Vol.127 Guthrie Govan / June 2022

Guthrie Govan


Photo by Cian O’Sullivan

ロック・フュージョンのパワートリオ、The Aristocrats(ギタリスト Guthrie Govan、ベーシスト Bryan Beller、ドラマー Marco Minnemann)とポーランドのオーケストラ Primuz Chamber Orchestraとの共作「The Aristocrats With Primuz Chamber Orchestra」がリリースされた。プロジェクトは、作曲・編曲家であるWojtek Lemańskiによるオーケストラアレンジで再構築されたThe Aristocratsの楽曲 “Culture Clash” をポーランドのPrimuz Chamber Orchestraが演奏している動画をバンドがYouTubeで偶然に目にしたことから始まった。作品は、オーケストラとTHE ARISTOCRATSの融合が見事にマッチし、それぞれの楽曲がオリジナルに加えてよりダイナミックとなり、更に臨場感のある出来栄えとなったことで聴くものを良い意味で驚かし、深く聴きこませる内容となっている。作品の全容についてガスリー・ゴーヴァンに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo by Daniel Work

Muse On Muse (以下MM) : 今回リリースされるポーランドのオーケストラとのコラボレーション作品「THE ARISTOCRATS WITH PRIMUZ CHAMBER ORCHESTRA」のきっかけはYoutubeだったとのことですが
Guthrie Govan (以下GG) : そうなんだよ!2年前くらいにYouTubeで僕らの曲”Culture Clash”をヴォイテック・レマンスキがアレンジしたヴァージョンをプライマッツ・チャンバー・オーケストラが演奏しているのを偶然発見したんだ。初めて聞いた時から、彼らが自分たちの解釈であの曲を表現していることをすごく気に入った。実際にヴォイテックとプライマッツ・オーケストラに連絡してコラボレーションの作品をやるというのは、僕らのマネージャーのリカルド・カッペリのアイデアだったんだ。オーケラストラとコラボしてアルバムを作るって言うのは簡単だけと、実際にコンセプトを実行に移すためには色々なチャレンジを乗り越えなければいけない。だからリカルドはこのプロジェクトに於いて重要な役割を果たした。

MM : ストリングアレンジを手掛けている作曲・編曲家のヴォイテック・レマンスキ氏のことは知っていましたか?
GG : 恥ずかしながら僕らは彼のことを知らなかった。でもヴォイテックは彼とオーケストラが拠点としているポーランドではテレビや映画音楽の作曲家として有名だと思うよ。彼は僕たちのことをよく知っていたけどね。一緒に仕事をしてわかったけど、ヴォイテックと彼の子供達(そのうち1人はオーケストラ内のチェロ奏者)は数年前のポーランドでのAristocratsのライブを観に来ていたらしいよ!

MM : 彼等と共にプロジェクトを進めるに際して、プライマッツ・チャンバー・オーケストラの作品やヴォイテック・レマンスキの作品はチェックしましたか。
GG : 彼等による“Culture Clash”のビデオをYouTubeで観たとき、すぐにこのプロジェクトの可能性に関しては確信したよ!あんなに複雑で難しいアレンジを施した曲を、強度の高いエネルギーと独自の観点を持って演奏していたのには驚いたよ。アレンジャーとミュージシャンの両方が原曲の意図を深く理解していたからこそ、オリジナルの魂を残しながら楽曲構成を変化させることができたんだと思う。特にヴォイテック流のアレンジはすごくユニークで、僕たちの音楽に対してよく言われるような「複雑なんだけど楽しい」的な音楽に合っている。それにプライマッツの弦楽器の奏者達は高い技術で正確な演奏をしてくれるだけでなく、演奏にある種のロックンロールのアティテュードがある。だから僕たちにとってはオーケストラの世界から来た理想の使者と一緒に仕事ができていると感じている。

MM : ロックギタリストの中には、オーケストラと共演した作品を作った人達がこれまでにもいます。THE ARISTOCRATSの作品にオーケストラが加わることに対してどのような効果に期待を抱いたのでしょうか?
GG : わかっていたことは、バンドとオーケストラとアレンジャーはクリエイティブな観点でお互いを深く理解していないといけないってことだね。このコラボレーションにおいて何が起こるか予想できない部分ももちろんあったけど、音楽的に素晴らしいものができる事、アーティストとしてすべきことができる自信はあったよ!

MM : 作品は、これまでにリリースされていたTHE ARISTOCRATSのアルバムのバンドの演奏の音源に対して、新たにオーケストラの音源を重ねリミックスする形で作られたのでしょうか。
GG : まずAristocratsの前アルバムの演奏をベースにしてヴォイテックにアレンジをお願いするという決定事項があった。最初のステップとしてDAWソフトのLogic Proのテンポ・マッピング機能を使ってMIDIのクリックトラックを各トラックに準備した。次にヴォイテックが弦楽器のアレンジをMIDIで作って、僕らと彼と何度もメールのやり取りをしながら、ハーモニーのアイデアや強弱など細かい部分を詰めていった。納得できるアレンジが完成したらオーケストラをレコーディングできるスタジオを探した。彼らは全員が一緒にライブ録音できるレコーディング環境を求めたんだ。もちろん僕らがトリオでアルバムを作る時も同じアプローチだったし、彼らにとっては当然のやり方だ。ただ当時はパンデミック渦で、ポーランドのオーケストラとメンバーが、イギリスとアメリカとに別々に住んでいるロックバンドとレコーディングする事の難しさは想像してもらえばわかると思う!最終的にはオーケストラ・アレンジャー・指揮者が一堂にスタジオに介してレコーディングする事ができた。だからアルバム音源内のストリングスは全てリアルタイムでライブ録音されているよ。付け加えると、このアルバムはミックスダウンの作業でも、バンドの音とオーケストラの音両方の繊細な部分を含めてミックスするための、ベストなアプローチを探すのにすごく苦労したんだ。このユニークな音楽的チャレンジにおいて僕らが最高の解決策を見つけたと思っているし、みんなもそう感じてくれれば嬉しいよ。

MM : 既存のバンドの演奏に手を加えたりといった新たなアイデアを試したりすることはありましたか
GG : 基本的なアイデアはバンドのアレンジメントに対して弦楽器の音を加えていく事だったけど、“The Ballad of Bonnie & Clyde” “Jack’s Back” “Dance Of The Aristocrats”ではヴォイテックがオリジナルの構成に加えて全く新しいセクションを入れ込んでオーケストラのサウンドを強調しているよ。彼がそのようなアイデアを出してくるとは思っていなかったけど、彼の素晴らしいMIDIのデモを聴いてそのアイデアを採用する事にしたんだ。

MM : この作品では、オーケストラとTHE ARISTOCRATSの融合が見事にマッチし、それぞれの楽曲がオリジナルに加えてよりダイナミックとなり、更に臨場感のある出来栄えとなったことで聴くものを良い意味で驚かします。
GG : ありがとう!彼らのようなオーケストラとアレンジャーを発見できた事はラッキーだったよ。彼らが僕らの音楽を理解してくれた事がこのアルバムの完成度の高さの原因となっていると思うよ!


Photo by Nigel Neve

MM : この作品を聴くとTHE ARISTOCRATSの曲自体が持っているドラマ性や美しさ、聴き手にイマジネーションを与える力にあらためて気づかされます。
GG : このアルバムの仕上がりについては本当に満足しているんだ。自分たちの想像以上に方向性が良かったのだと思う。この新しい解釈を持ったアルバムをファンのみんなに聴いてもらうのが待ちきれないよ。僕らの曲はある意味生き物だと思っていて、僕たちがスタジオでレコーディングしたヴァージョンからライブツアーを通して有機的に変化・進化していくものなんだ。そしてこのオーケストラとのコラボによってさらに新しい次元の変化が生まれたって事だね。

MM : 今回オーケストラとコラボーレーションし、新たに生命が与えられた作品の収録曲のそれぞれに対してあなた自身はどう感じ取ったのかをお聞かせください
GG :
“Culture Clash”
この曲のオーケストラ・ヴァージョンをYouTubeで発見した時からこの長い冒険が始まったから、この曲は特別な1曲だね!面白いのは、たくさんある僕たちの曲の中で彼らがまずこの曲を選んだってことだ。だからバンドとオーケストラが持つクリエイティブな共通項みたいなものがこの曲にあるということを象徴していると思う。

“Stupid 7”
オーケストラにとって一番難しかった曲だったけど、素晴らしい仕事をしてくれたよ。早いテンポかつ変拍子の中で複雑なメロディーが演奏されるイレギュラーな曲を、クールかつ熱いパフォーマンスで演奏してくれた。この曲の最後の5つのコードは特に「貴族的」な雰囲気を持っていて、原曲のギターコードは意図的に醜い音になっているので、オーケストラにそれを拡張してもらい、あえて音を外して、曲が最後に完全に崩壊するようなイメージで演奏してもらったんだ。すごく変わっていて面白い効果を生み出したと思う。

“The Ballad Of Bonnie And Clyde”
この曲はアルバムの中で一番映画的な曲になったね。弦楽器を加えることの効果が一番出た曲かもしれない。元々ダイナミックでストーリーのある曲にさらなるドラマを与えてくれた。原曲よりも長いイントロや間奏などヴォイテックが音楽的に素晴らしいアイデアを与えてくれたんだ。彼は僕らの音楽の魂の部分を本当に理解してくれているね。

“Dance Of The Aristocrats”
この曲は僕たちにとって変わった曲で、まずマルコのコンセプトとしてはエレクトロの曲だったんだ。彼の当初のデモは全て打ち込みの音で構成されていた。その曲をライブバンドで演奏しつつ、出来るだけロボット的でシーケンサーが演奏しているような感覚を表現しようとしたんだ。さらにオーケストラを加えることで変わったこの奇妙なコンセプトがさらに奇妙になったよ。ブライアンのシンセサイザーのペダルとベースラインの上にチェロが重なっていく部分の音がすごく気に入っている。
この曲でサプライズだったのは三拍子のアウトロの部分だね。ヴォイテックから送られてきた最初のデモの弦楽器のアレンジではアウトロの数小節が、半ばジョークでワルツになっていたんだけど、雰囲気が変わる感じがすごく良くて、ヴォイテックにこのアイデアをさらに発展させるよう頼んだんだ!

“Through The Flower”
この曲に対するヴォイテックのアレンジは興味深いサプライズに溢れていたよ!ギターの演奏のみで始まるイントロに対して新しいハーモニーを考え出したんだ。さらに間奏のギターソロに対しても美しい音を与えてくれたよ。フェイドアウトしていく曲の終わりの部分はアルバム内でも一番ミックスが難しかったね(僕たちがリリースしてきた音源の多くは3人がライブのセッティングを模して生で3人で演奏するという形で録音されているんだ)。でもこの曲ではエンディング部分に向かってドラマチックにビルドアップしていくために、すでに多くの音をオーバーダブして重ねていたから、そのアイデアをキープしながらさらにオーケストラの音を加えていくのは本当に難しかったよ。ゆっくりフェイドアウトしてくセクションはビルドアップの流れをコントロールするのに重要だったんだ。

“All Said And Done”
この曲は元々僕らが愛するBeatlesへのオマージュ的な曲だと思っていたから、ストリングスを加えたアレンジには最適だったよ。ヴォイテックにはジョージ・マーティンをアレンジの参考にしてくれって伝えたら、完全に僕たちが求めていたものを返してくれたよ。

“Jack’s Back”
アルバムのなかでお気に入りの1曲を選ぶのは不可能に近いんだけど、原曲の作曲者としてこの曲の仕上がりに関しては誇りに思っているよ!
Aristocratsの曲を書く時に難しいのは、僕らはたった3人のバンドだから、3人で演奏できる形に曲やハーモニーを考えなければならないことで、そのために音楽的なアイデア、細部の部分が犠牲になったり省かれてしまう事があるんだ。その典型的な例がこの曲で、Hanz Zimmerとのツアーを終えたばかりの時に作曲したから、3人のパートだけでなく沢山の他のアイデアが浮かんでいたと思う。そして今回ヴォイテックが3人の生のライブ演奏を聞いてその上に僕が作曲時に考えていたようなムードを構築していくのを聴くのは素晴らしかったよ。

“Ohhhh Noooo”
この曲はもしかすると典型的なオーケストラのアレンジに適していなかったかもしれない。メインのリフがストレートなロックのリフだったからね!でもヴォイテックは楽しいアイデアを与えてくれたよ。オリジナルのメロディーに対となるメロディーを弦楽器で編み出してくれた。特にこの曲の比較的静かなセクションでのピチカートの弦楽器パートが好きだね。ちょっと生意気なテイストがあってこの曲のムードに凄くフィットしているんだ。それと間奏のベースソロのセクションに重厚なオーケストラの質感を与えてくれたのも僕らみんな気に入ってるよ。

“Last Orders”
他の曲のオーケストラのパートはバイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスのみで構成されてるんだけどこの曲のみオーボエ奏者を入れていてユニークな曲だね。正直なところオーボエを入れるアイデアは最初はどうかなと思ってたんだ。でも最終的なオーボエの演奏を聞いてこの曲のムードを強調してくれるっていう事がわかったんだ。
オリジナルの”Last Orders”では後半から最後にかけてゆったりした長いジャムセッション部分があるんだけど、スタジオのレコーディングではよく起こる事だから、当初はジャムの途中でフェイドアウトして曲を終える予定だったんだけど、聴いてみると良い感じだからフェイドアウトせずに最後まで収録したんだ。このセクションのアレンジはヴォイテックがまた彼の能力を発揮してくれた部分で、この即興でレコーディングした部分にオーケストラの音をはめ込んで、最終的なアレンジでは全てのパートが元々作曲されていたように聴こえるんだ。ストリングスのパートが元々のジャムの不規則なリズムセクションにフィットしているところが大好きだよ!

MM : オーケストラとコラボレーションしたロックミュージシャンの作品の中で、あなたが興味を引かれた作品はございますか。
GG : 沢山のロックバンドがクラシックの奏者とコラボしてきたのは知っているけど、特にお気に入りのアルバムは思い浮かばないね。そういう意味で、今回のような交差する音楽というプロジェクトで参考にしたのはビートルズだね。ビートルズがロック音楽ではなくポップ音楽だったという意見はよく議論される事なんだけど、僕にとっては彼らはバンドとクラシックの楽器を合わせたアート表現という意味で素晴らしい仕事を成し遂げたと考えていて、特に彼らの初期の作品は他のバンドとオーケストラのコラボレーションに対して道を開いたと確信しているよ。

MM : THE ARISTOCRATSとしての北米でのバンドのツアーも予定されていますが、その他の地域ではどうなるのでしょうか。あなた自身やバンドの今後の予定を教えて下さい
GG : この2年間はパンデミックで全てが止まったから、今は全てのツアーとレコーディングのスケジュールを作り直しているところだよ。今わかっているのは夏にアメリカのツアーを控えているってことで、その後のプランはツアーで皆が集まった時に決めていくことになると思う。来年にアジアを回れればいいなって強く思っているけど具体的にいつになるかはまだわからない。またアナウンスするからチェックしておいて欲しい。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
GG : ずっとサポートしてくれて本当にありがとう。再びツアーに出て、みんなに会えるのを心待ちにしているよ!それと同時にこのプライマッツ・チャンバー・オーケストラとの共作をリリースできて本当に嬉しいよ。みんなも聴いて喜んでくれたら最高だよ。

The Aristocrats official website https://the-aristocrats-band.com/


The Aristocrats With Primuz Chamber Orchestra

1. Culture Clash
2. Stupid 7
3. The Ballad Of Bonnie And Clyde
4. Dance Of The Aristocrats
5. Through The Flower
6. All Said And Done
7. Jack’s Back
8. Ohhhh Noooo
9. Last Orders