Vol.123 Dom Brown / July 2021

Dom Brown


Photo by Andy Ciparis

英国にてギタリスト/作曲家/プロデューサーとして活動しているドム・ブラウン。セッションミュージシャンとしてもデュラン・デュランのライヴやレコーディングに参加している。デュラン・デュランでは、この16年間で4回のワールドツアーに参加し、3枚のアルバムをレコーディング、アルバム「All You Need Is Now」(2011年)と「Paper Gods」(2015年)では20曲以上を共同作曲している。そのように才能溢れるドムがニュー・ソロ・アルバム「IN MY BONES」をリリースした。この作品ではギタリストとしてのドムの素晴らしさは勿論、プロデューサー、作曲家・編曲家、マルチプレイヤーも手掛けるなどミュージシャンとしての総合力が存分に発揮されている。作品に収録されたどの楽曲も完成度が高く、幅広い音楽ファンに受け入れられる魅力的なものとなっている。ドム・ブラウンに彼の音楽的背景やニュー・ソロ・アルバム「IN MY BONES」について語って貰った。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo by David Tweedie

Muse On Muse (以下MM) : あなたの簡単なプロフィールやあなたが音楽を始めたきっかけについて教えて下さい。
Dom Brown (以下DB) : 小さい時からずっと音楽が好きだったよ。小学校の時の担任が元ヒッピーの先生で、クラスでも Led ZeppelinやDeep Purple、Black Sabbath、AC/DCなんかの曲をかけていたんだ。ある日先生がかけたPink Floydの ”Welcome To The Machine” を聴いて衝撃を受けた。その時から音楽を作って生活していきたいと思うようになったんだ。

MM : あなたはギター以外にもボーカル、ベース、ドラム、ピアノ、キーボードをこなすマルチプレイヤーであり、プロデュースや作曲、ホーンやストリングスのアレンジまで手掛けます。音楽の専門的な教育も受けていたのでしょうか、あなたの音楽スタイルを確立するまでのプロセスを話して頂けますか?
DB : ほとんど独学で勉強したよ。13才の時、初めて自分のギターを手に入れて、レイメジャーっていう先生から5、6回レッスンを受けた。その先生から凄く影響を受けたね。その後は自分の耳を頼って練習したんだ。高校を卒業した後、サルフォード大学のポピュラー音楽とレコーディング学科に入学して、スタジオワークと基本的な音楽理論、それにアレンジを学んだよ。

MM : プロのミュージシャンになろうと決心したのはいつ頃でしょうか?その後、プロとして活動するに至るまでの経緯について詳しくお聞かせ下さい。
DB : 一番初めのキッカケはさっき話したようにピンクフロイドを聴いた時で、本当に強い衝撃を受けたよ。初めてギターを手にして2年くらいした後にマット・マッコイというドラマーとジャムするようになった。彼はイアン・ギラン・バンド のベーシストのジョン・マッコイの息子だね。僕たちはその後Nexusって名前のバンドを組んだ。僕にとっては初めてのちゃんとしたバンドだったんだ。初めてのギグはロンドン南西部、トゥイックナムの The Turk’s Headってパブだったね。僕は16才だった。バンドは少しメンバーが変わったりしたけど、僕が高校に行っている2年間続いた。大学を卒業した後にすぐにバトリンズ・ホリデーキャンプというレジャー施設のお抱えバンドの一員として3ヶ月間、初めてプロとして音楽の仕事をしたよ。大学の先生の1人が毎年やっている仕事だったんだけど、その年はできないから僕が代わりをやることになったんだ。慣れるまでの数週間は難しかったけど楽しかった。でも同じ場所で同じ曲ばっかりを毎日やることにすぐ飽きてしまったね。セッションの仕事を勉強する意味では良い機会だったけど、その後の数年間はアイデアがなくなるっていう状態に陥ってしまった。

20代の時は、いくつかのバンドで活動していて、ある程度充実していたんだけど、残念ながらブレイクする事はなかった。90年代の半ばにLAに移住し、現地で組んだバンドでちょっとした成功を納めたよ。LAではThe Whiskey、 The Roxy、The TroubadourやViper Roomsなんかの箱で演奏していたね。

LAからイギリスに帰ってきた時は、セッションミュージシャンとしてやっていこうと考えていたんだ。それ以前も自分のオリジナルバンドの活動資金を作る為に、カバーバンドを何年もやっていたからね。非常に短い期間で新しい曲を覚えるのには慣れていた。2000年から2001年の間、セッションの仕事をくれるエージェンシーに所属して、レギュラーの仕事を得ていた。初めは主にエルトン・ジョン、ロッド・スチュワート、ライオネル・リッチーなどの大物のテレビでのセッションのバックをしていたね。大きな仕事ではなかったけど、凄く楽しかった。それに他のプロのミュージシャンと出会えた事は重要だった。彼らの演奏を見て自分もあれくらいできる能力があるのにって悔しくなったから、たくさん練習したよ。彼らのようなミュージシャンとレコーディングやライブがやりたいって強く思ったね。

ライブで大きな仕事をしたのは、Go Westのツアーメンバーだった友人から代役を頼まれた時だった。Go WestはCuriosity Killed The Catやニック・ヘイワードのバンドでもあったから、僕は2日間で30曲を覚えないと行けなかったんだ。しかも初めてのライブの前のサウンドチェックまではリハーサルもなかったんだよ。でもこの時の仕事ぶりを認められて、プレッシャーの中でも早く仕事ができるプロのギタリストとしての評判が広まったんだ。この経験は次のステージに凄く役に立ったよ!

MM : DURAN DURANやLiam Gallagher、Justin Timberlakeといったビッグなアーティストへのレコーディングやツアー、作曲の仕事も手掛けられています。どういった経緯で彼等の仕事を手掛けることとなったのでしょうか。
DB : 2003年にAppletonっていうバンドのギタリストをしていた。AppletonはAll Saintzにいた姉妹がやっていたバンドだった。ライブの数も多くて、その年のVフェステバルを含んだツアーもやったよ。姉妹の1人のニコル・アップルトンは当時Oasisのリアム・ギャラガーと一緒に住んでいたからリアムとはライブ以外にも日常的に会う機会があったんだ。その年彼のソロ・プロジェクトのレコーディングで演奏して、その曲はリリースされることはなかったんだけど、リアムと同じスタジオ内で過ごすのは凄く良い経験だったよ。

デュラン・デュランと仕事するようになったのは、2004年10月のある水曜日の朝だった。彼らのマネージャーから電話があってギタリストのアンディー・テイラーが病気になったから今週金曜日のライブでギタリストが必要だって内容の電話だった。その日の午後にはもうロジャー・テイラーとジョン・テイラーに会って彼らの曲でジャムしたよ。それが上手くいったから彼らから20曲分のCDを渡されて、翌日のリハーサルまでに覚えてきて欲しいって言われたんだ。その夜はほとんど眠らずに練習して、木曜日にジョンとロジャーと演奏した。サイモン・ル・ボンとニック・ローズはプロモーションの仕事でヨーロッパにいたから、彼らには金曜のサウンドチェックの時まで会えなかった。サウンドチェックは十分な時間があったからショーの前にしっかりリハーサルができて、ラッキーなことに僕は大きなミスを犯す事もなく無事演奏を終えることができたよ。ショーの後にバンドから数日後に控えたアメリカツアーの仕事を依頼された。もちろん僕はOKして彼らとの4週間にも及ぶツアーに出向いたんだ。初めてのアメリカでのライブはアトランタで、観客は18,000人、最高だったよ!

ジャスティン・ティンバーレイクとはデュラン・デュランとの仕事の流れで出会った。アルバム「Red Carpet Massacre」内の”Falling Down”はジャスティンとの共同プロデュースだったからね。彼との仕事は素晴らしい経験だったよ。ファイナルミックスのセッションまでジャスティンと一緒だったからね。彼は僕の演奏と曲中のギターソロに敬意を払ってくれたよ。


Photo by Life By The Pit

MM : それではあなた自身のニュー・アルバム「IN MY BONES」についてお聞かせ下さい。この作品はギタリストとしてのあなたの素晴らしさは勿論、プロデューサー、作曲家・編曲家、マルチプレイヤーとしてのミュージシャンとしての総合力が存分に発揮されており、どの楽曲も完成度が高く幅広い音楽ファンに受け入れられるであろう魅力的なものとなっています。この作品ではどういったことを目指したのでしょうか。
DB : パンデミックとそれに続くロックダウンがなければソロアルバムをやるっていう考えはなかったんだ。ロックダウンの直前に書いた数曲をあるプロデューサーが気に入ってくれて、その中の1曲の短いヴァージョンを作ってくれと頼まれていたんだ。その曲をエディットしている時にボーカルのメロディーと歌詞が突然浮かんだ。凄くインスパイアされた状態でその日の午前中にリリックを書いて、ランチの後にはボーカルをレコーディングした。その曲が ”Leap Of Faith”  だね。曲を書くのも歌うのも凄く楽しかったから、アルバムをやりたいと思ったんだ。数年間かけて貯めていた曲を聴き直して、その内の4曲は新しいアルバムに入れるのにふさわしいと考えた。もちろんその4曲もやり直しが必要だったけど、すぐに作業をスタートしたよ。その後の9ヶ月で他の曲もたくさん書いて、その中から5曲を新しいアルバムに入れる曲として選んだんだ。ほとんどの楽器は自分で弾いたんだけど、最高のミュージシャンにも参加してもらっているよ。
Primal Screamのドラマーのダーリン・ムーニーやFaithlessのドラマーのアンディー・トレーシー、エリック・クラプトンやマーク・ノップラーと仕事しているドラマーのイアン・トーマス、デュラン・デュランのバッキングボーカルのアナ・ロス、同じくデュラン・デュランやレニー・クラヴィッツとの仕事で知られるジェシー・ワーグナー、チェロはクリス・ウォーセー、トランペットのダン・カーペンター、Starsailorのバッキング・ボーカルのジェームス・ウァルシュやアン・ケラーに参加してもらったよ。

MM : “MERCURY ASCENDING”や”BABY, DON’T WORRY”では異国情緒を感じさせる独得のヴァイヴを感じます。
DB : その2曲は歌詞的にはアルバムの中で一番ライトな曲だね。遊び心があって楽しくポジティブな曲になった。”Mercury Ascending” でのアラブ風のストリングスはLed Zeppelin’の “Kashmir”を思わせるって人には言われたよ。東洋のオリエンタルなスケールはずっと好きでデビューアルバムの”Touch The Flames”でも取り入れたよ。
“Baby, Don’t Worry” もエキゾチックな曲で、ギリシャ調のスケールで弾いたダルシマーという弦楽器のパートをイントロとコーラスで使用している。マリアッチ風のトランペットがAメロ、Bメロにクールな雰囲気を与えているね。あるレビューでは映画の007シリーズに合うような曲だって書いてあったね。

MM : “RIPPLES IN THE WATER”では、哀愁溢れるドブロ・ギターや味わい深いスライドバーが曲が持つ魅力を更に特別なものにしています。
DB : そうだね。恐らくアルバムの中で一番ブルースな曲だね。それと同時にアナ・ロスのヴォーカルを重ねることでリアルなゴスペルの趣を加えているんだ。ドブロの音はクールかつダークな風情を曲に与えるところが大好きだね。曲に関しては僕が書いたんだけど、歌詞はジェニファー・アン・ケラーと共同で書いたよ。政治的なメッセージを含んでいるのはこの曲だけだね。歌詞と楽曲がよく調和されている曲になったと思う。

MM : アルバムのタイトル曲である”IN MY BONES”や”SHADOWS”などは、キャッチーで魅力に富んだボーカルによるメロディとクリーンなギターによるリズム、ドライヴしたギターによるソロなどコンパクトでありながらも聴きごたえ十分なロック曲です。
DB : そうだね。この2曲はどちらもアップテンポで体が動き出すような曲になったね。”In My Bones”はアルバムの中でも一番ロックな曲だと思う。この曲にはエレキをスライドで弾いたメロディーに対して、対になるカウンター・メロディーのパート等に面白いギターの音色が入っているよ。曲の半ばにはドラマチックなブレイクがあって、その後勢いのあるギターソロから最後のサビに繋がっているんだ。“Shadows”に関してはほとんどロックダウン前には出来ていたんだ。このトラックを仕上げたらロックダウンが終わる前までにジェニファー・アン・ケラーとズームでテレビ電話して歌詞を一緒に書こうと思っていたよ。この曲が今アルバムのボーカル部分の作詞とレコーディングの最後の仕事だったね。楽曲がカントリー・ロックの雰囲気を持っていたから、僕が1年間住んで、その後も何度も訪れた街であるLAを舞台にした物語の歌詞を書いた。あの街の懐かしい思い出を思い返すのは楽しかったよ。

MM : “WHISPER TO THE WISE”では、美しいピアノの響きとコーラスワーク、幻想的なギターの旋律が胸に染みます。
DB : この曲はStarsailorのシンガーのジェームス・ウァルシュと一緒に書いた曲で、初めはボーカルとアコギだけだったんだけど、そこから時間をかけて発展させて他の楽器を重ねていったんだ。最終的にアコギはピアノに置き換えたよ。ジェームスとアナ・ロスそしてレニー・クラヴィッツやスティーヴ・ヴァン・ザント、デュラン・デュランのバックングボーカルで知られるジェシー・ワーグナーが素晴らしい質感のバックボーカルを重ねてくれたよ。

MM : “WHERE YOU GONNA RUN TO?”では、エモーショナルで聴き手の心を揺さぶるギターソロがとても印象的です。
DB : このアルバムの中で一番激しいギターだよね。ギターソロだけでなくアルバム全体でも一番気に入っている曲なんだ。ギターとヴォーカルだけでビルドアップしていく感じやCメロからソロに入っていくパートも好きだね。

MM : ドラマチックな”LEAP OF FAITH”とそれに続くコーラスワークの素晴らしさが傑出した感動的なナンバー”LET IT WASH AWAY”でアルバムは幕を閉じます。
DB : “Leap Of Faith”がどう生まれたかは前述したけど、そうだね。かなりドラマチックな曲で、ピアノとギターからスタートして、そこから劇的に盛り上がっていく曲になったね。“Let It Wash Away” はアルバム内で一番落ち着いた曲だね。あるジャーナリストはCrosby, Stills, Nash & Youngのようなハーモニーが重なった曲だと表現してくれたよ。アルバムの最後にふさわしい曲だね。リスナーが1枚のアルバムという旅をして希望と共に最後を迎える曲だ。嫌なことは全て忘れてしまおう。心配いらないよ。っていう中身の歌だね。歌詞は僕の父親のロブ・ブラウンとジェニファー・アン・ケラーと一緒に書いたよ。

MM : アルバムで使用しているギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。
DB : 主に使用したギターは63年式のFender Strat、60年代中期のEpiphone Riviera、Fender TelecasterとLes Paulを何本か使ったね。アコギはそんなに使っていないけど、Martin HD 28とGibson Dove Artistを必要に応じて使用した。アンプは主に自分のGhetto 310とAudio Kitchen’s Big and Little Chopper。ペダルはAudio KitchenのBig TreesとFlying Squirrel、それにRoger MayerのVoodoo 1とVoodoo Bluesを主に使用したよ。

MM : あなたのようなプロデュース、作・編曲家、またマルチ・プレイヤーとして総合力の高いミュージシャンを目指す人達のためにアドバイスを頂けますか?
DB : 腕を上げるためには練習と経験を積んでいくしかないね。みんな各々のやり方でここまできたんだけど、自分に関しては主に独学で勉強して、ギタリストになった時は出来るだけ多くの人と多くのバンドで演奏するように心掛けたよ。成功したいのであれば、やるべき事に自分を捧げて集中する事が大事なんだ。

MM : 今後の予定を教えて下さい。
DB : 時期を見計らって今回のアルバムの曲をライブでやりたいと考えているよ。でもただやるだけじゃなくて、曲の力を最大限に発揮してくれる素晴らしいミュージシャンとやりたいと思っている。
今はThe Stand-Insっていう新しいバンドのプロジェクトをやっているんだ。ワールドクラスのミュージシャンと組んで、歴代の最高のバンドが残した曲を演奏するってプロジェクトさ。ロンドンでは観客を入れてライブする予定で、それ以外にもプライベートや企業向けのショーを予定しているよ。それとデュラン・デュランのツアーの再開を待っている。最後にライブした2019年の11月からもう2年近く経っているからね。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
DB : これからもずっと曲作りと演奏を続けていこうと思っているよ。長年にわたってサポートしてくれているファンには本当に感謝しているよ。もしよかったら僕のSNSもフォローしてね。

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Dom Brown Official website  https://dombrown.com/


Dom Brown / In My Bones

1.Mercury Ascending
2.Ripples In The Water
3.In My Bones
4.Whisper To The Wise
5.Shadows
6.Where You Gonna Run To?
7.Baby, Don’t Worry
8.Leap Of Faith
9.Let It Wash Away

https://dombrown.bandcamp.com/