っているMarshall、Fender、Dr Z、HiWatt、そしてVoxアンプに対抗できる素晴らしい質感を持ったアンプだね。”Queen Bee”のソロは’68年製のGibson ES-335で、”April Surprise”はFramus Mayfieldを使用していて、これはP-90ピックアップを備えたES-330のようなものさ。また、’66年製のSGやたくさんのFender Stratocaster、Telecaster、そしてLsL の僕のシグネチャーモデルのStratも使用したよ。

MM : あなたは自身の活動以外にも、これまでに映画音楽のサウンドトラックや他のアーティストの作品への参加など、セッションギタリストとしても活躍してきましたが、最近ではそれらお仕事の方はどうなのでしょうか。
CV : 最近は他のアーティストのためのレコーディングの仕事も多いんだけど、彼らの音楽をプロデュースする機会も増えた。ミュージシャンとしての自分をエンジョイしているよ。時には他アーティストの音楽的なビジョンに貢献するのも楽しいからね。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
CV : 現在LAでの新作のリリース・ライブの準備をしている。スペシャルゲストも参加予定の大きなイベントになるよ。その後2024年4月にはヨーロッパツアーが控えている。バンドと一緒に日本にも行きたいと思っているんだ…

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
CV : 『Riverboat Sky』のアルバムをエンジョイして欲しい!僕は常にベターな演奏ができるように日々情熱を注いでいるから、そんな僕の変化を音楽から感じ取って欲しい。この作品がみんなの一日を明るくする手助けになったらいいね!

Carl Verheyen official website  https://carlverheyen.com/


CARL VERHEYEN / RIVERBOAT SKY

1. SPIKE THE PUNCH
2. DRAGONFLY
3. ELECTRIC CHAIR (STUDIO TOUR)
4. RIVERBOAT SKY
5. APRIL SURPRISE
6. QUEEN BEE
7. GENERATIONS
8. JAMAICA SAY YOU WILL