Randy McStine
The Aristocratsのドラマーとしても活躍している Marco Minnemann(マルコ・ミンネマン)と、LO-FI RESISTANCEやThe Fringe、自身のソロに加え、マルコとは、プログレッシブ・ロック・バンドであるIN CONTINUUMで共に活動しているRandy McStine(ランディ・マクスタイン)によるデュオ McStine & Minnemannがデビューアルバム「McStine & Minnemann」をリリース。超絶テクニカルインストバンドであるThe Aristocratsで魅せるドラマーとしての側面とは別にギターやキーボード、作曲も操るマルコと、同じくギター、ベース、ボーカル、キーボード、作曲を手掛け、様々なジャンルの音楽を通じてマルチな才能を発揮するランディによるこのアルバムは、どの曲もロックを基軸としながらも摩訶不思議でキャッチーな彼等独自のスタイルに見事に昇華されており、何度も繰り返し聴きたくなるような中毒性を持った素晴らしい作品となっている。ランディ・マクスタインにデビュー・アルバム「McStine & Minnemann」について訊いた。
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Hiroshi Takakura
Muse On Muse (以下MM) : あなたが音楽に興味に持ったきっかけについて教えて下さい。
Randy McStine (以下RM) : 父親がCDやレコード、ライブのVHSを集めててたから、子供の頃からずっと音楽に触れていたよ。
MM : 当時はどのような音楽、アーティストに影響を受けていましたか?
RM : 父がギターメインのロックに夢中だったから、僕も物心ついた頃にはギターを弾いていたんだ。僕は1988年生まれなんだけど、自分のルーツはブルースやプログレ、ハードロックやメタルなどにある。ギターを始めた頃に影響を受けたのは、ゲイリー・ムーアやスティーヴィー・レイ・ヴォーン、エリック・ジョンソン、マイケル・シェンカー達で、バンドとしてはYES、Jethro Tull、King’s X達かな。他にも沢山のバンドが好きだったよ。様々なアーティストのライブ映像を子供の頃に見る事はまるで別世界の出来事のように見えてすごく魅力的だった。それによって楽器を演奏したいって気持ちになって、家にある物を何でも手に取ってギターを弾く真似をしていたんだ!
MM : あなたは、プロデュース、作詞/作曲、ボーカルからギター、ベース、キーボーに至るまでをマルチにこなす優れたミュージシャンですが、現在のスタイルを創り上げたプロセスについて詳しく教えて下さい。
RM : ありがとう!5歳の誕生日の時に両親がエレキギターをプレゼントしてくれて、それ以来ギターは僕にとってナチュラルな楽器なんだ。それ以外にも音楽への興味と情熱があったから、他の楽器もチャレンジした。いろんなスタイルとやり方でクリエイティブになろうとしたし、独学での勉強や実験を繰り返したよ。音楽に関しては学術的な事以外は何でも学んだ。居心地の良いこなれた場所から離れて、リスクを冒してクリエイティブな事に挑戦する事で得たものは大きいと言えるね。
MM : プロのミュージシャンになろうと決心したのはいつ頃でしょうか? 現在に至るまでのあなたの音楽活動の道のりについて話して頂けますか?
RM : 10才くらいの時にはすでに数年間ギターのレッスンを受けていたんだけど、両親も僕のスキルが際立っている事に気付いていた。そのギターの先生に誘われて先生のバンドのライブで何曲かプレイしたんだ。それが僕のデビューだね。その後の数年間の間で僕の名前は天才少年として知れ渡る事になった。年齢が倍の人達がやってるカバーバンドと毎週バーでライブをした。今思い起こすと凄く有意義なトレーニングだったと思うし、今の人生にも繋がっていると思う。その当時からジョー・サトリアーニやジェフ・ベックのようなスタイルでインストの曲を作曲して、12才、14才のにそれぞれソロアルバムを作った。15才になる頃には、ヴォーカリストとしてのレッスンを受けるよう父から強く勧められた。ギタリストとしてのライブはもう何百回もやってきたんだけど、歌う事に関してはシャイな子供だったんだから、何度も父に説得されてやっと歌い始める事ができたよ。今思うと父は正しかったし、シンガーとしての道に導いてくれた父に感謝している。
キャリアの転機になったのはソロプロジェクトの Lo-Fi Resistance の誕生だったと思う。実は2009年くらいには自分のキャリアの先が見えずフラストレーションが溜まっていたんだ。すでに作曲やライブを10年間やっていたんだけど、音楽をやっていく上で避けられないビジネス的な部分に対して意味が見出せないでいたんだ。でも自分の住んでいるマンションにホームスタジオを作って、それまでのキャリアとは違ったスタイルの曲を書き始めた。ニック・ディヴァージリオに頼んで自分の曲でドラムを叩いてもらうまでは、全ての楽器を自分で演奏していたんだけど、彼と仕事した事によって自分自身に集中する事ができたし自信が芽生えた。それ以降は凄く面白いキャリアを続けているよ。
MM : それでは、デビューアルバムがリリースされた”McStine & Minnemann”について話をさせて下さい。Marco Minnemann(マルコ・ミンネマン)とあなたは、プログレッシブ・ロック・バンドであるIN CONTINUUMでも共に活動していますが、今回、”McStine & Minnemann”のユニットでアルバムを制作することになった経緯について教えて下さい。
RM : 彼と会ったのは2018年の10月、In Continuum のライブのリハーサルルームだね。それ以前にも同じアルバムに参加していたんだけど、僕たちのパートは別々の場所で録音されていたから、個人的には会ったことはなかったんだ。有難いことにデイヴ・カーズナーが彼らのライブのメンバーに誘ってくれたんだ。マルコと演奏したり遊んだりするうちに、僕達は良い化学反応を生み出せる事がわかってきた。数ヶ月後に僕の曲 “Bottom Feeder Blues” でドラムを叩いてもらうようマルコに頼んだ。彼は僕の曲や歌を聴いたことが無かったんだけど、僕のアプローチに共感してくれた。次に僕が彼のソロアルバム「My Sister」での演奏と歌を担当した。そうやってお互いのプロジェクトに関わって行くうちに、僕たちのコラボレーションに大きな可能性が秘められているって事に気付いて、2019年の10月、デュオとして活動するっていうアイデアが湧いたんだ。お互いにアイデアを交換してそのアイデアを試して行こうぜって話になったんだ。
MM : アルバムの曲作りは、どのようにして進められたのでしょうか?
RM : 僕が東海岸、マルコは西海岸に住んでいるから家は遠いんだけど、お互いしっかりとしたホームスタジオがあるからアルバムの全ての曲は別々に録音されたんだ。コミニケーションやアイデアの交換はスムーズに行われたよ。殆どの曲は僕かマルコどちらか片方が書いた曲なんだけど、新しいアイデアを加える余地が残されていたんだ。例えば “Falling Fromo Grace” はマルコから僕に曲が送られてきた時点で全てのパートが出来ていたんだけど、僕は曲をしっかり聴いてヴォーカルのメロディーの大部分とギターの一部などを書き換えたよ。だから最終的には2人で書いた曲って事だね。
MM : 出来上がった曲のレコーディングについてはどのように行われましたか?
RM : 僕らにとって作曲とレコーディングは別々の異なるものではなく、常に同時に行われるものだったんだ。僕もマルコもソロの作品を作ってきているから、プロダクションにおいて全てのパートを手がけるのに慣れているからね。僕が学んだのは、デモを制作している時にこそ素晴らしいパフォーマンスを録音できるって事だね。新しい曲を生み出そうとしている時、非常に大きな情熱や感情が注ぎ込まれるんだ。11月と12月にはお互いのツアーがあったから制作は休んでいたんだけど、年の初めにはすぐに作業に戻って3月にはレコーディングが終了したよ。
MM : アルバムに収録された曲を聴くと、どの曲もロックを基軸としながらも様々なジャンルの音楽のエッセンスが巧みに取り込まれており、あなた達独自のスタイルに見事に昇華されています。
RM : ありがとう!
MM : ミュージックビデオによる映像のアートと音楽がとても良くマッチングしている”Program”について教えて下さい。
RM : ミュージックビデオを担当したのはクリスチャン・リオスだね。彼が歌詞の内容と激しく早い曲調に合わせて映像のコンセプトを考えてくれたんだ。実はあの曲はLo-Fi Resistanceのミニアルバム「The Age Of Entitlement」の為にレコーディングしたん曲なんだけど、2013年に作ったあのアルバムは少し内容が変わっていて全く注目されなかった。当時の僕のファンが求めていた方向性ではなかったと思う。でもあのアルバム作った当時は僕にとって探求と発見の時代だったから、あのアルバムの制作は自分にとって重要だったよ。”Fly” のオリジナル・ヴァージョンが収録されているのもあのアルバムだね。いわゆるDIY的なプロダクションで、僕もマルコも Public Image Ltd や Tubeway Army のようなアーティストが大好きだから、僕らのアルバムにも彼らにインスパイアされたような曲を入れようって話になったんだ。評価されなかった曲を蘇らせる曲ができたし、このアルバム内でもファンからの評判も高い曲になったのが嬉しいね。
MM : “Your Offenses”では、あなたとマルコの多才な2人のミュージシャンによるコンパクトながらもキャッチーで密度の高い良質な音楽が展開されています。あなたのギターソロも聴かせどころとなっています。
RM : 完成に時間がかかった曲だね。マルコに参加してもらうのに完璧な曲だと思ったし彼に話を持ちかけたんだ。シンプルかつ難解な曲でもあるんだけど、様々なレベルの聴き方に対応している曲で、例えば馴染みのある要素が入ったポップ/ロックの曲として楽しく聴く事もできるんだけど、演奏するには難しい内容でもあるし、更に聴き込むとかなり複雑な構造をしている曲なんだ。
MM : “Catrina”は緊張感と美しさが同居した実験的な曲であり、聴き手を惹き込みます。
RM : 僕のお気に入りの曲でもあるし、マルコが素晴らしい仕事をしてくれた曲だね。映画のような曲でもあり、ボーカル、ギター、ベースに対して様々な方法でアプローチして、既存のジャンルや概念を超えたっていう視点においては僕が手がけた曲の中で一番の曲かもしれない。様々なパートのバランスをうまく取らないといけないから、アルバムの曲の中で一番アレンジに時間を使った曲でもある。ダイナミクスがあり、途轍もない空間に持っていかれる感情的な曲なんだ。マルコがこの曲のデモを持ち込んだ時、理解するのにかなり時間がかかったんだけど、いざ自分の歌を入れてみると、自分の深い部分との繋がり感じたんだ。ミックス・エンジニアのフォレスター・サヴェルはアルバムを通して素晴らしい仕事をしてくれたんだけど、特にこの曲に関してはプロダクションの中にもリスナーが心地よく聴こえるような仕掛けがされているんだ。
MM : “Activate”では、ギター、ベースとドラムが生み出すグルーヴ、そしてソウルフルなあなたの歌とギターも聴くことができます。
RM : “Your Offenses” や “Top of the Bucket” と同じように3人組ロックバンドのパワーや美しさを意識して書いた曲だね。別の質問でも名前を挙げたThe PoliceやRush、King’s Xだけでなく、グレン・ヒューズがDeep Purpleに加入する前にやっていたバンド、 Trapezeといったジャンルの定義が難しいようなバンドも大好きで、すごく影響を受けた。アルバム制作時、自分のパートを集中してレコーディングする時にはインスピレーションを得る為に70年代のロックのレコードをたくさん聞いたよ。当時レコーディングされた曲が印象的な理由の一つに余計なものを詰め込まず、空間が残されているっていうのがある。だから ”Activate” は当時の曲のように無駄な要素を除いた曲なんだ。各パートが十分に響き渡るスペースがあるからサウンドも大きく聴こえるんだ。
MM : 美しいピアノが印象的な”The Closer”では、ハリー・ウォーターズ(Harry Waters)の名前がピアノでクレジットされていますが、ピンク・フロイドのロジャー・ ウォーターズの息子であるハリーでしょうか? 彼がこの曲に参加した経緯をお聞かせ下さい。
RM : そう。ロジャーの息子のハリーだよ!彼とは「Cruise To The Edge」っていう4-5日間かけて大きなクルーズ船の上で行われるプログレッシブ・ロックのフェスティバルで出会った。沢山のアーティストとPink Floydの曲を演奏する時間があったんだけど、その時に彼と一緒にプレイしたよ。彼のデュオ McNally Watersとしても出演していたね。 McNally Watersはプログとは全く違う音楽をやっていて大好きになったよ(笑)。彼らの音楽には無駄な音が全くなくて、ソウルフルかつ湿地帯のような雰囲気があって、アメリカ音楽のルーツ的な要素もあるんだ。とにかく僕らはすぐに仲良くなったよ。僕がMcNally Watersのライブのメンバーとして参加するって話もしたんだけど、それはまだ実現していないね。
“The Closer” はアルバム最後の曲なんだけど、面白いエピソードがあるんだ。マルコとアレックス・ライフソンが共演した時、マルコが2曲僕に送ってくれて、1曲は僕が自分のパートを入れてマルコのソロアルバムに収録されたんだけど、もう1曲は日の目を見なかった。それが2019年の4月だったかな。その年の1月はRushのニール・パートが亡くなって僕たちは悲しみに包まれていた。1ヶ月ほとんどRushの曲しか聴かなかったくらいだ。その期間に突然マルコとアレックスのもう1曲の方のコーラスが思い浮かんだんだよ。そこから着想を得て、新しい歌詞と音を付けたんだ。その時はすでに今アルバムの曲は、結果的に収録されなかった2曲を含めて、全て完成していたんだけど、アルバムの最後にはそれまでの内容が無かった事になるような曲を入れたかったんだ。マルコに提案したら、僕があの曲を思い出して、仕上げてくれたことにビックリしていたけど喜んでいたよ。曲の中心になっているのは元々はマルコが書いたサビの部分だから彼と共同でプロデュースした曲なんだけど、クレジットがあるのに彼自身は何も演奏していないって曲は彼のキャリアの中でも初めてなんだ!僕が用意したピアノのパートはあまりにも普通だったからハリーにお願いしてピアノを弾いてもらったんだ。
MM : あなたが使用しているギター、アンプ、ペダルなどの機材を教えて下さい。
RM : ギターのコレクションに関しては大した事ないよ。でもいわゆるスタンダードなもの、Telecasterを二つと Stratocaster、ギブソンのLes Paulを使ってるよ。どちらかというと僕はペダルのマニアだね。いわゆる王道的なサウンドを創り出すペダルだけでなく、少し変わったエキセントリックなサウンドを生み出すペダルも沢山持っているよ(笑)。サウンド・デザインにも興味があるし、イレギュラーなギターの音も好きだから、このアルバムでは一聴してもギターの音とはわからないような実験的なギターの音、独特の空気感を与えてくれるようなサウンドが入ってるんだ。アンプに関しては、僕の家でアンプを強烈に鳴らせる時間は限られてるから、このレコードではUniversal Audioのアンプ・プラグインを何個か使用した。
MM : ファンへのメッセージをお願いします。
RM : このMcStine & Minnemannのレコードは何回も聴いてもらう事で大きな楽しみとなるアルバムだと思ってるよ。もし気に入ってくれたら周りの人達にも教えてあげてほしい。ライブができるような時期になればツアーしたいと思ってるよ。でもまずは僕たちの音楽を知ってほしい。みんな身体には気をつけて。聴いてくれてありがとう!
McStine & Minnemann bandcamp https://mcstineminnemann.bandcamp.com/
Randy McStein official site https://www.randymcstine.com/
McStine & Minnemann
01. Program
02. Falling From Grace
03. Your Offenses
04. Catrina
05. Top Of The Bucket
06. Tear The Walls Down (No Memories)
07. Fly
08. Activate
09. The Closer
10. Voyager