Jordan Rudess
Photo by Jerry Lofaro
ドリーム・シアターのキーボーディストとして、その卓越したテクニックと驚異的なインスピレーションにより創造する壮大なサウンド・ライブラリーにてバンドを支えるジョーダン・ルーデスが自身のソロ・アルバムとしては4年ぶりとなるアルバム「WIRED FOR MADNESS」をリリース。
「WIRED FOR MADNESS」は、ジョーダンの音楽に対するジャンルを超越した造詣深さや類まれなるコンポーザーとしての才能、驚異的なキーボードプレイヤーとしてのテクニック、サウンドクリエイトの能力が見事に融合し昇華された聴きごたえのある作品となっている。ゲストのギタリストには、ヴィニー・ムーア、ガスリー・ゴーヴァン、ジョン・ペトルーシ、ジョー・ボナマッサが参加。中でもジョー・ボナマッサとブルースが繰り広げられる”Just Can’t Win”は、聴き手に新鮮なインパクトを与える。キーボードの魔術師、ジョーダン・ルーデスに会心作「WIRED FOR MADNESS」について訊いた。
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Hiroshi Takakura
Photo by Jerry Lofaro
Muse On Muse (以下MM) : 今回のソロ・アルバム「Wired for Madness」は、あなたの音楽に対する造詣深さや類まれなるコンポーザーとしての才能、卓越したキーボードプレイヤーとしてのテクニック、サウンドクリエイトの能力が見事に融合し昇華された聴きごたえのある素晴らしい作品となっています。ソロ・アルバムを制作することとなった経緯についてお聞かせ下さい。
Jordan Rudess (以下JR) : 自分にとって、常にクリエイティブな試みをしていくというのが人生の中心にずっとあった。ロックを基調とした前回のソロアルバムを出してからしばらく経ったけど、その期間に多くのインスピレーションを受けて、自分の中に築き上がったものがあり、ようやくソロアルバムの制作の為の時間を作ることができた。Mascotレーベルとサインした事もこの今作の実現を後押ししてくれたよ。アルバムを作るのは大変な作業だから、レーベルのサポートは本当に重要なんだ。
MM : 「Wired for Madness」ではどのようようなことを目指しましたか?
JR : ミュージシャンとしての自分自身を表現するアルバムを作りたかった。クリエイティブな過程においての障害を全て取り除き、マインドをオープンにして自分の音楽に忠実な作品にしたかった。自分が影響を受けた様々なスタイルの音楽を一つにまとめることは自分にとって自然な事だとずっと感じていたし、作曲家としてこういったアルバムを世に出したいと考えていたんだ。
MM : Dream Theaterの新作「Distance Over Time」がリリースされて間がないですが、「Wired for Madness」も並行し準備していたのでしょうか?
JR : アルバムのほとんどはDream Theaterのツアーやレコーディングの合間に作った。いつもスケジュールのに空きができるから、たまたま一定の期間が空いた時、Dream Theaterの仕事から離れた時間を生かしてソロアルバムの制作を始めて、アルバムの大部分を書き上げる事ができた。そこから追加の作業や、ゲストを迎えてのレコーディングなどはDream Theaterのレコーディングと並行して作業した。
MM : アルバムの曲作りはどのように進められたのでしょうか?
JR : ほぼ全ての作業はパソコンとその前に置かれたMIDIキーボードで行った。昔は本当にたくさんのキーボードを使っていて、Midi信号がスタジオの中を行き来していた。俺は部屋の中をウロウロして、どこの信号がどのシンセに行くのかをチェックする必要があった。でもここ数年は多くプラグインシンセを処理能力が高いコンピューター上で使うスタイルになっている。とは言ってもKorgのシンセKronosの実機を使って作業した曲もある。そのシンセだけが持つ特定の音を使いたい時もあって、Kronosの中には長年かけて作りあげたプリセットが入っていてるからね。そういった自分の音以外を使う時は、ほとんど全てのサウンドをプラグインで作ってるよ。ピアノにはSynthogyのIvoryを使っている。8Dio、Best Service、East Westのプラグインをオーケストラサウンドに、SampleLogic、SpectrasonicsやOUTPUT、Heavyocityのプラグインも俺が描き出す作品の大事な原材料になる。全てのレコードは俺のMac上のLogicに録音されて、キーボードの音を録り終わったらスタジオに持って行き、それを俺のエンジニアがProToolsに落とし込むという流れだ。その後、ゲストとなるミュージシャンを招いて他のパートを録音したトラックをProToolのセッションに加えていく過程になる。
作曲のプロセスに関しては何通りものやり方があって、ピアノの前に座って自然に浮かんだ曲から始める時もあるし、例えばヴォーカルが入る曲であれば、何もない所からメロディーが浮かぶことも多いんだ。他には面白い音色を見つけて、その上に音を重ねて行って自分の描くヴィジョンに近づけて行く事もあるし、リズムセクションやパーカッションから曲を書き始める事も時々ある。このアルバムには素晴らしいドラマーが参加してるんだけど、それだけじゃなくドラムマシーンを多くの箇所で使って曲にドライブ感を与えている。
MM : アルバムのタイトル曲である”Wired for Madness Part1″は11分49秒、そして”Wired for Madness Part2″は22分40秒に及ぶドラマチックで壮大かつユニークで奥深い楽曲です。
JR : 作曲において自分自身に限界を与えたくなかったんだ。聴く人が素晴らしい音楽の旅を経験できるようにクラシック音楽のセオリーで作曲した曲だ。簡単な曲を作るのとは訳が違うよ。壮大な物語を表現するようなアイデアとコンセプトでタイトル曲を作るのは楽しかったよ。こういったアプローチをする事で、普段使わないエキゾチックな音、面白いドラムのパターンや、少し変わったオーケストラの音を使うことができたんだ。このアイデアを気に入って、当初はタイトルトラックのみでアルバム全体をやろうと思っていたけど、曲を書き終えた後に、妻のダニエレからのアドバイスを受けて、もう少し簡単に楽しめるような曲調と構成を持った曲も作ることにしたんだ。もちろんアルバムの中でシンガーとして参加した事も楽しかったよ。クレイジーでプログレッシブなロックだけでなく、聴きやすいスタイルの音楽も大好きだからね。
MM : “Just Can’t Win”でのジョー・ボナマッサとの共演はとても新鮮な驚きです。
JR:今契約してるMascotレーベルの看板アーチストの1人としてJoe Bonamasaがいることは知っていたし、ブルースな曲をやってみたかったんだ。実際に曲として具体的に作った事はなかったんだけど、ブルースはずっと好きで俺の周りの人間は俺がナチュラルにブルースを弾ける事をみんな知っている。だからジョーに連絡して、俺の曲で一緒にやってくれるかって聞いたら、すぐに返事がきて快諾してくれた。俺は感動して、この曲を書いたんだ。ブルースをメインに少しプログレの要素をミックスさせていて、ブラスセクションもフルで使った。全力で作りあげたブルースを作るのがすごく楽しかったよ。
MM : この曲でのブラスサウンドやジョー・ボナマッサのギターとあなたのピアノが弾き出す素晴らしいブルースは、アルバムに素敵なアクセントを与えていますが、あなた自身はこの曲についてどうとらえていますか?
JR : もっとブルース・スタイルの曲を作りたいって思ってるよ。みんな知ってるように俺は様々なスタイルの曲に興味があるミュージシャンなんだけど、全てやりたい事をやるには時間が足りないからね。恐らく次に作る作品でもブルースの曲をやると思うよ!
Photo by Jerry Lofaro
MM : このアルバムでは他にゲストギタリストとしてジョン・ペトルーシ、ガスリー・ゴーヴァン、ヴィニー・ムーアが参加しています。
JR : 自分の作品の中で彼らみたいな偉大なギタリスト達と一緒にやれてラッキーだよ。ジョンは親切にこのアルバムの為に時間を取ってくれた。俺達は音楽的な兄弟みたいな関係で、彼のプレイは大好きだから彼がこのアルバムに彼の世界観を加えてくれた事は、俺に取ってすごく重要な事なんだ。ガスリー・ゴーヴァンは最高のギタリストで、彼と仕事する機会があれば迷わず即答するような存在だ。彼には「Off The Ground」という曲でプレイしてもらったんだけど、ちょっと変わった感じでコード進行して行く面白い曲で、素晴らしい仕事をしてくれた。ヴィニー・ムーアとは長年の付き合いで、彼のソロアルバム「Time Odyssey」に俺が参加したのはもう何十年も前の事だ。お気に入りのギタリストに1人で彼に自分の曲に参加してもらうのはいつも最高だよ。
MM : ドリーム・シアターからはジョン・ペトルーシと共にジェイムズ・ラブリエも参加しています。曲調によってはあなたのソロ・アルバムでありながらドリーム・シアターとなってしまう可能性もありましたが、この点についてはどのようにコントロールしましたか?
JR : 自分の曲のサウンドが、Dream Theaterのように聞こえる事に関しては何も心配していないんだ。Dream Theaterとは違うベクトルのアイデアがあるからね。ジェームスは、タイトルトラックの最後に美しい存在感を放ってくれた。彼の歌声は力強く、曲の構成との相性も見事に合っていたんだ。俺にはジュリヤード・スクールでクラシックを学んだようにクラシックが音楽的なバックグラウンドとしてあり、そこからエレクトロ・ミュージックに移ったから、プログレの曲を作る時は、俺の音楽性が自由に放たれて、Dream Theaterの時とは違う方向性へと簡単に向かう事ができると思ってる。けれどもDream Theaterでの仕事は自分の音楽人生の中の大部分を占めてきたから、俺の音楽にDream Theater的な要素は当然あるんだけどね。
MM : 今作ではボーカリストとしてのあなたの味わい深い歌声が披露されています。
JR : 自分で歌うのはとても楽しいよ。しばらくレコーディングしていなかったんけど、このアルバムでの自分のボーカルには満足している。曲作りをしている時もボーカルのパートは自然に浮かんでくるし、自分が歌う曲を作る時の良い点は、自然に自分のボーカルの音域の曲を作れる事だね。俺は技術的には歌手ではないかもしれないけど、自分の曲の中でボーカリストとして自分を表現するのは、とても音楽的な事だと思う。
MM : 今作でも多彩で豊かなあなたのオリジナリティに溢れたキーボードサウンドを聴くことができます。シンセなどにおける音作りについてのあなたのアプローチ方法についてお聞かせ下さい。
JR : キーボードのサウンドに関しては、様々な色の絵の具をパレットに乗せる絵描きのようなイメージでアプローチしているよ。最近は本当に色々な優れたキーボードがあり、使える音の種類には数限りがないから、自分の音のパレットで作業するのはすごく楽しいんだ。よくやるのは好きな音を探して、パラメーターをいじって、完全に自分が求めている音に近づける作業だね。スタジオにこもって、求めてる音を探して、そこから様々な色を混ぜていき、自分がゾクゾクするような、又は心地よいと思うようなハーモニーを作って行くのが大好きなんだ。自分のやり方には限界がないから、今アルバムで使ったシンセのトラックは約50種類にも及ぶ。色々な意味で今作は自分がイメージしたサウンドを使って作りあげた真のスタジオ・アルバムなんだよ。
MM : アルバムで使用したキーボード、機材を教えて下さい。
JR : さきほど話したプラグインとKorgのKronos以外には、Druzkowskiの8弦ギターのWizardカスタムモデルと自身のiOS用のWisdom MusicのGeoShredを使った。
MM : ドリーム・シアターとしては「Distance Over Time」のリリース後にツアーが始まっています。ツアーの手ごたえは如何ですか?
JR : Dream Theaterは素晴らしい時間を過ごしているところだ。新しいアルバムが成功し世界中で愛されている事、そして俺が初めて参加したアルバムから20年間が経って、その間の思い出、この2つがこのツアーがスペシャルである原因になっているんだ。全てのショーのチケットは売り切れていているから、ライブがエキサイティングなものになる事は間違いない。俺たちは本当に最高の時間を過ごしているよ。
MM : ドリーム・シアターの次回の来日はいつ頃になりそうですか?
JR : 実際の日付は決まっていないんだけど、2020年内には行く事になるだろう。世界中でも日本はお気に入りの場所だから、いつも行く事を楽しみにしている。日本の文化や人が大好きだから、みんなで早く行きたいと思ってるよ。
MM : ファンへのメッセージをお願いします。
JR : Dream Theaterのアルバムとそのツアーや、自分のソロアルバムをリリースできた事で今最高の時を過ごしている。このアルバムをリリースするのに、言葉では表せないくらい興奮してるし、日本のファンからの反応を聞くのもとても楽しみだよ。素晴らしいサポートをいつもありがとう!そしてこれからももっともっと自分の音楽を提供するのを楽しみにしているよ。
JORDAN RUDESS / WIRED FOR MADNESS
1. Wired for Madness – Part 1
2. Wired for Madness – Part 2
3. Off the Ground
4. Drop Twist
5. Perpetual Shine
6. Just Can’t Win
7. Just for Today
8. Why I Dream