Jeff “Skunk” Baxter
かつてはスティーリー・ダンやドゥービー・ブラザーズでの主要メンバーとしてギターを担い、以降も音楽プロデューサー、作曲家、セッションギタリストとして音楽界に多大な功績をあげいるレジェンドミュージシャン、ジェフ・スカンク・バクスターが自身初となるソロアルバム「Speed Of Heat」をリリースした。この作品は、心にダイレクトに突き刺さるロックフィールに溢れ、かつ繊細な感情を剥き出しにしたリアルなギタープレイによるインストゥルメンタル曲から聴き手の心を深く癒すメロディ、サウンドを持つ曲に至るまで、聴き手がその時々に立っている様々な状況に寄り添える音楽性豊かなものとなっている。また、今作では、作曲・アレンジ・プロデュースといったミュージシャンとしてのジェフ・スカンク・バクスターが持つ音楽的な総合力に、同じくプロデュース、作曲、アレンジ等、作品の全般に渡り相棒を務めたC.J.ヴァンストンの才能が見事に融合し、その結果、各楽曲が持つ良質なメロディ、アレンジ、サウンドは、ギタリストのソロアルバムの域を超えてギター・ファン以外の音楽ファンにも広く受けいられるものになっている。レジェンドギタリスト、ジェフ・スカンク・バクスターに「Speed Of Heat」について訊いた。
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Hiroshi Takakura
Muse On Muse (以下MM) : あなたはこれまでにスティーリー・ダン、ドゥービー・ブラザーズでの活動やセッションギタリストとして数々の偉大なギタープレイを残しています。また、音楽プロデューサーとしての手腕も広く認められているレジェンドミュージシャンです。今回、あなたにとって初となるソロアルバム「Speed of Heat」では、聴き手にダイレクトに突き刺さるロックフィールに溢れ、かつ繊細な感情を剥き出しにしたリアルなギタープレイが印象的です。また各楽曲の曲自体が持つ良質なメロディ、アレンジは、ギタリストのソロアルバムの域を超えてギター・ファン以外の音楽ファンにも広く受けいられるとても素晴らしいものとなっています。あなた自身はこの作品では何を目指しましたか。
Jeff Baxter (以下JB) : このアルバムにおいて集中した事とゴールにした事は、様々なスタイルでギターの演奏をする機会を作る事と、自分が好きな音楽のジャンルを取り入れながらベストなアルバムを作る事だね。
MM : アルバムに収録されている曲の多くは、あなたがC.J.ヴァンストンが中心となり作った曲ですが、彼と共にアルバムの曲を作ることになった経緯をお聞かせ下さい。
JB : CJとは長年の友達だね。彼とはかなり昔にイリノイ州のシカゴで出会って、その後たくさんのレコーディングやライブを一緒にやってきた中で、楽しかっただけでなく僕達は一緒に音楽を演奏するという仕事ができる特別な能力がある事に気づいたんだ。
MM : 他にもマイケル・マクドナルド、ジョニー・ラング、クリント・ブラックなどが参加しています。
JB : マイケル、ジョニーとクリントは共に素晴らしい友人で、僕と仕事するのに強い興味を持ってくれたんだ。
MM : アルバムの曲作りやそれら曲のレコーディングはどのように進められたのでしょうか。
JB : アルバムの大部分はカリフォルニア州、LA のツリーハウスにあるCJのスタジオで数年かけてレコーディングした。曲やアイデアをレコーディングするのに必要なスケジュールの空きが見つかった時に仕事してきた感じだね。
MM : アルバムのオープニングを飾る”Ladies From Hell”では、エレクトリックなど様々なギターにキーボードが絡む躍動感のあるロック・インストゥルメンタル曲であり、最後のドラムマーチが聴き手に更なるインパクトを与えます。
JB : この曲は音楽のタペストリーを織るように作られた曲だね。そして僕の先祖の土地であるスコットランドに捧げているよ。かの地の文化や歴史をリスナーが感じれるように作っているんだ。スコットランドの歴史において重要なバグパイプとドラムの音を効果的に際立たせるように使っているよ。
MM : あなたは70年代にSteely Danで活動していましたが、今作ではそのSteely Danの”My Old School”をロック・ギターが全開の素晴らしい形で届けてくれました。
JB : 僕はSteely Danのオリジナルメンバーで、もっとロックでもっと強度が高いヴァージョンの”My Old School”をずっとやりたいなと思っていたんだ。この曲をSteely Danのライブでやる時は僕がヴォーカルをやって、演奏すればする程に力強さや熱量が増していった曲なんだ。今回のアルバムの中のヴァージョンには、この曲はいくらでもパワフルにできるよっていう僕の気持ちが込められているんだ。
MM : 同じくSteely Danの”Do It Again”がボーカル入りの曲であったのに対し、今作ではインストゥルメンタル曲という形で曲が持つ新たな魅力を引き出すことに成功しています。
JB : CJと僕はこの曲が好きなんだけど、全く違う解釈でやってみようと試みたんだ。より自由度の高いギタープレイに挑戦するできる良い機会だったね。
MM : “Juliet”や”Giselle”が持つメロディの優しさやサウンドの美しさは聴き手を深く癒します。
JB : CJと僕の2人の音楽的なコミニケーション能力と作曲・演奏のスキルから生まれた2曲だね。どちらの曲のプロダクションもドラムからスタートして曲を書いて演奏した。フェンダー・ストラトキャスターのクリーンな音が大好きで”Juliet”では美しい歌声を乗せることができた。僕の娘がこの”Juliet”を初めて聞いた時「お父さん、朝日みたいな曲だね」って言ってくれたんだ。すごく嬉しかったよ。
MM : ジョニー・ラングが参加している”I Can Do Without”では、熱いブルースギターの掛け合いが展開されています。
JB : ジョニーは素晴らしいギタリストで僕と彼はかなり違うスタイルの持ち主だ。お互いのスタイルの違いと良さを際立たせるような曲を作りたかったんだ。要するに2人のギタリストが音楽で会話しているって事だね。
MM : Jeremiah Patrick Lordanの”Apache”を取り上げた理由を教えて下さい。
JB : 9歳の時にギターを始めてからずっと”Apache”はお気に入りの曲の一つなんだ。美しくパワフルで尊厳のある曲だから、僕のヴァージョンでもこの曲を聞いた時に感じる特別な部分、曲に内在するパワーと威厳を大事にして制作したよ。
MM : マイケル・マクドナルドが素晴らしい歌声とあなたのエモーショナルなギターが印象的な”My Place In The Sun”について教えて下さい。
JB : マイケルとはSteely Danで一緒に仕事してからずっと友人関係が続いていて、 Doobie Brothersに彼を招いたのも僕だね。ずっと前から僕達は音楽的に補完しあえる関係だっていう事を知っていたから、このアルバムはその僕らのスペシャルな関係をさらに深めて、僕らに何ができるかを証明するのに良い機会だったよ。
MM : ボーカル曲であるアマンダ・マクブルームの”The Rose”も美しいギターインストゥルメンタル曲として提示されています。ボーカルの歌声をギターに置き換える際にあなたが工夫していることを教えて下さい。
JB : Venturesは初めて聴いたバンドの一つだね。彼らが特に優れているのは、最高なメロディーを奏でることに注力している事だね。彼らのメロディーは細部にまでこだわっているんだ。僕はペダル・スチール・ギターが一番美しい声を持つ弦楽器と思っていて、”The Rose”はそのスチール・ギターがいかに美しいかっていう部分を伝えるチャンスだと思ったんだ。それとこの曲は僕の偉大な父に捧げる曲だね。
MM : カントリーミュージック界のシンガーソングライターであるクリント・ブラックが参加している”Bad Move”について教えて下さい。
GG : クリントとも長年の友達で彼はSteely Danの大ファンでもあるんだ。僕らの哲学を保つために僕とCJはこのアルバムの客演アーティスト(マイケル、ジョニー、クリント)に彼らが普段やっている音楽とは全く違うスタイルでやってほしいと頼んだんだ。クリントはスタジオに入るなりすぐにギターを繋いで、今までの彼からは聞いたことのないようなリフを弾き始めた。Steely Danのスタイルだったね。それが”Bad Move”のイントロのギターリフになった。彼のミュージシャンとしての才能を見事に証明しくれたよ。
MM : “Insecurity”ではファンキーでありながらも開放感のある爽やかなサウンドが同居しているとてもクールな曲です。
JB : この曲はCJと録音した最初の曲の一つで、1989年にレコーディングしたんだ。その後「Speed of Heat」を制作している時に聴き返して、この曲が持つ強度、ファンキーさ、R&B的な要素がとても新鮮な感じがして、僕達がこの曲を大好きだっていう事を思い出したんだ。特にリック・リヴィングストンのヴォーカルが最高だね。
MM : アルバムの最後はハードなロックギターによるインストゥルメンタル曲 “Speed of Heat”です。ここでもあなたの躍動感に溢れ、聴き手の心にダイレクトに突きささるギターがとても印象的です。
JB : この曲はリフから始まるんだけど、このリフはピアノを弾きながら思いついたんだ。CJがスタジオに戻ってきた時に「なんだそのリフは??」と凄く驚いていた。僕がただ思いついたアイデアだよって伝えてからすぐに、そのリフから曲を構築していった結果、できたのが”Speed Of Heat”だね。この曲では何も我慢せずにより自由にワイルドになる事を心がけたよ。
MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。
JB : メインで使った機材は僕が昔デザインを手伝ったBoss/RolandのマルチエフェクターME-10だね。ほとんどのギターの録音ではギターからME-10、そしてミキサーにつないでいるよ。他にもRolandのギターシンセGR-55、Roland G-5、フェンダーのストラトキャスターモデリングのギター、Sho-Bud D-10 Super-Proのペダル・スチール・ギター、ギターアンプは VGA7、Bedell アコースティックギター、Peaveyのラップ・スチールギターや他にもRoland/Boss社の機材を使ったね。Rolandとは45年以上の付き合いになるけど、彼らの機材に対してのヴィジョンや品質にはいつも感動させられるんだ。
MM : 今作はギタリストによる作品といった小さなカテゴリーに収まるものではなく、作曲・アレンジ・プロデュースといったミュージシャンとしての総合力の秀逸さが際立っています。あなた自身、それらを収得するためにギタリスト、ミュージシャンとしてどのようなことを積み重ねてきたのでしょうか。
JB : そう言ってくれるのは嬉しいね。ありがとう!ギターは毎日演奏しているし、この60年間スタジオでのミュージシャン、ライブでの演奏、作曲やプロダクション、エンジニア、ギター作りや機材のデザイナーを続けてきた事で、ものすごい量の知識を得た。そんな濃い経験を続けてきた事でミュージシャンとしての自分ができたという事だね。
MM : 現在の音楽シーンやギタリストについてはどのように考えていますか? また今後はどのような方向に進んでいくと思いますか。
JB : 現行の音楽においてのギターの占める割合は増えてきているね。ギターの売上は過去最高をただき出しているし、ギターで作曲された素晴らしい曲がたくさんある。この流行はこれからもしばらく続くんじゃないかと思っているよ。
MM : 今後の予定を教えて下さい。
JB : 7月、8月に控えたアメリカ西海岸のツアーとその後の日本ツアーを楽しみにしているところだね。今でもスタジオ・ミュージシャンとし手の仕事、ライブのの仕事、作曲やギターのR&Dの仕事を続けているしその演奏の機会を十分に生かしてまだまだ成長を続けているよ。これから先のツアーやレコーディングも凄く楽しみだ。
MM : ファンへのメッセージをお願いします。
JB : 僕の音楽を長年サポートしてくれたり興味を持ってくれてて本当にありがとう。もうすぐ日本でライブする事、みんなに会う事を本当に楽しみにしているよ!
Jeff Skunk Baxter official website: https://www.jeffskunkbaxter.com/
Jeff Skunk Baxter / Speed Of Heat
01. Ladies From Hell
02. My Old School
03. Juliet
04. I Can Do Without
05. Do It Again
06. Apache
07. My Place In The Sun
08. The Rose
09. Bad Move
10. Giselle
11. Insecurity
12. Speed of Heat