Vol.109 Sonny Landreth / May 2020

Sonny Landreth


Photo by Greg Miles

匠の域に到達した変幻自在のスライド・バーを駆使し奏でる珠玉のブルース・ロックで聴き手を魅了するSONNY LANDRETH(サニー・ランドレス)がおよそ5年ぶりとなるスタジオ・アルバム「BLACKTOP RUN」をリリース。今作においても、トレードマークであるそのスライド奏法による圧巻のギタープレイはもちろん、ボーカリスト、ソングライターとして聴き手の心を揺さぶる珠玉のブルース・ロックを創り出している。過去には、エリック・クラプトンのクロスロード・フェスティヴァルにも出演、その実力をエリックからも高く評価されているギターの匠、サニー・ランドレス。珠玉のブルース・ロック作品「BLACKTOP RUN」について訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo by Robley Dupleix

Muse On Muse (以下MM) : 5年ぶりとなる新作「Blacktop Run」は、あなたの表現豊かなボーカルとギタープレイ、そして心地よいバンドのアンサンブル、秀逸な楽曲が揃った真にファンの期待に見事に応えた素晴らしいブルース・ロック・アルバムとなっています。
Sonny Landreth (以下SL) : 毎回アルバムを作る時は、ファンを満足させる事を考えつつもそれまでと違った方向性の新しい事にチャレンジするようにしている。チャレンジする事はクリエイティブであり続ける為に必要な事だし、ファンの為にベストを尽くすという事でもあると考えているよ。

MM : 前作「BOUND BY THE BLUES」についてのインタビューでは、自分が聴いて育ったヒーローでもあるブルース・ミュージシャンたちに対するトリビュートを作りたいとの思いがあったとのことでしたが、今作ではどのようなことを目指しましたか?
SL : 今回のアルバムに関しては、ロック色が強い曲やバラード、ヴォーカル入りの曲やインスト、アコースティックのプロダクションやデジタルのもの、オリジナルソングやスティーブ・コンによって書かれた曲など様々な曲をミックスしてより幅の広いアルバムにしようとしたんだ。既成概念にとらわれることなく、ジャンルの壁を超える作品にしたかったからね。収録されている曲は変化と進化に対する姿勢が産んだ賜物と言えるだろう。興味深かったのは、そういった方向性で作ったアルバムなのに、出来上がりからは統一されたテーマ性を感じる事だね。

MM : アルバムブックレットには、共同プロデューサーにRS Fieldの名前が久しぶりに登場しています。彼との作業はいかがでしたか?
SL : 最高だったよ!彼とは長年仕事を共にしていなかったんだけど、ずっと一緒にやってきたような感覚を覚えた。ボビー(R.S. Field)は複雑な事象を適切に処理して、重要なアート作品として磨きかけることができる天才なんだ。共同プロデューサー兼エンジニアのトニー・ダイグルと僕がボビーをスタジオに招いた時点でレコーディングは90%終えていた。彼はその状態からミックスの方向性や作品の仕上げに関する新しいクールなアイデアを与えてくれて、このアルバムを特別な作品にしてくれたんだ。彼とは今でも良いチームを作れるし、仕事にはとても満足しているよ。

MM : アルバムの曲作りはどのように進められたのでしょうか?
SL : 自分の曲作りは何段階かのステージに分かれる。歌詞やメロディー、ギター奏法に関してのアイデアは自然に湧いてくる。そして言葉や思いついた事、歌詞を書き留める時、それらと一緒にギターを簡単に弾いた音源を録音したり、携帯のアプリでメモしたりして音楽的なアイデアも作っておくんだ。貯めておいたアイデア達を1つの曲として具現化しようと決めた時、自分の中のスイッチを入れて、インスピレーションを招き入れて、深く集中して制作に入る。レコーディングがアイデアを外面に向かって放出していく作業に対して、ライティングはアイデアを構築していく内面的な作業なんだ。プロダクションのゴールである自分の頭の中のサウンドを形にする為にマイクやアンプ、キャビネットや録音する部屋を選択していく。シンプルに言うと曲の背景にあるインスピレーションを具現化する為にベストを尽くすって事だね。

MM : アルバムのタイトル曲である”Blacktop Run”について教えて下さい。
SL : タイトルトラックなので、アルバム全体の方向性やテーマ、精神性を含んだ曲になっている。人間の人生の中に訪れた変化というフィーリングを表現したかったんだ。我々が慣れ親しんだ物事や環境を捨てる時、不安や心配と同時に次のステージで何が待っているかという希望や興奮の気持ちも生まれる。バンドのツアー中にバンの後部座席にいる時にイントロのメロディーと歌詞が頭に浮かんだんだ。今回のように整然とした形でツアー中に歌詞を思いつく事は自分には珍しいんだけどね。車で旅をしている時だったから旅についての歌にピッタリな雰囲気になった。だから曲作りの作業は楽しかったよ。

MM : ダンサブルな”Lover Dance With Me”や力強いグルーブを持つ”Groovy Goddess”では、タイトルが表す通りの躍動感ある曲となっています。
SL : そうだね。ディープなグルーヴが満載の曲だよね?曲を作っている時、心地よく感じるリズム・パターンが正しい方向性に導いてくれる時が時々あるんだ。ドアを開けたままの勢いで良い歌詞や曲を仕上げることができるんだ。「Lover Dance With Me」はスライドを使わないスタンダートなチューニングで弾いた曲だから、アルバムの中でも異色を放っている曲だね。これからもっとレコーディングしてみたいスライドを使わないインスト曲の一つだね。「Groovy Goddess」に関してはもっと古い曲でほとんどのパートは数年前に録音していた。プリプロの段階で発見して久しぶりに聞き返してみると、この曲を作った時の気持ちを思い出させてくれるだけでなく、このアルバムにぴったりの曲だったんだ。「Lover Dance With Me」が官能的で作り込んだ曲にあるのに対し、「Groovy Goddess」は自由で即興的な要素を含んだ曲と言えるだろう。

MM : “Somebody Gotta Make A Move”、”Don’t Ask Me”は、バンドでキーボードを担当しているSteve Connが作曲していますが、これら曲について教えて下さい。
SL : そうなんだよ、古くからの友人であるスティーブ・コンが書いたこの2曲は大好きで長年ライブで彼とプレイしてきている。今回彼の承認の元、違うアプローチでアレンジを施してレコーディングする事になった。誰かの曲をカバーするって事、特に親友であるスティーブの曲をカバーするってのは個人的な出来事だからスペシャルな出来にしたかったんだ!「Don’t Ask Me」はリゾネーター・ギターを使ってデルタ・ブルースとニューオーリーンズスタイルが融合したようなスタイルに作り上げた。ファンキーなグルーブに仕上げることができたし、スティーブのアコーディオンのパートはオリジナル曲で彼が弾いたキーボードとは違う雰囲気を与えてくれた。「Somebody Gotta Make A Move」より近代的な曲で空間的なところが気に入っているよ。かなり前に思い付いて実践していなかった、マイナー7thコードのスライド奏法で弾いた事によりユニークな表情になった。この曲を歌うのが大好きで世界中に残るブルースのスタンダードと成り得る曲だと思う。

MM : “The Wilds Of Wonder”では環境についてのメッセージを投げかけています。
SL : この曲に関しては、ポエムに近い形で全ての詩を書き上げてから作曲に取り掛かったんだ。詩のストーリーに関しては満足していたから、楽曲に関しても全ての音のクオリティにこだわった。満足いく曲にするために3年もかけて30パターンは作ったよ。歌詞そのものに存在感があり、サウンドはその歌詞をよりパワフルにする。その二つが合わさった力はまるでこの曲のテーマである大自然の力ようさ。全ての要素がこの曲のテーマに沿って、映画のように重なり合ったトラックで、とても気に入っているよ。

MM : 歌入りの曲については、歌詞のアイディアはどのようにしてインスピレーションを得ているのでしょうか?
SL : 本、映画、アート、他のミュージシャンによる仕事、会話、人生の教訓など様々なものからだね。心をオープンにしていればインスピレーションはどこにでも存在している。ただし、そのためには謙虚であり、リスペクトを持って物事に接しないといけない。作詞家としては十分に情熱的に欲することが必要だし、十分に勇敢である必要もあり、 失敗を続けてもトライし続ける強靭なタフさも必要なんだ。


Photo by Greg Miles

MM : “Many Worlds”はスケール感のあるドラマチックなインスト曲となっています。
SL : 家でレコーティングしながら書きためた何百個の小さなアイデアの中で、この曲は自分の中の頭の中で膨らんでいって次々にテーマやセクションが繋がっていったんだ。曲のタイトルは制作途中で付けたんだけど、レコーディングを終えても完成する事なく寝かせていた。でもいつか完成させたいと考えていたんだ。ボビーが自分とトニーのミックス作業に合流した時、アルバム用に9曲用意していて、あと1曲は必要だなと考えていた。そこで「Many Worlds」が頭によぎった。アルバムの完成のために加えるのにパーフェクトな曲だったんだ。それから部分的にレコーティングし直した。完成図のようなものは頭の中にあって何をすべきかが自然に湧き出てくるようだったから作業はとても楽しかったよ。この曲はボビー、トニーと僕の3人が集まって制作し、レコーディングして、一気にミックスまで仕上げた唯一の曲だね。

MM : “Something Grand”はアルバムの最後を飾るに相応しい透明感のある美しい曲です。
SL : もしこのアルバムの中で一番好きな曲を挙げるとすればこの曲になるだろうね。非常に個人的な曲でありながら、救済や許しといった不変の真実を語っている曲なんだ。人間の「脆さ」は大きく誤解されていて、「脆さ」が「弱さ」を意味していて常に守ってもらわないといけないという風に定義されているんだけど、自分の脆さを認める事は人間にとって最も純粋で自由な表現の一つなんだよ。この「Something Grand」という曲で僕はそういった深い井戸のような考えを表現することができたんだ。そして興味深いことにギターソロが無い曲になった。自分でも驚いてるよ。

MM : アルバムは全10曲、聴き手は6曲のボーカル曲であなたの歌声や歌詞に込められたメッセージに耳を傾け、そして4曲のインストゥルメンタル曲ではスライド・ギターの匠であるあなたのギタープレイを存分に楽しめます。アルバムを構成する上でボーカル曲とインストゥルメンタル曲の配分についてはどのようにお考えですか?
SL : 感覚的でもあり、挑戦と失敗を繰り返しながら学んだ事を反映させている。重要な事はアルバム全体がどういう感情を与えるかという事。インストやヴォーカル曲かに関わらず曲同士がスムースに移行しているか、曲が変わった時にガッカリしないかが大事なんだ。アルバムが一冊の本だとすると、曲はチャプター(章)に当たる。最後のページを読み終わった時、つまりアルバム全体を聞き終わった時、非常に満足してもう一度読みたくなるかを考えて、その答えがNOならもう一度曲順やバランスを考えた方が良いだろう。もし答えがYESなら、必要な仕事を終えたって事だね。

MM : このアルバムで使用した機材を教えて下さい。
SL :  [以下はサニー提示の機材リストを掲載]
Guitars…
•Vintage 1960 Gibson Les Paul Standard
•Vintage ‘66 Fender Strat w/original pickups
•prototype signature Strat w/DiMarzio DP181 p.up in a Tele bridge plate bolted to the trem block , custom mid & neck noiseless single coil p.ups by Michael Frank Braun at Fender
•’88 Strat with Fishman Fluence single coils
•late ‘80s 1957 reissue Strat with Lindy Fralin p.ups and Suhr Silent Single Coil backplate
•’88 Strat with DiMarzio DP181 in bridge, Virtual Vintage in middle & neck, 2TEK bridge system
•“Frankensteined“ road Strat with Borisoff Trilogy Tuning Bridge, DiMarzio p.ups
•Larry Pogreba “Hubcap” Reso guitar, aluminum body
•’69 Martin D-28

Amp Heads…
•1995 100 watt Dumble Overdrive Special
•1989 75 watt Demeter TGA-3
•1965 Blackface Fender Bassman
•Komet 60 with 6L6s

Cabs:
•mid 60’s 2×12 Fender Bandmaster w/V30s spkrs
•4×12 Marshall w/ Celestion V30s spkrs
•1×12 Dumble w/Celestion GH-100 spkr
•Leslie 900 w/ original preamp pedal

Pedals:
Demeter Fuzzulator Mosferatu drive
Analogman Compressor
Voodoo Lab Giggity EQ
Analogman Chorus
Wampler Faux Tape EchoV2

Tunings, left to right, low to high strings..
(G)
D G D G B D
(E)
E B E G# B E
(Em7) “Somebody Gotta Make A Move”
E B E G D E
(Standard) “Lover Dance With Me”, I didn’t play slide at all on this song
(Am) “Beyond Borders”
E A E A C E

all strings are D’Addario…
for chordal tunings electric guitars:
EJ22set
.013 thru .056
for standard tuning electric:
EXL 120 set
.09 thru .042
for acoustic guitars:
EJ17 Phoshor Bronze set
.013 thru .056 f

Slides…
•Dunlop #215 Pyrex for electric gtrs
•Chrome plated Steel tube cut from Harley Davidson handlebars for acoustic gtrs

Picks:
IKEDA flat/thumbpick manufactured in Japan.
Acrylic nails on 1st, 2nd &3rd fingers right hand

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
SL : コロナウイルスによるパンデミックにより、今年の10月に予定されていた日本でのライブを開催することができないんだけど、延期の日程を調整していて来年2月の終わりに1日2公演のライブを3都市でやる予定だからスケジュールの発表を楽しみに待っていて欲しい。それと同時に僕の音楽に対してのみんなからの応援や評価は自分にとって物凄く価値のある事なんだ。日本が大好きだよ。世界の中でも最高のファンで心から感謝している。来年に会おう!

Sonny Landreth official site  https://www.sonnylandreth.com/


Sonny Landreth / Blacktop Run
1. Blacktop Run
2. Lover Dance With Me
3. Mule
4. Groovy Goddess
5. Somebody Gotta Make A Move
6. Beyond Borders
7. Don’t Ask Me
8. The Wilds Of Wonder
9. Many Worlds
10.Something Grand