Vol.103 Jan Akkerman / November 2019

Jan Akkerman


Photo by Paul Bergen

オランダが誇る伝説的プログレッシヴ・ロック・バンド、FOCUSや自身のソロ活動にてその卓越したギターテクニック、至高の表現力を発揮した創造性に溢れる素晴らしい音楽で世界中のミュージシャンや音楽ファンを魅了し続けている巨匠、Jan Akkerman(ヤン・アッカーマン)が8年ぶりとなるソロ・アルバム「Close Beauty」をリリース。最新作においてもその豊かな音楽性を背景とした多彩で素晴らしい楽曲群やそこでの表現力豊かなヤン・アッカーマンのギタープレイ、常に進化しつづけるヤン・アッカーマン・サウンドは聴き手の心を捉えて離さない。今もなお音楽への探求と創造への情熱を燃やし続けるレジェンドギタリスト・ミュージシャン、ヤン・アッカーマンに最高のギター・インストゥルメンタル・アルバム「Close Beauty」について訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo by Paul Bergen

Muse On Muse (以下MM) : 8年ぶりとなるスタジオ・アルバム「Close Beauty」は豊かな音楽性と多彩で美しいギターサウンド、ギタープレイを楽しめるヤン・アッカーマン・ワールドが展開された見事な芸術作品となっています。この作品を作ることとなった経緯についてお聞かせ下さい。
Jan Akkerman (以下JA) : MascotレーベルのCEOであるエド・ヴァン・ゼイルとは一緒に仕事したいねって話を10年前にしていたんだ。マネジメントの問題があってなかなか実現しなかったが、オランダで行われたギターフェスに、ライターとして自分の伝記を書いてくれたジャン・ポール・ヘックが関わっていたから自分も招待された。ジョー・ボナマッサも出演したそのフェスで、ジョーとエドやフェスのプロモーターとディナーをする機会があったんだ。
その時はちょうど26枚組のCDボックスセット(編注:The Complete Jan Akkerman)をリリースしたばかりだったから、エドが新しいアルバムをやらないかってオファーしてくるとは思っていなかったんだけど、結果的にMascot/Provogueレコードとの初の作品になる「Close Beauty」の2枚組LPとCDがリリースされる事になった。
レコーディングに関しては、Knight of The Guitarのイベントをやった時、友人の一人が私の地元のスタジオで働いていて、スタジオを使わないかってオファーしてくれたんだ。すぐバンドに連絡して、何曲かやったんだけど、凄く良い感じだったからそのまま全曲レコーディングしたんだ。ライブのセッティングで殆どの曲を録音したから、聞いた時にそのライブ感が伝わると思うよ。

MM : この作品のコンセプトについて教えて下さい。
JA : コンセプトは至ってシンプルで、対象物と近すぎる距離で物を見た時、その対象の本質が見えなくなるって意味だ。例えば2センチしか離れてない距離でラクダをみてもそれがラクダとはわからないだろ。これは色々な事象に言える事だ。

MM : アルバムの曲作りはどのように進められたのでしょうか。
JA : 私はプロデューサーやバンドメンバーに送る状態でもかなり緻密に構成されたデモを作る。悪魔は細部に宿るって言うからね。メンバーには、1から順番に演奏していく様なプレイではなく、感情移入してプレイしてほしいからな。もし感情が入らなければグルーヴが無い曲になってしまう。
一つ例に出すと”Don Giovanni”のアイデアはちょっと変わった形で生まれた。まず私の事をイタリア人の名前Giovanni Agriuomoで呼んでくる友達がいたんだ。それとは別にブラジルにツアーした時のバンドメンバーに、私の歴代の彼女は二人の関係が終わるやいなや、すぐに私の事を殺そうとするんだって話をしたら、私のことを「レディーキラー」って呼んでくる奴がいたんだ。そこからモーツアルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が思い浮かんだ。私はオランダのクイーンからナイトの爵位を授与されていて、それは「ドン」と同じ意味でかつ私の名前がジョヴァンニだからね。

MM : アルバムのオープニング曲である”Spiritual Privacy”は、ミステリアスな独特のヴァイヴを持ち聴き手を一気にあなたの世界に惹き込みます。
JA : “Spiritual Privacy” は、まずカスタネットに似た音をコンピューターで打ち込んで、そのコードで他のメンバーに即興を弾いてもらった。それがこの曲 ”Spiritual Privacy” の秘密なんだけど、もう言っちゃったからPrivacyでは無くなったね。アプローチとしては現実的かつ非現実的なやり方で、ちょうどマイケル・シューバルが手掛けたこのアルバムのカヴァーアートのような雰囲気だ。ちゃんとスペルが合っているかわからないけど心理学でいうところのコグニティブ・レゾナンス(人が認知している自分の内側の現実と外側の現実に矛盾が生じたときに、その不協和を解決しようとする心の作用)が働くような曲だ。


Photo by Paul Bergen

MM : “”Retrospection”では曲のオープニングでのボリューム奏法、その後にアコースティックギターで奏でられるダイナミクスに溢れた美しい旋律と哀愁味のあるエレクトリックギター、そしてドラマチックに展開されるアレンジが魅力的です。
JA : 私は子供の時から全ジャンルの音楽を聴いていて、その後クラシックに傾倒していった。まず初めに好きだった音楽はフォーク、R&Bとロックンロールだったんだ。ジャンゴ・ラインハルトやエルビス、ファッツ・ドミノ、その後にマイルス・デイビスやウェス・モンゴメリー、名前を出し切れないほどのアーティストに影響を受けたが、とにかく世界中全ての音楽を聴いた事が今の財産になっているよ。 “Retrospection”の第一部、Emotional Debrisはクラシックの作曲家バルトークの曲を基にしている。昔良く聴いた曲だからいつかこの曲をバンドでやらなければと思っていた。それに続く二部の”The power behind the throne”は自分の”House of the King”のアンサーソングだ。3つ目の曲は“Hear The Trees Whistle For The Dog“BBCの第一次世界大戦のドキュメンタリーから着想を得ている。二人の兵士がタバコを吸いながらソンムの戦いに向かう途中、一人の兵士がもう一人に「木が犬笛を吹いているぜ」って言う場面が強く心に残っているんだ。最後の曲は自分のFocus時代の作品Moving Wavesと同じ構成をしている。その中の最後の曲のEuridiceでストーリーが完結する。

MM : “Beyond The Horizon”、”Meanwhile in St. Tropez”など今作でもあなたのダイナミクスに富み表現力に溢れたギタープレイを満喫できます。
JA : “Beyond The Horizon”は私のスタイルとブルースのムードを融合させた曲だ。当初録音した私のパートは自分の家で他のアルバムの全曲と一緒にレコーディングしたもので、1年後にスタジオでバンドと同じ曲をやろうしたんだけど、当時の感覚が戻ってこなくて、タイミングやソロの感じが合わなかった。だからプロデューサーのコーエン・モレナールと相談して最初に録音したテイクにバンドで録音したテイクを上手く合わせた。バンドのヴァージョンは少しテンポが遅かったけど、テクノロジーのおかげでうまく修正できたよ。私は南フランスで休暇を過ごすのが好きで、“Meanwhile in St. Tropez”はそこで過ごした時間からアイデアを得ている。イージーな感じの曲で、海岸線のテラスでゆっくりして、赤ワインのグラス越しに輝く太陽を眺めるそしてグラスの淵に光る一滴の赤ワイン、こんな素晴らしい光景についての曲なんだ。

MM : “French Pride”ではギターのコードワーク、リズムプレイが魅力を放っています。
JA : この曲の元々のタイトルは「French Fries(フライドポテト)」だったけど、プロデューサーが間違えて「French Pride(フレンチ・プライド)」って名前だと勘違いしたんだ。曲やハーモニーが革命的で、ヘヴィなビートに反抗心のようなものを感じたらしいけど、私は驚いて言葉が出なかったよ。

MM : “Spiritual Privacy”でミステリアスに幕を開けたアルバムは、”Fromage”、”Good Body Every Evening”といったキャッチーなエネルギーと希望を感じさせる曲で見事に幕を閉じます。
JA : “Fromage”の元々のタイトルは”Fromage a trois(3種のチーズ)”で、ブルース界の3人のキング(B.B. キング、フレディー・キング、アルバート・キング)に捧げた曲だ。しかし”French Pride”と同じ理由で曲名が誤って登録されてしまった。ただ曲の内容に関しては間違ってないよ!まるでかつての良い時代のボードビル(フランスの歌やダンス等を混ぜた風刺的演劇)のような雰囲気が出ている。
“Good body every evening”はゴスペルをベースに異なるソロがコントラストを奏でている。これをジャズだと言う人もいるがそれは違う。リズムギターが曲に与えるアクセントがリードギターを変化させて、更にスタンダードなブルースのフレーズが良く融合しているんだ。タイトルはベニー・ヒルの曲”Good evening everybody”から取った。

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類についても教えて下さい。
JA : どの場所でもLine 6 Helixマルチエフェクターを使っているから常に同じサウンドになっているはずだね。127あるプリセットのうち2つくらいまでしか使わない。アンプは60ワットのVox AVシリーズを2つ使っている。

MM : 今作におけるギターのサウンド面ではどのようなことを心掛けましたか?
JA : まず小細工なしでクリーンなトーンの音を出す、クリーンな状態で良い音が出るギターを使う。その後にクリーンなアンプでブーストするが、アンプのインプットとアウトプットの目盛は同じ状態にしている。別の言い方をすれば、ゲインが低い状態で明るいサウンドに少しだけアンプの心地よいノイズを加える。そしてゲインを上げた時にギターが叫びを上げるんだ。”Tommy’s Anniversary “の最後のソロが良い例だね。

MM : あなたはギターレジェンドであり、世界中のトップギタリスト達からもリスペクトされている存在ですが、こうして今でも尚、進化・発展を続け多くのファンを魅了する音楽を創り出しています。
JA : 単に私は使い古しのブルースのフレーズを使って退屈な音楽を作るような事はしたくないんだ。明らかに難しい事に挑戦していきたいのさ。

MM : あなたは音楽の世界で長きに渡り活躍し続けています。最近ではテクノロジーの発展により誰もが自身の音楽を容易に世界に向けて発信できるプラットフォームがあり、音楽を聴く形態もレコード、CDからストリーミングに移行しています。最近の音楽シーンについてあなた自身はどのように感じていますか?
JA : 確かに面白い時代になってきていると思う。音楽がカセットやレコード等の固形の物体であった時代から液体のような物体へと変化している。昔に”Moving Waves”って名前のLPを出したけど、今の時代はまさに“Moving Waves”がUSBスティックからパソコンに、さらにまた別の場所にMovingしてしまう感じだね。特に不満はないよ。クオリティが全てであって、その他のノイズやシーケンスさえ無いような音楽がある中でクオリティがある音楽だけが突出するのさ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
JA : みんなには今のままの美しい自分自身でいて欲しい。また会えるのを楽しみにしているよ。

Jan Akkerman official site  https://www.janakkerman.com/


Jan Akkerman / Close Beauty

01. Spiritual Privacy
02. Beyond The Horizon
03. Reunion
04. Close Beauty
05. Retrospection (Emotional Debris-The Power Behind The Throne-Hear The Trees Whistle For The Dog-Euridice)
06. Passagaglia
07. Tommy’s Anniversary
08. Don Giovanni
09. Meanwhile in St. Tropez
10. French Pride
11. Fromage
12. Good Body Every Evening